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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
5章 ACT2

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第18話 それは、ずいぶんと捻くれたものの考え方だね

 朝。

 涼子が目覚めると、部屋の隅にある植木の陰にキャロルが隠れていた。

 涼子としてもそれを隠れているとは思いたくないのだが、身を縮めて息を潜めているので、それはやはり隠れているつもりなのだろう。


「…………ばれた? 寝起きに驚かそうかと思ってたんだけど」


 涼子はじっとキャロルを見つめていたのだ。キャロルもいたたまれなくなってきたのだろう。


「意図したとおりではないでしょうけど、十分驚いてますよ?」

「あー、だめかー。隠れ身の術ってスキルがあったからいけるかなって思ったんだけどねぇ」

「そのスキルに隠形効果があったとしても、真っ赤な忍者装束が効果を阻害してますね」


 キャロルは派手な忍者装束を着込んでいた。

 クラスに対応した装束を着ることによって能力の向上をはかれるのだが、この組み合わせは相性が悪いとしか思えない。


「それで、何かご用ですか?」

「高遠くんたちがいなくなったの、気付いた?」

「そうなんですか?」

「昨夜のうちに出ていったって。リズリーがばたばた騒いでるよ」

「つまり、私たちは置いていかれたと」

「んー、まあ、連れていく義理はないんだろうけど、高遠くんの割り切りぶりは笑えるよね」

「それで、どうするんですか?」


 そう訊いてから涼子は、キャロルがどうしようと関係がないことに気付いた。すっかり仲間気分でいたが、もともと友達でもなんでもなく、ただのクラスメイトにすぎないのだ。


「追いかけるけど、涼子はどうする?」

「なぜですか? 監視の任務は今さらでしょう?」


 連絡手段も帰還方法もない。任務を継続したところでなんの意味もないだろう。


「なぜって……そりゃ死にたくはないからね」


 おそらく、夜霧の側にいるのが一番安全だということだろう。

 この世界はあまりにも危険に満ちあふれている。ここで大人しく隠れていようが、賢者のような理不尽な存在が突然やってくれば、それだけで終わりだ。


「高遠さんたちは元の世界に帰ろうとしています」

「だね。でも、私たちの帰還まではサポートしてくれないかもしれないね」

「いえ。それはおそらく大丈夫でしょう。一緒に行動していれば壇ノ浦さんが見捨てるとは思えません」

「まあ、それは私も期待してるけどね」

「……もし、帰還できるとして、高遠さんがいなくなったこの世界にいるほうが安全ということはないですか?」

「それは、ずいぶんと捻くれたものの考え方だね」


 だが、諒子に言わせれば、キャロルは高遠夜霧という存在を過小評価しているとしか思えない。

 確かにこの世界は危険に満ちている。だが、夜霧こそが、何よりも恐ろしく危険な存在ではないのか。


「……ですが、確かにここに留まる理由もないのかもしれません」


 ここに来たのは夜霧たちに同行していたからだ。

 夜霧たちがいないのなら、半魔と共にここで暮らす意味はそれほどないだろう。

 ここが特別安全というわけでもない。むしろ、危険ですらあるだろう。ここが半魔の拠点であることをいつまでも隠しとおせるとは限らないからだ。


「ねえ。それ、見せてよ」


 キャロルが、枕元を指差す。

 諒子は、そこに置いてあったスマートフォンを手に取った。

 以前、電池がなくなりかけていたが、夜霧が持っていた充電器を借りて充電しておいたのだ。ゲーム機の充電用とのことだったが、用途に応じてケーブルを交換できるようになっていた。


