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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
2章 ACT1

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第3話 異世界ではよくあるやつだろう

 崖際の道で、夜霧たちは竜と対峙していた。

 黄金のドラゴンはゆっくりと羽ばたきながら滞空している。

 巨大な翼と二本の足を持つそれは、ワイバーンと呼ばれるタイプのドラゴンだ。

 雷光を纏う体は、これまでに見てきたドラゴンたちよりもはるかに大きい。その猛禽類に似た(あしゆび)は、夜霧たちの車を鷲掴みにできるほどだった。

 巨大な瞳は確実に夜霧たちを捉えており、あたりは重苦しい雰囲気に包まれていた。


「むっちゃ睨まれてるんだけど!」


 知千佳が怯え混じりの声をあげる。

 そのドラゴンは、その気になればいつでも夜霧たちを攻撃できるはずだが、今のところは空中に止まっているだけだった。


「様子見ってところか? まあ、何もしてこないならほっといて移動してもいいんじゃ?」

「いやいやいや、無理でしょ! あれ、サンダー放つ気、満々でしょ!」


 知千佳はそう言うが、無機質なドラゴンの表情からは感情を窺うことができなかった。

 それに夜霧はまるで殺気を感じていなかった。攻撃に転じるつもりなら多少は殺気が洩れるものだ。つまり、今のところは安全ということだった。

 なので、夜霧はしばらく待つことにした。ドラゴンが何をしにきたのかに興味があったのだ。

 だが、何も起こらなかった。

 ドラゴンはただ浮いたまま、夜霧たちを見つめているだけだったのだ。

 最初は怯えていた知千佳も段々とこの様子に違和感を覚えてきたようで、首をかしげている。

 もういい加減移動してもいいのではと夜霧が思いはじめたところで、ドラゴンが動いた。


「合格だ」


 低く重い声を発したのだ。

 そしてドラゴンはその翼に力を込めた。力強く羽ばたき、この場を去ろうとしているようだった。


「え、っと合格? ま、なんかわかんないけど、どっか行ってくれるみたいだしよかったよね!」


 知千佳は安堵していた。わけがわからない部分はそれほど気にならないらしい。


「待てよ」


 だが、夜霧は飛び去ろうとしているドラゴンに呼びかけた。


「ってなんで呼び止めてんの!? いなくなるならそれでいいじゃん!」

「ほっといて移動するって言ったけど、言葉がわかるなら話は別だろ」

「えー? 触らぬ神に祟りなしっていうかさぁ」


 知千佳がぶつくさと言っているが、夜霧はさらに呼びかけた。


「さっきの光景を見てたならわかるだろ。逃げたら殺す」


 これはただの脅し文句だ。逃げたとしても殺すつもりはない。

 だが、ドラゴンはその動きをぴたりと止めて空中に静止した。


「その羽、関係ないんかい!」


 知千佳がツッコむ。

 ドラゴンが空中で固まっているのは、どこか奇妙な光景だった。


  *****


「ぬぉおおお! 喋らずにそのまま飛び去ればよかったというのかぁああああ! なんか言わんと間がもたんような気がしたのじゃが、それが間違っておったのかああ!」

「まあ、そのまま黙って飛んでったらほっといたかな」

「えーと、高遠くん? 何普通に話してんの?」


 夜霧たちの前で、小さな女の子がごろごろと転がっていた。


「なんでこのドラゴン、人間になってもだえてんの!?」

「俺に聞かれても知らないよ」


 知千佳が言うところのゴールデンサンダードラゴンは、幼い少女の姿になっていた。


『異世界ではよくあるやつだろう。ドラゴンやら狼やらはすぐに、のじゃロリになったりするものだ』


 知千佳の背後霊であるもこもこが一人で頷いている。よくあると言われても夜霧にはわからなかった。

 ごろごろと身もだえていたドラゴンだったが、そのうちに気がすんだのか、姿勢を正してその場に正座する。


「いや、そのじゃな。人の男と話す時はこういう姿になった方がウケがよいと聞き及んだのじゃが」

