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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
6章 ACT2

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第16話 知らない人の話に勝手に混ざらない。いいね?

 紅蓮の絆の団長であるホーネットは、定例の報告会に出席していた。

 航海は順調で遅れもなく、問題は特に発生していない。

 周囲にも障害となるようなものは何もなかったし、ここは海のど真ん中だ。何かがやってきたとしても、余裕を持って対応できるだろう。

 なので、今のところホーネットの仕事らしきものは特にない。

 周辺警戒も船内の警護も、専門の部隊が適切に行っているからだ。

 ホーネットは、いわばスペシャルゲストのような扱いだった。

 あの勇者が船に同行するので、航海の安全は確約されたようなもの。

 そういった宣伝と箔付けに利用されているのだ。

 これでいいのか、とはホーネットも思っている。

 だが、仕事の選り好みをしていられる立場でもなかった。

 勇者として有名になりすぎて、逆に仕事が来なくなってしまったのだ。

 ホーネットとしては、どんな小さな仕事でも受ければいいと思っている。

 だが、依頼する側が遠慮してしまうのだ。勇者に頼むなら、勇者にふさわしき依頼をと勝手に思ってしまうのだろう。

 勇者でなければどうしようもない事件が頻繁に起こるわけもなく、ホーネットたちは無聊をかこつことになってしまったのだ。

 現状を憂いているうちに、報告会は滞りなく終わった。

 ホーネットは席を立ち、自室へと向かう。部屋は宿泊棟の上層にある一等船室だ。

 昇降機に乗り、目的階で降りると、水着姿の少女たちに出くわした。


「……姉さん……それはないだろ……」


 浮かれた様子でやってきたのは、姉のディアーネと、妹のミリアナだった。

 ディアーネは大きなボールを抱えていて、ミリアナは浮き輪を掲げている。

 ここからプールまではまだまだ遠いのに、今からその気になっているらしい。


「べ、別にいいじゃない! どうせ暇なんだし!」

「暇って言い切らないでよ……」


 緊急事態でもない限りは特にすることはないのだし、護衛として期待されていないのはわかっている。だが、それでも万が一に備えて待機しておくべきだとホーネットは思っていた。


