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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
5章 ACT2

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第14話 そーいや、こいつ俺に似てなかったか?

 その街は、(とう)(じん)()()と呼ばれている。

 誰がいつそう呼びはじめたのかは定かではないが、その理由ははっきりしていた。

 この街の支配者であるライザという男が闘神を名乗っているからだ。

 ライザも馬鹿馬鹿しい名乗りであることは自覚している。

 だがこれはあえてのことだった。

 ライザが闘神を名乗ることを馬鹿にする者もいるだろう。だが、闘神であることを否定するならば戦って勝つ以外の方法はない。ライザを闘神だと認めないならば挑んでこい。そういった思惑があるからだ。

 ライザは強すぎた。

 故に挑戦者がいない。

 なので闘神の名を広めている。そうすれば無鉄砲な挑戦者があらわれる可能性が多少なりとも上がるだろうと考えたのだ。

 ライザは戦いを求めていた。そのために強くなり続けたのだが、あげくの果てに戦う者がいなくなった。

 まさに本末転倒だ。

 今さら弱くなることもできないし、手加減をするなどもっての他だ。彼は、今の自分が全力で戦える相手を欲していたのだ。

 なので街を作った。

 この街には大きく分けて二つの役割がある。

 一つは、ここにライザありと知らしめることだ。ここに来ればライザと戦うことができると周知する。そうすれば挑戦者がやってくることもあるだろう。

 そして、もう一つが修業場としての役割だ。見込みのある者を無理矢理に集めて、手ずから修業をつける。ただ、この方法にはそうそうに見切りをつけていた。多少出来がよかろうと、修業の課程でその底のほどは知れてしまうからだ。

 なので、最近ではこの都市に幾多の強者を閉じ込め、戦わせ、強制的な成長を促していた。

 強制修行の成果はまだ出ていない。挑戦者を待ち続けるよりはいくらかましだが、今のところはライザの暇つぶしにもなっていなかった。

 しかし、このような話を聞くと、この世界を知る者なら疑問に思うことがあるだろう。

この世界で強者といえば賢者だ。ならば賢者に挑めばいい。

 だが、それだけはライザに許されていなかった。

 ライザも賢者だからだ。

 賢者同士の戦いは大賢者が許していない。どれほど強かろうが、この掟だけはライザにも破ることができなかった。


  *****


 ライザは朱に染まっていた。

 普段なら返り血を浴びることなどないのだが、今回は相手が相手だった。

 とにかく巨大だったのだ。

 それは見上げるばかりに大きな巨人だった。

 その巨人は、侵略者(アグレッサー)と呼ばれるものの一種だ。何が目的なのかもさっぱりわからないが、不定期に外世界からやってくる敵性存在だった。

 ライザは飛び上がり、拳を振るい、山ほどもある巨人の巨大な顔面を吹き飛ばした。

 それがどのような生き物なのか、果たして生き物であるのかすら定かではないが、心臓のようなものがあり、体内には血液のようなものが循環していたのだろう。

 その返り血は盛大なもので、あたり一面は文字どおり血の海となった。

 ライザはそれをまともに浴びてしまったのだ。

 賢者同士の争いが禁止されている中、ライザが多少でも手応えを感じられるのは侵略者(アグレッサー)との闘争ぐらいだが、今回もたいしたことがなく落胆は大きかった。

「こいつもつまんなかったな」

 もともとたいして期待していたわけでもない。それでも、侵略者(アグレッサー)ぐらいしか相手のいないライザだ。もしかして今回こそ好敵手たり得る相手なのではないかと期待してしまうのは、仕方のないことだろう。

