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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
5章 ACT2

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第17話 上位存在ムーブかましてくる古代なんたら龍

 山頂の砦を壊滅させた後、花川たちは帝都を目指して洞窟の中を歩いていた。

 帝都を目指すだけなら街道を行けば早いし安全なのだが、予言書に従うとこうなってしまうらしい。


「もう、全部こいつ一人でいいでござるよね!」


 魔法の光で照らし出された巨大な地下洞窟。

 中には様々な魔物が潜んでいたのだが、なんの問題もなかった。

 何が出てきても、ラグナがあっさりと片づけてしまうからだ。

 ラグナは、目を見張るような特殊能力を持っているわけではないのだが、とにかく強かった。

 なので、花川が囮として先頭を歩かされていたとしても、なんら危険はなかったのだ。


「あー、あれですよね。なんかオーラっぽいのまとって戦うの、むっちゃ主人公ぽいでござるよね」


 オーラで防御し、オーラをまとった剣で攻撃し、たまにはオーラを飛ばしたりもする。それがラグナの戦闘方法だった。


「オーラって?」


 魔物の群を切り伏せたラグナが、花川に近づいてきた。

 他のクラスメイトたちは、少し後ろで待機している。

 あまり意味のない、花川囮作戦は続行中ということらしい。


「その、身体の周りのもやっとしてるやつでござる」

「ああ。これはそんなすごいものじゃなくて、健康法だよ。うちの村ならみんなやってるよ? 一定のリズムで呼吸すると、身体がぽかぽかしてくるから、湯気みたいなものじゃないかな?」

