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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
5章 ACT2

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第16話 夜這いかと思って期待したのにな?

 石畳の広場に、ライザが倒れている。

 うつ伏せで小刻みに動いているが、その動きは夜霧によって封じられていた。四肢と呼吸関連の器官を殺されているのだ。

 背中が大きく乱暴に切り開かれているのは賢者の石を取り出した痕跡であり、それをやったのはもこもこだ。

 非道で残虐な仕打ちではあるが、これまでのライザの所業を考えればやりすぎということもないだろうと夜霧は思っていた。


「囲まれてるな」

「仇討ちをするという雰囲気でもなさそうだが」


 ライザと夜霧ともこもこは、闘神都市の市民たちに囲まれていた。

 その人だかりはすさまじく、気楽に押しのけて出ていけるような状況ではない。

 ライザの攻撃で塔が崩れ、何事かと見に来たのだろう。

 そして、ありえない光景を前にして固まってしまっているのだ。

 ライザが負けた。

 その実感がないのだろう。

 無様に、芋虫のように転がる姿を見てもまだ、信じることができていないのだ。

 それほどに、ライザは圧倒的だった。

 彼らは、ライザが負けるなど想像すらしたことはなかったのだ。


「街の人ってどんな扱いなんだろうな。無理矢理戦わされてる人とは違うわけだろ?」

「うむ。都市としての機能を維持するには一般人も必要であろうしな。この都市自体はとても安全ということで人気が高いらしいぞ。居住権は高値でやりとりされておるらしい」


 ただライザと戦える相手を養成するためだけに作られた都市ではあるが、ライザが快適に暮らせるようにもなっていた。

 挑戦者も多数訪れるので、様々な施設とインフラが用意されている。

 ライザは暴君ではあったが、闘神都市の住民には手を出さなかった。

 なので、市民にとってもここはとても快適な都市だったのだ。


「となると、この都市の者からすれば、お主は平穏を脅かす悪者ということになるな」

「そんなの視点の問題だろ」


 ライザは周囲の街では暴虐の限りを尽くしていたが、ここでは穏当な支配者だったようだ。

 別の視点に立てば英雄ともいえるだろう。


「ふむ。一つアドバイスしておいてやろう。そーゆーことで悩むほうが、より人間らしいぞ?」

「確かにそうか」


 言われればそういうものだとわかる。

 だが、言われなければわからないというのも問題なのだろう。

 しかし、この異世界で悩んでいる場合ではないともいえる。

 人間らしさの追求は夜霧にとって重要な課題だが、悠長に自分探しをしていられる状況でもないのだ。


「こいつら、どけって言ったらどっか行くかな?」

「混乱もおさまってきたころではないか?」


 そろそろどうにかしようとしたところで人垣が割れ、身なりのいい男女が姿を見せた。

 彼らは列をなしてやってきて、夜霧たちの前で跪く。


「我々は、ライザ様の下僕にございます」


 一人の女が代表して、夜霧に話しかけてきた。

 無様に倒れているライザを無視しているので、見限ったということだろう。


「賢者の石と、街の支配権を賭けての勝負とのこと。我々で協議した結果、あなた様の勝利は疑いないということになりました」

「あんたらの許可を得るのも変な気がするけど、もらっていいってことだよね」

「はい。ライザ様は返答できる状態にありませんので、都市の運営、管理を任されていた市長として返答させていただきます。この都市に関する全てをあなた様に委譲いたします」