 ライザは地を蹴った。

 一瞬で宙へと舞い上がり、一息に本拠地である闘神都市へと向かう。

 瞬くまもなく、ライザは拠点へと帰り着いていた。


「お帰りなさいませ」


 街の中心部に聳え立つ巨大な塔。その屋上にライザが着地すると、女が駆け寄ってきた。


「様子はどうだ」

「ポットAは膠着状態です。ポットBは全滅しました。ポットCは……」

「そーゆーこまけーことはいいよ。何か出てきそうか?」

「今のところはポットに見込みはありません。しかし、タワーBの通過者があらわれました」

「会おう」


 この都市ではいくつもの強者を作り出す方法、選別する方法を試している。

 (ポット)と呼んでいるのが、強者たちを閉じ込めて競い合わせる方法だ。

 そして(タワー)は、強者が配置された塔を登り頂上に辿り着く者を選別する方法だった。

 挑戦者は大歓迎だが、最低限の実力に達していない者と戦っても時間の無駄だ。なのでこのような方式を採っていた。


「タワーBということは、無刃のアレスタがてっぺんだったよな」

「瞬殺とのことです。アレスタは何もすることができずに食われたと報告が」

「食ったのか。いいねぇ。まともじゃねー感じがいい」

「お待ちください」


 ライザはさっそくタワーBへ飛んでいこうとしたが、それを女が止めた。


「まずは身を清められてはいかがでしょうか。そのお姿ではお相手も面食らうことでしょう」

「ああ、まあそうか。血塗れの姿で威嚇しようってことでもねーしな」


 ライザは素直に身なりを整えてから向かうことにした。


  *****


 タワーBの頂上で待っていたのは異形だった。


「一ついいか?」


 挑戦者の姿を見るなりライザは訊いた。


「なんだ?」

「どうも人間の気配じゃねぇ。どっちかっつーと侵略者(アグレッサー)っぽいんだが、そこんところどうなんだ?」

「人間じゃねーと挑戦しちゃいけねーのかよ?」

「そうじゃねーが、このまま戦ってうっかり殺しちまったら、俺のこの好奇心の行き場がねーだろうがよ」


 挑戦者は、おおまかには人間だ。だが、余計な部分が多すぎた。

 脇腹からは小さな女の上半身が生えていた。

 右肩からは片翼が生えており、右肘には、蹄の付いた足が生えている。

 胸から飛び出した腕はライザも見覚えのあるもので、それは無刃のアレスタの右腕のようだ。

 身体の様々な場所に、様々な生き物のパーツを無理矢理付け加えたような、挑戦者はそんな奇妙な姿をしていた。


「俺は食ったものの力を取り込むことができる。何を食ったかなんて一々覚えてねーが、その侵略者(アグレッサー)ってのも食っちまったんだろうよ」

「その姿は副作用ってことか?」

「どんな姿になろうが知ったことか! てめえを殺せるならそれでいい!」

「ああ、そうだな。姿なんざどうだっていい。じゃあ始めるか」


 ライザは腰を落とし、身構えた。

 構えなど特に必要はないのだが、ぼうっと突っ立っていても相手がやりにくいだろうという配慮だ。

 次の瞬間、挑戦者はライザの目の前にいた。


「ほう? どうやったんだ?」

「空間を食った。俺に食えないもんはねぇ」


 挑戦者は瞬間移動してきたようだ。

 余裕を見せているつもりなのか、攻撃はしてこない。

 そして、それはライザも同じだった。何をしてくるのか興味があったのだ。


「それと俺が食えるのは生き物だとか、空間だとかだけじゃねぇ。たとえば……因果なんてものもな! この俺は! 過程をも食い尽くし、結果だけを求めることができる!」


 再び挑戦者の姿が消え、ライザは拳を床へと叩き付けた。


「萎えたわ。異形となろうとも強さだけを求めるなんて奴は俺好みなんだけどよ。小賢しいこと言いだすから台無しだ」


 ライザの拳は挑戦者を捕らえていた。挑戦者は拳と床に挟まれ、頭部が消し飛んでいる。