「高遠さんが向かっているのは、東のほうですね」


 このスマートフォンには、監視ツールとしての機能がある。夜霧のいる方角や、能力の封印段階がわかるようになっているのだ。


「スマホで大雑把な方向はわかるし、どうにか追いつけるでしょ。ま、とりあえずは一緒に行かない?」

「そうですね。今後どうするにしても、ここで考えていても仕方がないのかもしれません」


 動きだすことでわかることもあるかもしれない。諒子はそう前向きに考えた。


  *****


「エウフェミアさん! 夜霧さんがいないんですけど!」


 リズリーはエウフェミアの執務室に飛び込んだ。


「はい。市長から馬車を提供したと連絡がありました。それでお出かけになられたのでは?」


 執務机で書類を確認していたエウフェミアが顔を上げた。


「馬車を提供って、それ、もう戻ってくるつもりはないってことですよね!?」

「そうかもしれませんが……我々には高遠さんたちを引き留める権利も、理由もないかと思うのですが」

「そ、それはそうなんですけど……」


 リズリーが勢いをなくした。確かにそのとおりだと思ったのだ。

 夜霧たちは、塔でテオディジアを助けたし、半魔の拠点確保を手伝いもした。

 それが親切心からなのか、ただの気まぐれなのかはわからないが、いつまでも半魔と共にいる理由がない。彼らには彼らの目的があるのだ。


「お願いはできたのでしょう?」

「はい……確約はいただけませんでしたけど……」


 リズリーの元になった賢者レインには双子の妹、セイラがいる。

 レインは遺言で、セイラを殺してほしいと訴えていたのだ。

 正直な話、会ったこともないレインとその妹のことなど、リズリーにとってはどうでもいい話だった。

 リズリーとレインはまったくの別人なのだ。姉がどんな思いで、妹を殺せだなどと言っているのか。その胸の内など知る由もなかった。


「高遠さんも、とまどわれたのでは?」

「そうですね。こいつ何言ってんの? みたいな顔をされました。一番難色を示されたのは、殺す理由がぼんやりしていることですね」


 セイラはレインとは別の要因で不死となっているらしい。

 不死者を殺すために夜霧の力を求めているのはわかるのだが、そもそもの殺すべき理由がはっきりとしないのだ。


「それはそうでしょう。ただ殺せと言われましてもね」

「レインは、会えばわかるとしかメッセージを残してないんです。なんなんでしょうね」

「可能性としては、好奇心を刺激して、やる気のないリズリー様を誘導する作戦だった、などでしょうか」


 レインの頼み事は強制ではないので、リズリーは無視することもできる。

 だが、夜霧への思慕があるので、夜霧に会いにきてしまい、そうなると、夜霧と話をするために、レインの遺言を伝えてしまう。

 おそらくここまでは、レインの思惑どおりだった。


「賢者の石はお譲りになられたんですか?」

「うん。別に持ってても使い道ないし」


 賢者であれば有用なのだろうが、リズリーは賢者ではないし、特殊な力も持ってはいない。賢者の石など宝の持ち腐れなのだ。


「どこかでセイラに会うことがあったら、その時の状況で考えるって」


 セイラの正確な所在地は不明だが、今は賢者ヴァンのもとにいるらしいと、夜霧には伝えておいた。

 もっとも、肝心のヴァンの居場所がわからないので、ほとんど参考にならない情報ではある。

 夜霧は賢者を探しているので、どこかで出会うこともあるかもしれない。そんな可能性に期待するしかなかった。


「では、リズリー様の当初の目的は達成できたのではないですか?」

「そうだけど。そうなんだけど。こんなんじゃ納得できないよ!」

「そうですか? もうフられていますから、これ以上しつこく迫らなくてもよろしいかと思うのですが」

「うう……やっぱり、もうちょっとじんわりいったほうがよかったのかなぁ」

「いえ、高遠さんは、壇ノ浦さん以外にまったく興味を示しておられませんでしたので、何をしても無駄かとは思いますが」

「やっぱり?」

「はい。私もそれなりに容貌には自信があり、男性から好意的な視線を向けられることは多々あるのですが、高遠さんからは何も感じませんでした」


 相当な自信だが、そこに驕りのようなものはない。エウフェミアは事実としてそう思っているだけなのだ。


「エウフェミアさんでも駄目ならどうすりゃいいのぉ!」

「けっきょくのところ恋愛感情などというものは、常に側にいる者に感じるようになっているかと思いますが」


 だから諦めろと言いたいのだろう。けれどリズリーはそうは考えなかった。


「じゃあ、やっぱり会いにいく!」

「何がやっぱりなのかわかりませんが、高遠さんの所にですか?」

「うん! だって私、他にやりたいことなんてないもの!」


 突然この姿で目覚め、それまでの記憶がないリズリーにとって、夜霧への想いはかけがえのないものだった。


「わかりました。では、私も同行いたしましょう」

「え? でも、エウフェミアさん、この街の責任者でしょ?」

「行政に関するほとんどはこれまでどおり市議会が担当しています。半魔の代表程度のことなら、テオ姉ちゃんでもなんとかなりますよ」

「ほんとに、いいの?」

「はい。といいますか、リズリー様一人で、高遠さんたちを追うなど不可能なのでは?」

「……そうだよね……ここまでだって、全部エウフェミアさん任せだったよね……」

「私は、半魔である前に、リズリー様の忠実な僕なのです」


 エウフェミアのそれは、吸血鬼になったことで強制的に植え付けられた感情なのかもしれなかった。

 だが、そんなことを言いだせば、リズリーの夜霧に対する想いも似たようなものだ。

 今そう感じているのだから、それでいいのだとリズリーは思う。


「じゃあ一緒に行きましょう!」


 リズリーは、再び夜霧に会いにいこうと決意した。

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