「そんな話どっかで聞いたんだけど!? なんなのこの世界の人たち!」


 確か、列車事故の際に出会ったロボットも似たようなことを言っていたと、夜霧は思い出した。


「ま、それはそうとして、なんで俺たちを襲ったの? さっきのドラゴンはあんたの差し金なんだよね?」

「あれは剣聖様に会う資格があるかを試しておったのじゃ」

「剣聖?」


 夜霧はその言葉をどこかで聞いた覚えがあった。


「ああ、確か猫の人がそんな人のこと言ってたよね。剣聖のギフトがどうとか」


 この世界に来てから最初に訪れた街でのことだろう。街の案内をかってでてきた猫の獣人がそんな話をしていたのだ。


「なに!? 剣聖様に会いにきたのではないのか?」


 ドラゴンの少女は大げさに目を見開いた。


「うわぁ。なんかとばっちり感がすごい!」

「ここを通って王都に行こうと思ってただけなんだけど」

「嘘を言うでない! こんなところを通って王都に行こうとするものなどおらぬわ!」

「そう言われてもな。ハナブサの人は通れそうなこと言ってたけど」

「あやつらは汽車しか使っておらんぞ?」

「……確かに、実際に行ってみたってわけじゃないよね、リョウタさんも……」


 工事の際に使っていた道があるから行けるだろう。その程度の感覚だったのかもしれなかった。


「まあよい。この峡谷には剣聖様がおられてだな、お目にかかることができればギフトを授けてくださるのだ。だが、誰でも彼でも通しておっては剣聖様も大変じゃからの。ここでふるい落としておるわけじゃ」

「ドラゴンがあんだけ出てきて、口からなんか飛ばしてきたら、誰も辿り着けないんじゃないの?」

「あの程度の攻撃を凌げぬようでは、剣聖様に会う資格はなかろうな!」


 なぜか少女は自慢げだった。


「ま、そういうことなら、俺たちには関係ないってことだね。行こうか」

「だよね」


 夜霧たちは車に戻ろうとした。すると、ドラゴンの少女は夜霧たちの前に立ちはだかった。


「合格じゃとゆーたろうが!? 剣聖様に会っていかんのか!」

「別に。もしかしたら俺たちを狙ってやってきた何かかと思ったんだけど、そうじゃないみたいだし」


 敵なら背後関係を聞きだそうと思っていたが、そうでないなら用はなかった。


「いや、その、合格とゆーた手前、それは困るんじゃが! 見込みのある奴は連れてこいと言われておるし!」

「でも逃げようとしてなかった?」

「普通、手下が皆殺しにされたら逃げるじゃろ!」

「じゃあ、なんでわざわざ俺らの前にやってきたんだよ?」

「手下のブレスでぼろぼろになったところに、さらに儂がやってくることによって絶望を与える手はずだったのじゃ! けれど、悠々と飛んできたら手下が全滅しておるし、かと言って姿を見られた以上、慌てて引っ込むのもかっこわるいじゃろうが! じゃから合格を告げにきたという体で悠々と去れば威厳を保てると思ったのじゃ」

「あんたが間抜けなのはわかったけど、俺らを剣聖に会わせてどうするんだよ? そもそも、ほんとに見込みがあるの?」


 夜霧たちはギフトを持たない無能力者だ。偽装はしているが、それは一般人を装うためにすぎない。ほぼ無能に見えることには変わりなかった。


「儂はギフトの強弱で判断はせん。手下がまとめて殺されたのは事実じゃからな。お主らにはそれを成しうる力があるということじゃ」

「でも、本当に剣聖って人には何の興味もないんだけど」


 夜霧はすげなく答えた。


「剣聖じゃぞ!? 賢者に匹敵する存在じゃぞ! その力の一端に触れたくはないのか!」


 賢者を引き合いに出され、夜霧は少しばかり考えた。

 本当に剣聖が賢者と同等の力を持っているのなら、日本への帰還に関して何かヒントが得られるかもしれない。


「どう思う? 剣聖について知っておくのも悪くはないかもしれないけど」


 夜霧は知千佳に聞いた。


「うーん。けどさ、ただでさえ迷ってるのに、寄り道してる場合じゃないような」

「それか! よしわかった! 道案内をしてやろう! どうせお主らだけではここを抜けて王都に辿り着くことなどできんのじゃからな! 悪い話ではあるまい! とりあえず剣聖様に会ってくれれば、王都まで連れていってやろうではないか!」

