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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
6章 ACT1

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第10話 おめでとうございます。あなたは覚醒にいたりました

 重厚な鎧を着た男が、瓦礫の中に倒れていた。

 三田寺重人だ。賢者の手下に蹴り飛ばされ、建物に激突し、そのままそこに横たわっていた。

 傷は回復していたが、立ち上がる気にはとてもなれなかったのだ。

 打ちのめされていた。

 賢者ヨシフミどころか、その手下にすら勝ち目がない。

 立ち上がったところで、何の意味があるとも思えなかった。

 今のままではどうしようもないのだ。

 この時点で賢者ヨシフミと遭遇するのが想定外であり、準備はまるで整っていない。

 それに、賢者に対抗できうる者として連れてきたラグナが倒れた時点で全ての計画は白紙に戻っている。

 それでも、別の計画を立案すればいいのかもしれないが、そう簡単に頭を切り替えることはできなかった。

 もう何もする気になれず、倒れたままぼんやりとしていた重人だったが、ふと自分が今生きていることに疑問を覚えた。

 あの女は重人たちを殺しにやってきたはずで、重人を見逃す理由がないのだ。

 賢者の手下の実力は圧倒的であり、重人を殺すことなど容易いはずだった。


「なんだよ、あいつ。俺を助けたのかよ……」


 三人には信頼関係があったわけではない。

 お互いがお互いを利用するだけの関係だったはずだ。

 なので玲が重人を助けるはずがない。

 だが重人には、玲が助けてくれたとしか思えなかった。

 玲が魅了の力を上手く作用させ、あの女が重人に止めを刺すのを諦めさせたのだ。


「くそっ……だからってどうしろってんだ……」


 気付いてしまえば、考えてしまう。

 玲は生きていて、賢者たちの元にいる。

 魅了の力が有効なら、しばらくは無事なはずだった。

 少しばかり、重人は気力が湧いてきた。

 もう何もする気になれなくなっていた重人だったが、それでも玲を助けるべきだと思ってしまったのだ。

 何がなんでもというわけではないが、少なくともとりあえずの行動方針にはなる。

 ではどうするべきなのか。

 今までに集めた武装程度では、賢者と帝国に立ち向かうことはとてもできないだろう。

 仲間もなく、一人きりで何ができるのか。

 重人は預言書を呼び出そうとした。

 もう預言書など信用する気はなくなっていたが、預言書がなければ重人にできることなどほとんどない。

 倒れたまま、天へと手を伸ばす。

 預言書を出そうと思いさえすれば、それは手の中に現れるのだ。

 だが。

 預言書は現れなかった。

 いつもと同じように呼び出しているのに、何の変化も訪れなかったのだ。


「なんでだ……なんでだよっ! 出ろよ! それが俺の能力だろうが! 本が出るだけのしょぼい能力だろうがよ! それすらなくなったら俺にいったい何ができるってんだよ!」


 もちろん、賢者にインストールされたシステムの影響下にあるため、常人離れした力は持っている。モンスターを倒せばレベルが上がるし、ステータスは強化されていく。

 だが、そんなことはギフトを持っていれば誰にでもできることだ。

 それだけでは、賢者とその手下どもを倒すことはできない。玲を救出することはできないのだ。


「くそがっ! どうにでも解釈できるゴミみたいな内容のくせにもったいぶんなよ! 出ろよ! 出てこいよ! 頼むから!」

「ひどい言われようですね。けれどまぁ、曖昧なところがあったのも事実です。それについては甘んじて受け入れましょう」


 突然声がかけられ、重人は反射的にそちらを見た。

 少女が立っていた。

 身の丈に合っていないドレスに埋もれるようになっている少女が、重人を見下ろしていたのだ。


「誰だ……」

「誰だもなにも、さっきから必死に呼んでいましたでしょう?」


 少女が見下すように言うが、重人はこんな少女に見覚えはなかった。


「おや、理解できないですか。私こそが、さっきからゴミだのしょぼいだの言われている預言書ですよ」

「……は?」


 なぜ突然現れた少女が預言書を自称しているのか、なぜ話しかけてくるのか。重人にはまったく意味がわからなかった。


「おめでとうございます。あなたは覚醒にいたりました。おかげさまで、薄っぺらくて品位のない雑誌のような状態から、このように格調高い姿へと生まれ変わることができました」

「お前は何を言って……」

「間近に迫る危機から逃れるために、あなたの能力が覚醒したんです。疑問は山ほどあるんでしょうが、今はそんなことで時間を取られているわけにはいかないんですよ。早く移動してください。少なくとも、そこの城壁を越えて向こう側へと」