「だそうだよ、もこロボさん。エウフェミアさんたちを呼んでよ」

「うむ。今やっておる」


 もこもこの本体は知千佳の側にいる。

 街の外で待機している半魔たちへの指示は簡単だった。


「は、ははは。ライザもこうなっちまうと哀れなもんだよな?」


 遠巻きに見ていた群衆の中から、一人の男がやってきた。

 混乱していた者たちも落ち着きはじめたのだろう。

 男は、ライザに近づいていく。


「あ」


 夜霧は止めようとした。

 ライザは死んでいない。そう伝えようとしたのだが、一足遅かった。

 男が吹き飛ぶ。

 夜霧にはよくわからなかったが、おそらく身体を震わせて衝撃波を放ったのだ。

 男は、建物にぶつかり、落ちて動かなくなった。


「その……止めは刺さないのですか?」

「勝負はついたって認めたんだろ? あとは好きにしてくれよ」


 処置に困る。市長はそう言いたげだったが、夜霧にそこまでしなければならない義理もない。

 目的は達成しているのだから、それ以上何かする必要はないのだ。

 ライザは夜霧の目から見ても、類いまれな外道だ。

 だが、止めを刺すのが自分でいいとは思えなかった。それをするのは、また別の誰かなのだろう。

 とりあえず、ライザはその場に放置することになった。

 近づかなければ害はない。周知徹底しておけば問題ないだろう。

 しばらくして、半魔の一行がぞろぞろとやってきた。

 もちろん半魔であることはわからないように偽装はしてある。以前テオディジアが術で変装していたことがあったが、同じような方法だろう。


「この都市は、この人たちに譲る。代表者はエウフェミアさんでいい?」

「私でよろしければ」


 半魔たちから異論は出なかった。

 各部族混合の集団なので力関係には複雑なものがあるかもしれないが、もっとも力を持っているのがオリジンブラッドであるエウフェミアだ。

 他にふさわしい者もいないのだろう。


「じゃあ、とりあえず、半魔の拠点探しは一段落ついたってことで」


 ここまでお膳立てしたのだから、後は勝手にやってくれと言わんばかりの夜霧だった。


  *****


 闘神都市陥落から数日が過ぎた。

 多少の混乱はあったが、権限の委譲は概ね順調だった。

 ライザを倒した相手に逆らおうなどという者はいなかったし、謎の集団による支配が気にくわない輩は、都市を出ていったからだ。

 ライザがいないと知れば攻めてくる者もいるかもしれないが、ライザが倒れたと確信するにはまだ時間がかかることだろう。

 つまり、今の闘神都市は比較的平和だった。

 なので、深夜。

 知千佳と夜霧は、厩舎にいた。


「こいつ……は、駄目そうだな」


 夜霧が見ている馬の口からは牙が伸びていた。

 馬にも犬歯はあるとのことだが、顎を貫くほどではないはずで、これは吸血鬼化によるものだろう。

 吸血鬼となったことで筋力が増強され、血を吸った吸血鬼による支配で精緻な操作が可能となっているのだ。

 つまり、吸血鬼以外が乗れるかは怪しかった。


「うん。いきなり部屋に来て外に連れ出したと思えば、これはどういうことなのかな!?」

「大勢といるのも鬱陶しいし、そろそろ次の賢者を探しにいこうかと思って」

『夜這いかと思って期待したのにな?』

「んなわけあるか!」


 ライザの住んでいた宮殿がそのまま半魔たちの拠点となっていた。

 そして、知千佳たちは宮殿の一室を与えられていたのだ。


「てかさ、そもそも高遠くんは馬に乗れるの?」

「なんとなく乗ってみたらどうにかなるかな、とか思ってたんだけど、無理そう?」

「車の運転より難しいと思うよ」


 壇ノ浦流弓術の歴史は古い。当然のように馬術はその技術体系に含まれていた。

 知千佳も当たり前のように乗ることができ、その経験から言えば、馬術未経験の夜霧がいきなり馬に乗るのはまず不可能と思われた。


「そういうもんか」

「てか、さっきはなんとなく流しちゃったけど、ここを出ていくつもりなの?」

「居心地が悪い」


 これまでは夜霧のことを知っているのはごく少数だった。

 だが、ここでは誰もが夜霧を最強の存在だと認知している。

 怯えられ、媚びへつらわれ、色目を使われ、持ち上げられるのは、夜霧にとって好ましい状況ではないのだろう。


「これさ、勝手に乗ってっちゃっていいの?」

「この街の物は全て俺の物らしいよ」


 街を所有しているのは夜霧であり、運営権を半魔に貸しているという扱いとのことだった。


『一頭や二頭いなくなったところでたいした影響はなかろう。しかし、移動手段として馬はどうなのだ?』

「車の類がないか、ここ数日探してみたんだけどね。少なくともここにはないみたいだ。どこかから仕入れるって手もあるかもしれないけど、あまりここでのんびりしてるつもりもないし」