『ふむ。そういうことなら悪い話ではないのではないか? どうせこの後も迷いに迷うだけであろう?』

「だったらいいのかな」

「じゃあ、一応会ってみようか」


 王都へ行くのはクラスメイトと合流するためだが、最優先というわけでもない。見聞を広めるのも重要なことだろうと夜霧は考えた。今後何をするにしても情報は必要になってくる。


「うむ。儂はアティラと言う。お主らは?」

「高遠夜霧」

「壇ノ浦知千佳。よろしくね」


 こうして二人は剣聖に会いに行くことになった。


  *****


 三人は装甲車に乗り込んで移動を開始した。

 いつものように運転は知千佳で、夜霧は助手席だ。アティラは夜霧の膝の上に座っている。

 峡谷は迷路のようだった。これでは案内なしに抜け出すのは難しいだろう。

 そもそも汽車以外で王都に向かう者はいないらしい。汽車が開通する前は、峡谷を避けて大きく迂回していたらしかった。

 しばらく進むと緑の木々が見えてきた。

 茶色い岩肌と地面ばかり見てきたので、夜霧はほっとした心地になった。乾ききったこの峡谷にも多少の潤いはあるらしい。

 木々の合間を抜けて進んでいくと、開けた場所に出た。短い草花が生えているぐらいで、特に何があるわけでもない空間だ。


「え? なんで?」


 だが、広場の様子を見た知千佳は驚きの声をあげた。そこに人があふれていたからだ。

 剣聖がいると聞いていたので、向かう場所に少なからず人がいることは予想できた。だがざっと見ただけでも百人を超える人数がここにいる。これは夜霧にとっても予想外のことだった。

 広場にいるのは雑多で統一感のない人々だ。おそらくは彼らも剣聖に会いにきたのだろう。


「もしかして剣聖ってすごい人気者?」


 夜霧はアティラに聞いた。事情は知っているはずだ。


「知らぬということは、本当にただの通りすがりなのか……。今日はな、聖王の騎士を選抜する日なのじゃ。見事聖王の騎士となれれば、剣聖に弟子入りできる。つまり、ここにおるのは次代の剣聖を目指す剣士たちということじゃな」

「お前、なんかやっかいなことに巻き込もうとしてないか? なんにしろ約束は守ってもらうからな」


 会うだけでいいのかと夜霧は思っていたが、なにやら雲行きが怪しい。

 人だかりの前で停車し、夜霧たちは車を降りた。


「おい! 乗り物で来るってありかよ! ここまで自力で来るってのも試練のはずじゃねーのかよ!」


 途端にフードをかぶった男が絡んできた。


「そう言われてもね。試練を受けるつもりなんてなかったわけだし」

「はっ! こんな所までご苦労なこったが、てめぇらは失格だよ! 残念だったな!」


 男は見下げ果てたと言わんばかりだったが、返す言葉を夜霧は持たなかった。どうでもいいことで熱くなられても反応のしようがないからだ。


「まだ始まってもいねえのに、失格もなにもねぇよ。ま、ここに来ることもできねぇなら、試練以前の問題だがな」


 だが男への返答は夜霧たちの背後から聞こえてきた。

 声の主は人だかりをかき分けて広場の中央へと進んでいく。

 老人だった。

 顔の皺でかなりの年齢だと夜霧はあたりをつけたが、その歩みは年齢を感じさせるものではない。


『ふむ。できるな。この男が剣聖か』


 その歩みに達人の風格を感じ取ったのか、もこもこが感心したように言う。

 東洋風の着物を着た老人だが、剣は身に帯びていなかった。

 人だかりの中心部に辿り着くと、老人はあたりを見回した。


「多いな」


 老人はぼそりとつぶやいた。

 そして、少し思案してから言葉を続けた。


「俺が止めろと言うまでお前ら殺し合え。残った奴で試練を行う」

「今まで見た人の中だとましな方かな? って一瞬でも思った私が馬鹿だったよ!」


 知千佳が呆れたように叫ぶ。

 夜霧たちの周囲は途端に殺気で満ちあふれた。

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