「別にさぼりにいくんじゃないの。そう、これも任務の一環なのよ!」

「プールに行くのが?」

「プールでだって何が起こるかわかんないじゃない! それにほら! ちゃんと武器は持ってんだから!」


 ディアーネの剥き出しの腰にはベルトが巻き付けられていて、そこに杖が下げてあった。

 ミリアナも同様で、そちらに下げてあるのはショートソードだ。


「……わかったよ。けど、あんまりはしゃがないようにしてよ。体面ってもんがあるんだからさ」

「わかってるって!」


 二人は、意気揚々と昇降機に乗り込んだ。


「ほんとに大丈夫かな……」


 不安に思いながらも、ホーネットは自室へと戻った。


「ただいま」

「ホーくん、お帰りー」

「そこで姉さんたちに会ったよ」


 ホーネットの母親は優雅にお茶を飲んでいる。彼女までが水着で出かけてなくて本当によかったと、ホーネットは思った。


「プールに行くってはしゃいでたわー。水着を持ってきてたのねー」

「そもそもそれがおかしいんだ。最初からバカンス気分じゃないか。自室待機も仕事のうちなのに……」


 愚痴りながら、ホーネットはテーブルについた。


「大丈夫よー。何があっても、ホーくんがいれば!」

「一人じゃどうしようもないケースだってあると思うんだけど」

「海賊が来たぐらいじゃ、対応しないんでしょ?」

「うん。海賊は、別の部隊が対応することになってる」


 では何のためにホーネットがいるのかといえば、海賊などのありふれた脅威ではなく、普通の戦士では太刀打ちできない事態に対応するためだった。

 紅蓮の絆の勇者ホーネットは広く名が知られていた。

 勇者と剣皇と大魔導士とハーレムマスター。

 単独でも最上位に位置するクラスを四種も合わせもっている戦士として、高い評価を得ているのだ。


「それこそ、氷山でもやってこないと、私たちの仕事はないわねー」

「母さん。知らない人の話に勝手に混ざらない。いいね?」


 ホーネットは、乗船前のことを思い出した。

 なぜかこんな南の海で、氷山の心配をしている少女がいたのだ。


「でも、あの人たち船は初めてって感じだったわ! 不安だったと思うのよ!」

「それはそうかもね。そういや可愛い子だったな」


 思い出すと、わずかに脈拍が早まった。


「ホーくん……悪い癖がまた始まった……」

「そんなんじゃないよ!」

「勇者とか剣皇とかってクラスだけならかっこいいのに、ハーレムマスターって……お母さん恥ずかしいわ!」

「別に好きでハーレムマスターになったわけじゃない!」


 ホーネットにはたくさんの恋人がいる。

 特に何をしなくても、いつの間にか女性に好かれてしまうのだ。

 そして、ホーネットも好かれてしまえば悪い気はしなくて、関係を持ってしまう。

 普通なら簡単に修羅場となるところだが、そこはハーレムマスターだ。

 ホーネットと関係を持った女性は、たくさんの恋人の中の一人という立ち位置に満足してしまうのだ。


「じゃあその子はほっとくのね?」

「それは……」


 そう言われると否定はできなかった。

 一度意識してしまうと、もう無視することができなくなっていたのだ。

 これは珍しいことだった。

 普段は、わざわざ求めなくとも相手のほうからやってくるため、自分の性欲について意識することはほとんどない。

 だが今は違う。

 自分の身体が、あの少女を求めているのだとはっきりと自覚できたのだ。

 しかし、母親にそんなことを赤裸裸に言えるわけもない。どう言おうかと考えていると、船が大きく揺れた。


「きゃっ! どうしたのかしら?」


 船体がきしみ、不安になるような音を立てる。

 しばらくして、揺れは収まった。


「何かトラブルかも。様子を見てくるよ」


 これ幸いと、ホーネットは立ちあがった。


「なんか、ほっとした顔してるわー。あとでもう一度聞くからね」


 聞かなかったことにしてドアに向かおうとすると、ドアノブがガチャリと動いた。


「ディアちゃんたちが帰ってきたのかしら?」


 ならばすぐに鍵を開けて入ってくるだろう。だが、外にいる何者かはノブを細かく動かしていた。つまり、そこにいるのは姉妹ではなく、不審者でしかない。


「母さん。気を付けて!」


 ホーネットは母親を後ろに下げて、前に立った。

 しばらくして、ドアが開いた。

 見知らぬ男が二人立っていた。

 一人は二十歳前後の整った顔をした青年だ。

 もう一人はボロを纏った年老いた男で、青年の少し後ろに控えていた。


「さすが一等船室。ピッキング難度も高いってもんだな」


 青年が感心したように言った。


「何者だ!」

「もうちょっと、気の利いたセリフは言えねえもんかね。これだからNPCはよー」


 泥棒なのかとホーネットは訝しんだが、青年はあまりにも堂々としていた。

 ホーネットは鑑定スキルを使った。

 青年の名はヒイラギ・ヨースケ。ギフト持ちで、クラスはVRRPGプレイヤーだ。

 ホーネットは、そのクラス名からは何の情報も読み取ることができなかった。

 プレイヤーは参加者や競技者といった意味だろう。だがVRRPGが何を表すのかは見当もつかなかったのだ。

 レベルは99で、ギフトを得ただけの普通の人間ならそれが上限だ。ステータスもレベルに応じた値であり、スキルにも特筆したものはない。

 鑑定の結果を見ただけなら、まるでホーネットの敵ではないだろう。

 だが、この青年をただの雑魚だと切り捨てていいのか。

 名前の雰囲気からすると、異世界からやってきた可能性があった。

 ならば油断はできない。

 異世界からやってきた者は、特殊なギフトを発現している場合があるからだ。


「まさか、海賊か……!?」


 ホーネットは剣を抜いた。

 だが、いきなり攻撃したりはしない。相手が闖入者であっても、とりあえず様子をみるぐらいの慎重さをホーネットは持っていた。


「違うよ。全然違うよ」

「なら、なんのつもりなんだ。人の部屋に勝手に侵入してくるなんて」

「あ、けど似たようなもんだった。俺、部屋に入るとめぼしい物は根こそぎ持って帰るから」

「なんのつもりだと聞いてるんだ」

「あんた、勇者なんだって? どんな奴か見たいと思ってさ」

「だったら、普通に訪ねてくればいい」

「でもさ、見たことない鍵があったら、ちょっと開けてみたくなるだろ?」

「ふざけてるのか? 今のお前は不法侵入者だ。手打ちにされても文句は言えないぞ?」

「そうそう。ちょっと戦ってみたいとも思ってるんだよ。そっちからくるっていうならそれでいいけど?」

「わかった。強盗の類ということだな!」


 ホーネットには、ヨースケの言動が支離滅裂に思えた。

 あるいは正気を失っているのかもしれないが、なんにせよ狼藉者であることには違いない。

 ホーネットは、動くことなくその場で剣を振った。

 ある程度以上のレベルになれば、剣士の攻撃に距離は関係なくなる。ましてや勇者と剣皇を兼ね備えるホーネットにすれば、数メートルの距離などなきに等しい。

 剣閃から放たれる斬擊は、ヨースケの腕を切り飛ばすはずだった。


「やっべ。こいつ無茶苦茶つえーじゃん! さすが勇者様?」

「何!?」


 ヨースケは斬擊を、壺を構えて防いでいた。

 部屋に入ってすぐに置いてあった、インテリアとしての壺だ。高級ではあるのだろうが、それほど頑丈とは思えない。むしろ繊細な造りであろうそれが、ホーネットの斬擊を完全に受け止めていた。

 ホーネットは、ヨースケが壺を構えるところを見ていなかった。いきなり壺をかまえる体勢になったようにしか見えなかったのだ。


「だよなー。初めて見るとびっくりするよな。視聴者の皆さんはわかってると思うけど、戦術支援システム(TSS)からバレットタイムを発動して壺を取って、壺にロックをかけて壊れないようにしたんだよ」