 挑戦者は何かをしようとしたようだが、ライザの拳はそれごと打ち砕いたのだ。

 ライザにとって、事象改変、因果律操作、次元跳躍、空間断絶などをしてくる相手など珍しくもなく、この程度の相手は感覚的に叩きつぶすことができるのだった。


「そーいや、こいつ俺に似てなかったか?」


 異形ぶりにばかり目を奪われていたが、思い返してみると面影があった気がしなくもない。

 ライザは、適当に選んだ街で暴れまわり、女を孕ませるのを日課としていた。

 それは暴力衝動の発散や、性欲の解消のためではない。

 ライザを心底憎み、憎悪に燃えたぎる復讐者を作り出そうと思ってのことだった。


「俺のガキだとしたらふがいねーな……」


 自分の子供だったとしても弱い者には興味がない。

 ライザの虚しさは募るばかりだった。


  *****


 エウフェミアが吸血し、眷属にした女は、エルモアと名乗った。

 エルモアは、ライザへの憎悪を掻き立てるための部隊を編成し、各所を巡っているとのことだった。

 ライザの落とし子たちで編成された部隊は、恨みを買うために好き勝手なことをやっていた。

 もちろん、無軌道に活動させていては、すぐに街が全滅する。

 そこで、エルモアのような監督者が必要になるのだ。


「てめぇ! よくもそう淡々とそんなことが言えるな!」


 ダルフが椅子を蹴立てて立ち上がった。

 今、レストラン内にいるのは、夜霧、知千佳、エウフェミア、店員のオリエとダルフ。そして、ライザの手下であったエルモアだ。

 彼らはそれぞれが適当に椅子に座っていた。


「はーい。ちょっと待って! 今話を聞いてるから!」


 知千佳は、絶妙なタイミングでダルフの襟首を引っ張り、椅子に戻した。


「こいつが! こいつがこの街を散々に荒らしやがったんだろうが!」

「なぁ。この場をおさめたのは俺たちで、こいつからは情報を引き出す必要がある。とりあえずは、大人しくしといてくれないか?」


 夜霧がめんどくさいとばかりに言うと、ダルフは舌打ちして目をそらした。渋々ながらも静観はしてくれるようだ。


「ライザってのが胸くそ悪いことやってるのはわかった。で、そいつはどこにいる?」

「闘神都市です。ライザ様は基本的にはそちらにおいでです」

「こいつ、今どういう状況なんだ? エウフェミアさんに絶対服従してるの?」


 ライザとやらへの敬意は失われていないようで、夜霧はそこに違和感を覚えた。


「微妙な状況ですね」

「微妙ってのは、先に誰かに支配されてるわけじゃない?」


 この手の支配能力は早い者勝ちと夜霧は推測したのだが、そういうわけでもなさそうだ。


「私の吸血による隷属は、操り人形にするわけではありません。元々持っていた個性はそのままで、私に対する忠誠心を植え付けるという感じです」


 確かにある程度は勝手に動いてくれないと使い勝手が悪いだろう。


「彼女の場合、ライザに対する恐怖と忠誠心が魂の奥底にまで刻みつけられ、その状態が個性として確立しているようですね」

「まあ、ちゃんと話ができるならいいんだけど」


 夜霧は闘神都市への行き方を訊いた。

 行き方は簡単だった。ここからでも見えるほどの巨大な塔のある街が闘神都市で、そこへまっすぐに向かえばいい。

 入場制限などはないので、誰でも入ることができるとのことだった。


「戦う相手を求めてるんだよな? じゃあ誰でも会いにいけるのか?」

「最低限のレベルに達していればお会いすることは可能です。そのための選抜が行われております」


 都市の規模はかなり大きく、中では様々な選別が行われているらしい。

 大きな塔も選別のための施設とのことだった。


「ライザの能力は?」

「特にこれといった能力を有してはおられません。強いて言うならば、ただ強いというだけのことです。この場のみなさんであれば、ライザ様の前で立っていることすらできないでしょう」