「どう、見ても湯気ごときではないのでござるが……」


 並の魔物なら触れただけで消滅しそうなそれが湯気程度のはずもないのだが、ラグナは本気でそう思っているようだ。


「豚くん。そこ左」


 行く手を阻む魔物の群が全滅したので先に進もうとしたら、預言者(オラクルマスター)の三田寺重人が指示してきた。


「そう言われましても、道はまっすぐにしか続いておりませんし、壁しかないのでござる。まさか、壁に激突しろというわけではござらんよね?」

「あ、それ面白いからやってみて」


 運命の(ファムファタル)の九嶋玲が楽しそうに言う。


「やぶ蛇だったでござるよ!」

「早くしないと、耳の中の虫が爆発しちゃうよ?」


 花川の耳の中には、創造主(クリエイター)の丸藤彰伸が作った何かがいる。

 それは、花川が命令に背いた際に爆発するようになっているのだ。


「行けばいいんでしょうが!」


 花川は壁に向かって駆けだした。

 幸い花川には回復魔法があるので、壁にぶつかって怪我をしたところでさほど問題はない。


「けれど、痛いのは痛いのでござるけどね!」


 花川は覚悟を決めて壁に体当たりし、そして、何の手応えもなくそのまま前へと突き進んだ。

 衝撃を覚悟していたのに何もなかったのだ。

 あるはずの壁がなく、走ってきた勢いのまま、派手に転倒する。

 顔面から地面に激突し、そのまま滑っていった。


「隠し通路でござるか?」


 花川の後を付いてきた魔法の光が周囲を照らし出す。

 巨大な空間だった。

 前方には石造りの建物が林立している。

 都市なのだろう。だが、そこに人の気配はまるでない。

 それらはいつからそこにあったのか。苔むし、ひび割れたそれらは幾星霜の年月が経過していることを示すかのようだった。

 見上げてみれば、天井までは光が届かず、どれほどの高さなのかもわからない。

 振り返ると、無機質で平坦な壁になっていて、花川が通ってきたあたりがぼんやりと光っていた。

 その光の中から、重人の声がする。


「古代都市だ。オメガブレイドに必要な素材がここあるんだよ。それとここを抜けたほうが帝都に近いから一石二鳥ってわけだ」


 重人は預言者(オラクルマスター)なので、預言書を参照してそれらを知ったのだろう。

 預言書は異世界の手引書であり、攻略本なのだ。


「その、近道なんでござるよね? では、なぜみなさんは来ないので?」


 誰もやってくる気配がないので、嫌な予感がして、花川は訊いた。


「その近道にも、素材入手にも一手間いるんだよ」

「は、ははあ。古代遺跡の謎を解いて、道を開通したり、アイテムを入手したりするのですかな? ですが、ノーヒントでやれと言われましても」


 どうやら一人でそれをしろと言われているようだが、もちろん花川に拒否権などありはしない。


「大丈夫だ。向こうからやってくる」

「それはどういう――」


 それの放つ気配に花川は言葉を失った。

 遠くからかすかに、羽ばたくような音が聞こえてくる。

 まだ姿も見えていないのに、花川はそれが絶対的な支配者の気配だと直感したのだ。


「な……なんなんでござるか!」


 花川の動きは速かった。ここにいてはまずいとすぐに理解し、光る壁に突進したのだ。

 だが、壁は当たり前のように壁だった。

 壁に跳ね返された花川は、ぶざまに転がった。


「ちょっ! どうなってるんでござる!」

「悪いな。ここは一方通行なんだ」

「会話はできるって、どんな仕組みでござるかね!」


 立ち上がった花川は、壁をべたべたと触って確認した。

 頑丈な壁だ。ここを通ってきたとはとても思えなかった。


「なんか! なんか来てるんでござるが!」

「そりゃあ、古代遺跡なんだから、番人みたいな奴はいるだろ」


 羽ばたく音がどんどんと大きくなってくる。

 寒気がした。

 それは、ゆっくりと、絶望的な空気をまとってやってくる。

 そして、背後のどこかに降りたった。


「あー、これ、振り向かないほうましな気がするのですが!」


 だが、花川は振り向いた。確認しないのもそれはそれで恐ろしいからだ。

 それは、古びた建物の上から花川を睥睨していた。

 黒い鱗に覆われた巨躯。

 強靱な四肢に、折り畳んでいてもわかるほどの巨大な翼。

 爬虫類じみた頭部には角を備え、その顎には鋭い牙が生え揃っている。


「ひゃ、ひゃう、ド、ドラゴン?」


 花川は尻餅をついた。

 ステータスが隠蔽されているのか、鑑定スキルはなんの反応も返さない。

 だが、それが並大抵ではないバケモノであることは、鑑定するまでもなくわかることだった。

 それは災害のようなものだ。

 人の手の及ばない、戦おうなどとは思ってもならない存在。

 花川は、動けなくなった。

 何をされなくとも、見ているだけで息ができなくなる。


『定命の者よ、我が聖域になんの――』


 そして、唐突にその首が落ちた。


「はい? おわっ!」


 ドラゴンの頭部がごろごろと転がってきて、花川は尻餅をついたまま後退りした。


「ははっ。花川くんはおおげさだなー」


 いつのまにか隣にラグナが立っていた。

 周囲を覆っていた威圧的な空気はなくなっていて、動けるようになっている。


「え、あの、もしかしてドラゴンを倒したので?」

「ドラゴンだなんておおげさだなぁ。これはおっきな蜥蜴だよ。こんなのなら、僕の村の近くにもいっぱいいたよ?」

「え? いや、さっきなんか喋ってたでござるよね? 定命の者よ、的な? 上位存在ムーブかましてくる古代なんたら龍みたいな奴なのでは?」

「ああ、蜥蜴を肉の状態でしか見たことがない都会の人は知らないんだね。喋るのもいるんだよ。偉そうにしてくるのはハッタリなんだ。弱いなりに知恵を働かせてるんじゃないかな」

「喋るのを殺して肉にしてるんでござるか……」


 若干引き気味の花川だった。


「食料だし、高く売れるからね。そりゃ喋るのを殺すのに抵抗がないっていうと嘘になるけど、命をいただくというのはそーゆーことなんだよ」


 ――なるほど。薄々わかってはおりましたが、やはり勘違い田舎勇者系でござるか……。


 ならばいくら常識を指摘したところで、その勘違いが正されることはないだろう。

 面倒なので、花川はそういうものとして扱うことにした。


 ――ま、まあ、この方は素直でまっすぐで、思いやりがありますし、拙者でも守ってくれますからな!