 壺になんらかの強化を施したのだろうとホーネットは判断した。

 だが壺は片手で持てる程度の小さなものだ。それがいくら頑丈になろうが、それだけで攻撃を凌ぐには限界がある。

 えたいのしれない力がそこには働いている。

 ホーネットは手加減をやめた。


「千滅斬!」


 単発の攻撃が防がれるなら、防ぎきれず、躱しきれないほどに攻撃すればいい。

 飛ぶ斬撃を幾重にも重ねて、面で制圧すればいい。

 ホーネットは、縦横無尽に剣を振るった。

 まともに喰らえば細切れになり、跡形も残らない。そんな技だが、ホーネットは違和感を覚えた。

 今まで重さなど気にしたこともなかった聖剣がやけに重いのだ。

 切り返しの反動で腕を持っていかれそうになり、軌道の制御に余計な力を使わされる。

 だが、そんな苦労も一瞬のこと。技を出し切ったホーネットは、息を切らしながらヨースケを見つめた。

 またしてもヨースケは無傷だった。

 余裕の顔をしているヨースケの前には、老人が倒れていた。先ほどまでヨースケの後ろにいた老人だ。


「やっばいなー。これ勝てっかなー。あー、解説入れといたほうがいいか。このジジイは薬草を孫に届けたいって人で、そーゆークエストのキャラなんだけど、クエスト中は不死身なの。だから盾として使うには最適。こーやってクエスト終わらせずに連れ回せば、便利に使えるんだよ」


 老人は倒れてはいるが、特に怪我をしているようには見えなかった。

 千滅斬を正面からまともに喰らって、五体満足なのだ。


「で、千滅斬とか言ってたけど、今の百滅斬ぐらいじゃなかった?」

「……何をした?」


 思わせぶりなヨースケの言葉に、ホーネットは訊かずにはいられなかった。

 無視できない、あまりにも異常な事態が発生していたからだ。


「何ってゆーか、難易度をベリーイージーに下げただけなんだけどな。ま、今度はこっちの攻撃行くぜ!」


 ヨースケがナイフを投げた。

 それなりの速度で飛んでくる、それなりの攻撃だ。

 ホーネットはそれを躱し、攻撃に転じようとした。

 だが。

 ナイフは、ホーネットの右肩に突き刺さった。

 躱したはずだったし、ナイフ程度が勇者の衣を貫くなどあり得ないはずだった。

 ホーネットは想定外の事態に困惑し、動きを止めた。

 だが、ダメージはたいしたことがない。一瞬の遅滞の後、そのまま攻撃しようとしたホーネットだが、突然の激痛に停止を余儀なくされた。


「ホーくん!」


 母親が、悲痛な叫びを上げた。

 脇腹への攻撃。

 どこから現れたのか、中年の男がホーネットに剣を深々と突き刺していた。

 こうなってはヨースケへの攻撃どころではない。まずはこの男に対応するべきだが、そう思ったところで男の姿は消えていた。


「あー、さすが勇者様。ベリーイージーでも即死ってわけにはいかないかー」


 ホーネットはこの程度ではやられない。

 内臓をえぐられたぐらいなら、戦闘続行は可能だ。

 だが、ホーネットはとまどっていた。

 この男は、今まで戦ってきたような相手とはまるで違う。どう対応していいのかがわからないのだ。


「今のも解説しとこっか。おっさんのほうはスキルだな。攻撃時に一定の確率で、どこからともなく謎のおっさんが出てきて助けてくれるってゆーふざけたのがあるんだよ。これ、俺にもいつ発生するかはわかんねーから、俺の動きを見ててもかわしようがないぜ?」


 召喚術の一種なのだろう。

 だが、そうと知れたところで、ここまで前触れがないと、対応のしようがなかった。


「ナイフのほうは単なるクリティカルだよ。必中防御貫通効果が発生する。で、クリティカルなんて確実に出せるわけないって思うかもしんないけど、クリティカルをストックするスキルがあるんだよな。だから事前にクリティカルを貯めとけば、任意にクリティカルを発生させられるんだよ」


 そう説明されても、ホーネットには意味不明だった。

 たまたまうまくいった攻撃をクリティカルと表現することはあるが、それは回避しても追尾してきて、伝説の装備である勇者の衣を貫くような攻撃であるはずがないのだ。

 ホーネットは気圧されていた。

 力量差ははっきりしていて負けるはずなどないのに、為す術がないのだ。

 もちろん、全力を出せばどうにでもできるはずだった。

 だが、そうすれば船は無事ではすまず、多数の乗客を巻き込むことだろう。ホーネットにはそこまでの覚悟はできなかった。


「面白いな……」


 ホーネットはそう呟き、とまどった。

 何も面白くなどない。そんなことは思いもしていないのに、勝手に口が動いたのだ。


「いいだろう。ここからは俺がやってやる」


 そして、ホーネットの意識は途絶えた。

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