「それは、選抜試験に合格できないからってことか?」

「いえ、ライザ様の鼻息一つであなた方は死んでしまうという意味です」

「それは……ちょっと無茶苦茶だね……」


 知千佳が考え込む。

 夜霧はこれまでに会ったことのある賢者を思い出した。確かにそれぞれは強かったのだろうが、ライザほど圧倒的ではなかったはずだ。

 そうなると、ライザは今までで最強の賢者なのかもしれなかった。


「ライザは賢者の石を持ってるのか?」

「存じ上げません」

「まあ、それは本人に直接訊けばいいか」


 夜霧の目的は賢者の石であり、それを使っての日本への帰還だ。

 いくら、ライザへの心証が最悪だとしても、それだけで殺すことはできない。

 それに、体内に保持している場合は殺すと石が力を失うとのことだった。

 その点には、細心の注意を払う必要があるだろう。


「じゃあ、今回は俺一人で行ってみるよ」


 聞けることは聞いたので、夜霧はそう提案した。


「そうだよね。さすがに鼻息で死ぬとかだと、足手まといでしかないし」


 これまではいきなり襲われるばかりだったが、今回は敵の場所がわかっていて、準備万端で向かうことができるのだ。

 それならばわざわざ知千佳を連れていく必要はない。敵を倒すだけのことなら、夜霧一人で事足りる。

 知千佳を置いていくことによるリスクはあるが、今回に限れば、連れていくよりはよほどましだろう。


「エルモアは連れていかなくてもよろしいですか?」


 エウフェミアが確認する。


「誰でも入れる場所なら案内はなくても大丈夫だろ」

「その人をどうするつもりですか」


 ここまで黙っていたオリエが口を挟んだ。


「そうですね。あまり、先のことを考えずに隷属してしまいましたが」

「ほいほい吸血鬼にしちゃうのも考え物ですよね……」


 エウフェミアと知千佳が困り顔になる。一度吸血鬼にすれば、元に戻すことはできない。吸血鬼化は慎重に行うべきなのだ。


「やり返すに決まってんだろ! そいつにどんだけのことをされたと思ってるんだよ!」

「私がされたようなことを、その人にもするっていうの?」

「そ、それは……」


 ダルフは口ごもった。


「やり返したってなんの意味もないよ……」


 彼女たちにとって、手下を撃退することにたいして意味はないのだ。

 元凶であるライザが健在な限り、いくらでも手下はやってくる。

 一時的に鬱憤を晴らしたところで、より強大な邪悪を呼び寄せるだけにすぎないのだ。


「その人は連れていってもらえませんか」

「そうですね。隷属させた以上は責任がありますし」

「あ、こんなのはどうですか? その人はエウフェミアさんの言うことを聞くわけですよね。でしたら、このままライザとかゆー奴の元に戻して、この人が率いる部隊は狼藉を働かないようにしてもらうんですよ」


 焼け石に水かもしれないが、何もしないよりはましかもしれない。

 知千佳の提案を聞いて夜霧はそう思ったが、その計画が実施されることはなかった。

 なぜなら、エルモアが自らの胸に右手を突き入れ、心臓を握りつぶしたからだ。


「え? なんなの? もしかして私のせい!?」


 エルモアは椅子から転げ落ち床に倒れ、知千佳は目を白黒させていた。


「これは……想定が甘かったです。他者への加害は禁じていましたが、自害までは考慮していませんでした」


 エウフェミアが倒れたエルモアを見下ろして言う。

 心臓は、吸血鬼に数多くある弱点の一つだ。オリジンブラッドならこの程度では死なないが、眷属に成りたてのエルモアの不死性はこんなものなのだろう。


「ライザの命令に逆らうことに耐えられなかった、ってとこか。恐怖支配もここまでくるとすごいな」


 こうなってくると、ますます知千佳を連れていくわけにはいかなくなった。


「とりあえず、闘神都市の近くまでは一緒に行こう。けど、街に入るのは俺だけだ」

『ふむ。それなのだがな。小僧に万が一があるとも思えぬが、さすがに一人では判断に困ることもあるかもしれぬ』

「もこもこさんが来るのか? でも、壇ノ浦さんからあまり離れられないんだろ?」


 もこもこは霊体なので、守る必要はない。

 なので話し相手として連れていくには有用だが、距離の問題があった。


『大丈夫だ。任せておけ!』


 もこもこには、何か策があるようだった。

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