 花川の生命線ともいえる存在だった。彼がいなければとうの昔に死んでいることだろう。


「ラグナやるじゃん」


 今ごろになって、クラスメイトの三人もやってきた。


「黒閃龍の鋭角はこれだな。ラグナくん、切り取れる?」


 重人が指示する。

 ラグナはドラゴンの頭部から角を切り取った。


「その角がオメガブレイドの剣身になるわけでござるよね? それ、いるんでござるかね?」


 オメガブレイドなどなくとも、ラグナのオーラを纏った剣ならなんでもあっさりと切り裂けそうだった。


「あとは、討伐証明で必要な部位か。黒閃龍の宝玉だな。おい、豚! お前が取ってこい」


 次に重人は、花川に指示してきた。


「いや、取ってこいと言われましても、それがどこにあるのやら」

「豚くん。玉なんだからさー、股間でも探してきたら?」


 彰伸はただ嫌がらせで言っているだけだと花川は気付いたが、逆らうわけにもいかなかった。

 ドラゴンの身体は建物から落ちて地面に転がっている。

 花川は恐る恐るドラゴンに近づいた。


「なんで嫌そうな顔してんのー? 豚くん、こーゆー時に役に立つためについてきてるんでしょー?」


 ――あんたらが無理矢理連れてきたんでしょうが!


 もちろん、そんなことを言えるわけもない。


「は、ははは! 楽しいでござるなぁ! 汚れ仕事美味しいでござるよー」


 花川はドラゴンの股間を目指した。

 いくら上位存在のような立ち居振る舞いをしていようが、身体的には蜥蜴と似たようなものであり、糞尿は垂れ流しが当たり前だ。

 当然衛生的なわけはなく、近づくにつれ悪臭が漂ってきた。


 ――こいつら……絶対コロスでござるよ! いつの日か! きっと!


 けっきょく、宝玉はドラゴンが手に掴んで持っていた。


  *****


 創造主(クリエイター)、丸藤彰伸は自分こそが最強だと思っていた。

 その能力は創造であり、様々な生物を創り出すことができる。

 完全に無から有を生み出せるわけではないが、それでも破格の力であることは間違いないだろう。

 彰伸はこの力を、魂を与える能力だと捉えていた。

 動物を相手に使うことはできないが、植物や死体なら対象とすることができる。

 魂のある存在には使用できないと考えるとわかりやすいだろう。

 もっとも、彰伸は本当に魂があると信じているわけではない。魂のようなものを仮定すれば説明しやすいというだけのことだ。

 生み出した生物は彰伸の命令に従う。

 生物には様々な能力を与えることができるため、間接的にそれらの能力を使うこともできた。

 制限といえば、能力を使うには直接触れなければならないことだが、それも自らが生み出した生物を利用してある程度は克服できた。

 たとえば、樹木のような生き物を創造し、根を伸ばしていけばいい。

 彰伸が創造物に触れていれば、それを介して力を及ぼすことが可能なのだ。

 今はまだ、創造できる大きさ、速度、数に限界はあるが、それも能力が成長すれば解消できる問題だろう。

 いずれは世界を支配することもできると彰伸は考えていた。


  *****


 預言者(オラクルマスター)、三田寺重人は自分こそが最強だと思っていた。

 その能力は運命の予見だ。

 ステータスが高かろうと、破格の能力を持っていようと、先が見えていないならいずれは失敗する。

 ただ漫然と力を使っていたところで、そのうちにより強い者に打倒されるだけのことだろう。

 それに、ただ強いだけで物事が思いどおりに運ぶことなどない。その強さ故に失敗することすらあるだろう。

 目標を達成するためには、情報が必要なのだ。

 何を倒し、何を倒してはいけないか。

 どこに行き、何を入手し、誰と会えばいいのか。

 重人の預言書には目標を達成するための手順が書かれていた。事前に何をどうすればいいのかがわかるのだ。

 それは本の形で示されるため、全てが書かれているわけではない。

 だが、攻略に必要な最低限のことは書かれていて、読み取るには多少のコツはいるのだが、重人はそれをマスターしつつあった。

 預言書は目標を設定すれば必要な情報を提示する。

 今の重人は賢者を殲滅し、世界に君臨することを目標としていた。

 確かに、正面切って戦えば、彰伸にもラグナにも勝てないだろうし、このギフトを与えた上位者である賢者にも勝てないだろう。

 だが、ギフトの親である賢者に勝てないというのは、ギフトの能力を直接行使することができないというだけのことであり、賢者を倒すために必要な情報を得られないわけではないのだ。