「だから、何なんだよ! 何のことだかさっぱりわからない!」

「いいですよ、もう。とにかく引っ張っていきますから」


 少女が倒れたままの重人の手を取った。

 そしてそのまま引きずりはじめる。

 少女は見た目以上の力を持っていて、鎧を着たままの重人をあっさりと動かした。


「別にあなたみたいな人がどうなろうと構わない……と言えればどれほどよかったか。ですが、あなたと私は一蓮托生。あなたが死ねば私も死ぬんです」

「それはどういう……」

「今説明したってどうせ理解できないんでしょう? 自分で歩けとは言いませんから、もう力を抜いて引きずられるままでいてください」


 重人は思考を放棄した。どうにでもなれと思ったのだ。

 言われるがままに引きずられると、そこからは早かった。ただ引きずられるだけであってもコツがあるらしい。

 少女は急いで重人を引きずっている。当然、周囲の注目を浴びたが、少女はお構いなしだ。

 少女は城壁に近づいていき、最後には重人を放り投げた。

 重人はごろごろと転がり、城壁を越える。


「何すんだよ!」


 文句を言うべく振り向く。

 だが、そこには何もなかった。

 今までいた街区が、綺麗さっぱりなくなっていたのだ。


「な……」


 あまりの出来事に重人は固まった。

 街並みが、そこにいた人たちが、暴れていた怪物たちが、何もなかったかのように消え去っていたのだ。

 そして、少女も消えた。彼女は重人を放り投げたが、彼女自身は城壁を越えることができなかったのだ。

 少女はこうなることを知っていたのだろう。だからあわてていたし、無理矢理にでも重人を引きずっていたのだ。


「……なんでだよ……。なんで俺なんかを助けて……」

「先ほども言いましたように、私はあなたの能力で生み出されていますので、あなたが生きていればどうにでもなるんですよ」


 重人は、へたりこんだまま声がしたほうを見た。

 重人の隣に、消えたはずの少女が何事もなかったかのように立っていた。


「どうなってんだよ!」

「何度も言わせないでくださいよ……と言いたいところですが、あなたが理解力に乏しいこともわかってきました。危機は脱しましたので、とりあえず移動して、落ち着いてからあらためて説明いたします」


 街のかなりの部分がいきなり消えたのだ。当然騒ぎになりつつあって、いつまでもここにいては怪しまれるかもしれない。

 少女が重人を置いてさっさと先に進んでいく。

 わけがわからない状況ではあるが、重人はとりあえず少女に従うことにした。

 武装を解除して、少女の後をついていく。

 街区をいくつか通り過ぎ、南西街区消滅の影響がほぼなくなったところで、少女はカフェに入った。

 重人も続き、テーブルについた。


「いいですか。理解できなくてもいちいち声を荒らげないでください。鬱陶しいですし、恥ずかしいです。落ち着いて話ができますか?」

「……わかったよ……」


 わけがわからず一々突っかかっていたが、確かにそれでは話が進まない。重人は冷静に話を聞くように努めることにした。


「私は預言書です。こう言うとわかりづらいようでしたら、あなたの能力が変化したんです。先ほどまでのあなたの能力は、薄い冊子を呼び出す能力でした。それが、こんな可愛くて綺麗な美少女を呼び出す能力に変わったのだとご理解ください」


 本が人間になったと言われてもとまどうしかないが、ひとまずはその説明で納得することにした。


「ですが、私の預言書としての本質は変わっていません。私は世界の意思を伝える者なのです」

「預言書を呼び出すのから、預言者を呼び出すように変わったってことでいいのか?」

「まあ、そんなところでいいでしょう。私は自らが本であることに、アイデンティティを持っていますが、それをあなたに押しつけたりはしません」

「街がああなるってのも、預言でわかったのか?」

「そういうことですね。ですが、そもそも危機を無意識に感じ取ったのはあなたで、そのために覚醒したのですが」

「で、人間になったらこれまでと何が違うんだ?」

「預言がわかりやすくなります。そして可愛い女の子がいつでもそばにいてくれます」

「それだけかよ!?」

「わかりやすくなるのは重要でしょう? そもそもあなたが預言をちゃんと解釈できていればもっと慎重に行動できたのでは?」

「……あんなのでわかるかよ……」

「預言とはそもそも解釈にスキルを要するもので、真意を掴みづらいものです。ですが、今後は、その解釈も私が行い、かみ砕いて説明できるようになったわけです」

「とにかく、味方ってことでいいんだよな?」

「ええ。不本意ではありますが、あなたの危機は私の危機でもありますので」


 預言書には落とし穴がある。嘘は書かれていないが、必要なことが全て書かれているとは限らないし、解釈によっては真逆の意味になることすらあるのだ。

 だが、預言者が相手なら相談もできるし、確認もできるだろう。それに、重人が危機に陥っては少女も困るのだ。悪意をもって解釈を誤ることはないはずだった。


「なら、玲を助ける方法を教えてくれ」

「そちらのルートへ向かうんですか……逃げるだけなら簡単なんですけどね」

「逃げてどうなるってんだよ」

「一度逃げれば、戦力を増強するのは簡単ですよ。そうすれば賢者も倒せるかもしれません。ただ、玲さんがいつまで無事でいられるかはわかったものではありませんが」

「最速で玲を助ける方法を教えてくれ!」

「わかりました。その方向で検討いたしましょう。とりあえず、ここは離れましょうか。賢者は街中を一々監視しているわけではありませんが、どこかでばったり出会う可能性もありますしね」


 そう言われて、重人はぞっとした。

 先ほども、皇帝である賢者が、街中でチンピラのように過ごしているなどとはまったく思っていなかったのだ。

 こんな所で遭遇するわけがないと楽観視はできなかった。


「わかった。だが、どうやってあいつらに対抗するんだ?」

「今の段階で、戦って勝つことは不可能に近いです。ですが、救出するだけでしたら戦う必要はありません」

「それでも難しそうだけどな」


 賢者の手下の強さを思い出す。あのような者たちが何人もいるのなら、玲を救出するのは至難の業になるだろう。


「ええ。正面から馬鹿正直に行くのは無理でしょう。ですので花川さんを利用します」

「花川!? あいつ生きてるのか!」


 重人は、今さらながらに花川のことを思い出した。酒場までは一緒に来ていたのだ。


「どのルートに向かってもしばらくは出てきますので、直近では生きていますね。先のことはわかりませんけど」


 預言書の少女が席を立った。


「そういや、お前のことはなんて呼べばいいんだ?」


 ついていこうとした重人は呼び名について訊いた。人の姿をしているのに預言書呼ばわりは抵抗があったのだ。


「そうですね。ナビーでどうですか?」


 そう呼ぶことになった。

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