「……その、のんびりしてた私はいったい……」


 ここ数日、知千佳は実にのんびりと暮らしていた。

 贅を尽くした食事を楽しみ、豪華な風呂を満喫し、至れり尽くせりの王侯貴族もかくやという待遇をあますところなく享受していたのだ。


『ただめし喰らいの役立たずだな』


 知千佳は何も言い返すことができなかった。


「賢者のいそうな場所についての聞き込みと、物資の調達はしておいた」

「物資ってそれ?」


 知千佳は夜霧のリュックサックを見た。

 この街で新調したようだが、物資というほどの大きさとも思えなかったのだ。


「見た目よりはたくさん入るんだよ。仕組みはよくわからなかったけど、そこは異世界特有の何かってことで深く考えるのはやめておいた」

「よし! 私もそこにツッコむのはやめておこう!」


 知千佳も、そういうものなのだと思うことにした。


  *****


 けっきょく、馬車で行くことになった。

 素人の夜霧がいきなり馬に乗れるはずもないし、二人乗りも厳しい。

 なので、無敵装甲馬に馬車をひかせることにした。

 無敵装甲と馬は無敵軍団が残していったものを回収していたのだ。

 無敵装甲には馬力を増幅する機能や、怪我を癒やし体力を回復する機能まであるので、馬車は引かせ放題だった。

 御者は、もこもこの操る槐タイプロボットが担当している。

 槐を気軽に使っていいものかと知千佳は思ったのだが、夜霧は気にしていないようだ。


「これ、貴族が使うような馬車だよね? 目立たない?」

「どうせなら、乗り心地がいいほうがいいだろ」


 馬車を用意してくれと市長に言ってみると、これが出てきたのだった。


「とりあえず東に行こう。そっちになんかいるらしい」


 夜霧の調査によれば、このあたりを支配していた賢者は全て死んでしまっているとのことだった。


「って! ちょっと待って!? いろんなことを華麗にスルーしてる気がするんだけど!」

「そう?」

「キャロルや、二宮(にのみや)さんは!?」


 馬車の中には、知千佳と夜霧だけだった。もこもこを無視するなら二人きりだ。


「なんであいつらを連れていくんだよ?」

「素で言われてびびったわ! クラスメイトでしょ!?」

「勝手についてくるのは仕方がないけど、わざわざ連れていく理由がないよ」

「えー!?」

「あいつら自身に悪意がなかったとしても、『機関』や『研究所』は信用できない」


 知千佳から見れば、彼女たちが何か企んでいるとはまるで思えなかった。

 だが、夜霧にとっては違うのだろう。

 過去に何があったのかはわからないが、彼女たちの属する組織をまるで信用していないのだ。


「エウフェミアさんたちは!? 出ていく前に何か言っといたほうが!」


 拠点を手に入れた彼女たちがついてくることはないだろうが、それでも挨拶ぐらいはしてもいいのではと知千佳は思う。


「めんどくさい」

「それで済ますなよ!」

「堂々と門から出ていくんだ。事情は察するだろ」

「リズリーちゃんのことは!? 何かお願いがあるって言ってたよね?」


 リズリーは、いきなりやってきて夜霧に結婚を申し込んだ少女だ。

 リズリーは、夜霧に頼みごとがあってやってきたのだ。


「賢者の石ならもらっておいたから大丈夫だよ」


 夜霧がリュックサックから透明感のある丸い石を取り出す。

 それが賢者の石だった。

 ただの綺麗な石にしか見えないが、内部に莫大なエネルギーを秘めているらしい。


「じゃあお願いを聞くことにしたの?」


 お願いというのは何者かを殺せという話であり、夜霧は難色を示していたはずだった。


「なんでそんな殺し屋みたいな真似をしなきゃなんないんだよ」

「だったらなんでもらったの?」

「どこかでソレに会うことがあったら、状況に応じて対応するってことでもらっておいた」

「何一つ約束してないな! てか、それじゃリズリーちゃんも断れないでしょ、その、高遠くんのこと好きみたいだし……」

「興味のない相手から好意を押しつけられたって鬱陶しいだけだよ」

「もうちょっとこう、なんか柔らかな感じに言い換えようか!」

「そりゃ、俺だって面と向かってそんなことは言わないよ」

「うーん、どうだかなー」


 そのあたりの微妙なニュアンスを、うまく伝えられたとはとても思えなかった。


「賢者の石はどうしても必要だ。けど、妹を殺してくれって言われて、はいそうですか、ってわけにもいかないだろ」

「妹?」

「ああ、レインの妹らしい。リズリーからすれば赤の他人ってことだけど」


 リズリーは、レインの複製だが記憶は受け継いでいない。なので、お願いというのはあくまで伝聞で、他人事なのだ。


「だから俺としては会った時に考えるとしか言えない。それでもいいってことだから石はもらったんだ」


 知千佳は、夜霧なりに誠意を見せたのだろうと納得した。


「まあ、もう出発しちゃってるし、何を言っても遅いんだけどさ。こーゆー重要なことは事前に相談してくれる?」


 そう言ってから、夜霧と一緒に行動することが当たり前になっていることに知千佳は気付いた。


「今度からそうするよ」

『お主も図々しくなったものだな』


 もこもこが囁いた。


「で、東に何がいるの?」


 ごまかすように知千佳は訊いた。


「皇帝をやってる賢者がいるらしい。所在がはっきりしてるから、会いにいくのは楽なんじゃないかな」

「闘神の次は皇帝……うさんくささはんぱない……」


 賢者の住み処は謎に包まれている。

 ライザは、挑戦を受けるためにあえて所在地を公開していたが、これは例外だ。

 そして、皇帝とやらもその例外なのだろう。

 知千佳たちは、東にある帝国へと向かうことになった。

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