 なので、創造主(クリエイター)では賢者に勝てなくとも、預言者(オラクルマスター)には勝てる可能性がある。

 重人は、そのために必要な、アイテムと人材を集めていた。

 幸い、今のところは時間制限のようなものはない。

 預言書を読み込み、慎重に事を運べばいずれは事を成すことができるだろう。

 重人は、情報を制する自分こそが世界を制すると考えていた。


  *****


 運命の(ファムファタル)、九嶋玲は自分こそが最強だと思っていた。

 その力は、異性の利用価値の算出と、籠絡。

 つまり、使える男を見つけだし、誑し込むことができる能力だ。

 創造主(クリエイター)の丸藤彰伸も、預言者(オラクルマスター)の三田寺重人も、自分が玲の支配下にあることなど気付きもしていないだろう。

 彼らは、いつのまにか、なんとなく、玲に逆らえないようになっていて、その意向を自然と汲むようになっているのだ。

 もともと、重人は賢者を倒し、世界を支配するなどという野望を持っていたわけではない。

 それは、玲がそう仕向けただけのことだった。

 そうしたことにたいした理由はない。

 ただ、自分の男たちが、自分のためにどこまで無理難題を聞いてくれるのかと試してみただけのことだった。

 そして、このままどうなるのかを楽しんでいる。

 この世界で安全に過ごすだけならどうにでもできるだろう。

 だが、それではただ安穏とつまらない人生を送るだけのことになる。

 どうせ異世界から帰れるあてもないのだ。

 ならば、できるだけ派手に、刺激的に、享楽的に。

 面白おかしい人生を過ごしたいと、玲は考えていた。


  *****


 古代都市を通り抜け、花川たちは長い階段を上っていた。

 うんざりするほどの行程を経て、ようやく地上に出ると、そこは森の中だった。

 出口になっていた建物はすぐに跡形もなくなったので、一方通行ということらしい。

 森を出るとすぐに街道があり、少し離れた所に城壁が見えた。

 そこがエント帝国の帝都のようだ。

 どこまでも続いている城壁は帝都の大きさを物語っているが、花川は少々落胆していた。

 これまでに見てきた街とほとんど変わらなかったからだ。


「東の島国ですので、なんとなく和風を期待していたのですが、これまでと変わる様子はないですな」


 花川は相変わらず先頭を進んでいた。

 特に指示がないので、そのまま帝都へと向かう。

 城門では検閲は行われておらず、そのまま中に入ることができた。


「さて、帝都に来ましたが、これからどうすればいいのでござる?」

「次は冒険者ギルドだな。黒閃龍の宝玉はそこで必要になる」


 重人が預言書を参照して言った。


「ほほう。そんなものがあるとは初耳ですな」


 似たような施設はマニー王国の王都にもあったが、あちらは魔界への入界権を売買していたので性質は異なるだろう。

 預言書にはギルドへの地図も載っているようで、指示に従って進むとあっさり到着した。

 中は、基本的には酒場のようだった。

 テーブルがいくつも置かれていて、壁面には依頼書がべたべたと貼り付けられている。

 昼間から酒を飲み騒いでいる者たちがいるので、それなりに繁盛しているようだ。


「ふむ。なんというかテンプレ感がすごいですな! で、ここに来たということは、ギルドに登録するという流れでござるか? いやー拙者これでもレベル99ですからな! お約束の登録時のステータスチェックで驚愕されたりとかでござるかね!」


 ここまで無理矢理連れてこられた花川だが、それはそれで楽しそうだと考えた。

 異世界に来てからこれまで、ろくな目に遭っていないのだ。

 ありきたりな展開でもなんでもいいから、そろそろいい目を見たいところだった。


「残念だったな。それをやるのはラグナくんだよ」

「ぐっ……そのための宝玉でござるか! ギルド登録時に、そーいや、ここに来るときに倒したんだけど。みたいな感じで討伐証明部位を提出して、驚かれるとゆーやつですな!」


 それも面白そうだと花川は思う。

 自分が主役でないのは残念だが、それを間近で見られるならいいかと思ったのだ。


「ん? その登録をすればいいの?」

「そうなんだ。登録をしておくと魔物を退治したりすることでお金がもらえるんだ」


 ラグナはよくわかっていないようだが、みんなで受付に向かうことになった。

 全員で登録するということになったのだ。


 ――おお! なんといいますか、今さらではあるんですけれども、わくわくといたしますな! 拙者、冒険者になれるのでござるか!


 受付は奥にあるので、酒場の中を通ることになる。

 すると、酔っ払い共の間を通っていくわけで、当然のように行く手を遮る足が投げ出された。


「こ、これは!」


 花川は感動していた。

 ギルドにやってきた新人に、チンピラ冒険者が絡んでくる。こんな、物語の中であればありふれたような展開をこの目で見ることができるとは思っていなかったのだ。

 チンピラは貧相な体格で、革のズボンに、鋲の付いたジャケットを着込んでいる。絵に描いたようなチンピラで、ここまでくるとわざとやっているとしか思えないほどだった。

 同じ席には女が三人、綺麗どころを揃えている。ただのチンピラよりは甲斐性がありそうだが、それでも下っ端感は拭いようがなかった。


「おいおいおい! 見ねえ顔だなぁ? 挨拶もなしに通りすぎようってなぁ、どういう了見だよ?」

「こんにちは!」

「はい、こんにちは……ってそーゆーこっちゃねーだろ!? 素直かてめぇ!」


 ラグナは状況を理解していないのか、馬鹿正直に挨拶していた。


「じゃあどーゆーことなんだろう?」

「ギルドに登録しようってんだろ? 俺様が審査してやるぜぇ!」


 チンピラが立ち上がった。

 やはりひょろりとした、見るからに弱そうな男だった。


「審査って?」

「ギルド登録したきゃ、俺様を倒していくんだな!」


 チンピラが拳を上げ、構えを取った。

 そして、口で効果音を言いながら、ひょろひょろのパンチで素振りを繰り返す。

 どうしようもなく弱そうだが、花川は念のために鑑定スキルを使ってみた。

 レベル10だった。

 レベル5万を超えるラグナなら、指先一つで倒すことも可能な実力差だ。


「ヨシフミぃ、またそんなことすんのぉ?」

「いいから飲もうよぉ」

「新人なんかどうだっていいじゃん」


 女たちが呆れたように言う。

 いつも新人への洗礼を買って出ているようだが、ヨシフミとやらが倒せるのは本当の意味での新人ぐらいだろう。


「困ったな。倒せって言われても」

「ラグナくん。適当にあしらえばいいよ。そうだな。文字どおり床に倒せばいいんじゃないか。それで納得するだろ」


 これからギルド登録をするというのに、殺したり大怪我をさせたりするのはまずいと重人は考えたのだろう。


「わかったよ。転かしたらいいんだね」

「あぁ!? 転かせるってのならそれでお前の勝ちでいいぜぇ!」


 ヨシフミが凄むが、花川ですら怖いとは思わなかった。

 戦う前から勝敗がわかっていて、道化としか思えないのだ。


「じゃあいくね」

「こいやぁ!」


 そして、ラグナの頭部が消し飛んだ。


「はい?」


 何が起こったのか、花川にはわからなかった。

 ラグナの首から血が噴き出し、天井を赤く染める。

 身体はそのまま倒れ、床を血だまりへと変えた。


「ヨシフミぃ。また受付のお姉さんに怒られるよぉ?」

「掃除するのも大変なんだからね!」

「だから、こんなんじゃ新人が来なくなるって」


 ヨシフミが拳を拭きながら椅子に座る。どうやら殴ったらしいのだが、やはり何もわからなかった。


「よぉ。賢者候補ども。自己紹介が遅れたな。俺は、このエント帝国の皇帝。賢者のヨシフミってんだ。よろしくな」

「お、おかしいだろ……皇帝が……賢者がこんな所に……」


 重人が呆然と立ち尽くす。


「って、チンピラが勝つってどうゆーことなんでござるか!? ここはテンプレどおりに進行してほしかったんですが!」

『賢者を倒すには世界剣オメガブレイドが必要だ! エントでの最重要目標が世界剣の取得なんだけど、ここには賢者ヨシフミがいるぞ! 剣を入手する前に遭遇(エンカウント)すると全滅は必至! けれどヨシフミは賢者にしては珍しく皇帝なんてやってるので、居場所は限定されている。慎重に立ち回れば回避できるはずだ!』


 預言書にそう書かれていたことを、花川は思い出していた。

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