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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
5章 ACT1

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第8話 ゴミクズニートは異世界に転生してもやっぱりクズでした

 ジョルトたちは、なりふり構わず馬を駆っていた。

 身も世もない全力疾走であり、馬のことなどまるで考えていない機動だ。

 そこまでしなくとも、あの少年は襲ってはこないだろう。それはわかっていても、その場に留まっていることはできなかった。

 ダリアンが死んだ。

 しかも、自決だ。

 何があったのかはわからないが、ただごとでないことだけは確かであり、すぐに立ち去れと言われている以上のんびりとしているわけにもいかなかったのだ。


「あれはなんなんだ! どうしてダリアン様が死ぬんだ!」

「聞いたことがある! ダリアン様は死に瀕した際、時空を超え、過去へと移動できるのだと!」

「じゃ、じゃあ、過去に戻ったダリアン様が助けに来てくれるのですね!」

「そうなのか、ジョルト!」


 皆が、副団長であるジョルトに縋る。

 それぞれが、超絶的な力の持ち主であるはずなのに、ダリアンへの依存期間が長すぎたのだろう。自らが力を揮うことなど忘れているのだ。


「違う、ダリアン様の力はそんなものではない……」


 これまでの言動からの憶測にすぎないが、ダリアンの過去へ戻る力は死後に発動するもので、他に打つ手がない際の最終手段だ。

 それは魂のようなものを過去へと飛ばすもので、それによる過去改変は現在になんら影響を及ぼさない。ある時点から並行世界を分岐させるにすぎないのだ。

 ダリアン自身はそれでやり直すことができるのだろうが、今、この場にいるジョルトたちにとってはまるで関係がない。

 つまり、ダリアンはジョルトたちを見捨てて逃げたのだ。


「ダリアン様が過去に戻って何をしようと、今の我々には何の関係もないのだ!」

「だったらどうするってんだよ!」


 ――そんなことは俺が聞きたいんだよ!


 ジョルトは心の中で叫んだ。

 どうしてこんなことになってしまったのか。

 第二の人生はうまくいっていたはずだ。ダリアンの側にいれば何も問題はなかったはずなのだ。

 だが、そのダリアンは死んだ。

 途端に全てがわからなくなった。

 以前はこうではなかった。転生による優位点を活かしてうまく立ち回り、最強を目指していたのだ。

 だが、上には上がいることを知ってしまった今、無邪気にそんなことができるわけもない。

 いくら努力しても届かない才能が、理解のまるで及ばない恐怖の権化が存在することを知ってしまっている。

 ならば、背伸びせずに身の丈に合った人生を送ればいいのだが、それもできなかった。

 けっきょく、ジョルトは変われなかった。

 常に優位な立場にいなければ満足できない幼稚な人間性は転生したくらいで改善することはなく、異世界の超常的な力を得てさらに増長していたのだ。


「だ、大丈夫だ! 俺たちが無敵軍団であることには変わりない! ダリアン様の作った無敵装甲がある限り、俺たちに敵はいねー!」

「け、けど、それでもあいつに……」

「あいつは! あいつは無視すりゃいいだけだろ!? こっちから関わらなきゃいいんだ!」


 実に都合のいい話だが、団員はその考えに同調しはじめていた。

 ダリアンがいなくとも、無敵軍団を続けるつもりでいるのだ。

 彼らはあっというまに、王都周辺に辿り着いていた。

 そして、異常に気付いた。

 王都周辺の様子がおかしいのだ。

 近づいていくと、門の周辺に尋常ではない数の人だかりがあることがわかる。

 それだけでも十分に異常なのだが、その人だかりは混乱のただ中にあったのだ。

 怒号、悲鳴、嗚咽。

 様々な悲痛の声を上げながら、彼らは逃げまどっている。


「なんなんだ、これは……」


 ジョルトたちは、王都の異変を知らなかった。

 魔神が復活し、王都が肉の海に沈んだことに気付いていなかったのだ。

 なのでこの光景が、さらなる絶望によるものだなどとわかるはずもなかった。

 命からがら逃げ延びたところに、さらに降りかかった悪夢のような出来事だと看破しようもなかったのだ。


「どうするんだ、ジョルト!」

「なぜ、俺に訊く」

「副団長だからだよ!」


 判断を迫られても、何が起こっているのかもわからないのだからどうしようもない。

 なので、まずは様子を見るべく王都へと近づいていくことにした。

 それは、音もなくあらわれた。

 なんの前触れもなく、唐突にそれはジョルトたちの目の前に立っていたのだ。

 巨大な四足獣。

 それは、赤毛かと見まがうほどに血塗れの狼だった。

 その巨大な顎には幾人もの人が咥えられている。

 何人かは死んでいた。何人かは呻き声を上げていた。

 しかし、それはお構いなしに顎を上下させている。咀嚼し、飲み込んでいるのだ。


「な……何だこれは……」


 それは恐怖だった。

 それが強いのか、太刀打ちできるのかは関係なく、ただそれが人を食うということそのものが恐ろしい。


「うろたえるな! 我々は無敵だ! どれほどの化物だろうと、たかが獣だ! 恐れることなど何もない!」


 ジョルトは、自分に言い聞かせるように鼓舞した。

 見上げるほどに大きな獣だ。その力は軽く人間を上回ることだろう。

 だが、たかが獣とも言える。

 ジョルトたちはそれぞれが、超絶的な能力を有しているし、無敵装甲もある。

 ただの魔物なら相手にもならないはずだった。

 それがいったい何のためにここにあらわれたのか。たいした理由はないのだと、ジョルトは直感した。

 それは目に付いた物を貪り喰らうだけの化物なのだ。

 咥えていた獲物の咀嚼を終え、獣は唐突に姿を消した。

 ジョルトは振り返った。それの動きを追うことはできなかった。だが、隠しようのない獣臭と血臭が、獣の位置を如実に知らせるのだ。

 獣は、予想どおり背後に移動していた。

 そして、仲間が一人消えていた。


「だ、大丈夫! なんにも痛くないもの! こいつの牙は無敵装甲には通用しないわ! みんな! 今のうちにこいつを攻撃して!」


 仲間の一人、アイリスは馬ごと巨大な顎に咥えられていた。

 獣の速さは信じがたいほどだ。

 だが、その牙はアイリスに通用していない。

 攻撃を無効化できるならやりようはいくらでもあるだろう。


「任せろ! 犬っころに無敵軍団の恐ろしさを思い知らせて――」


 そして、アイリスの姿が消えた。

 丸呑みされたのだ。

 いくら装甲が頑強だろうと、これでは意味がない。

 ダリアンもこんな攻撃までは想定していなかっただろう。


「だ、大丈夫だろ!? 中で生きてるはずだ!」


 中で暴れれば、巨狼もただではすまないだろう。

 だが、巨狼は平然としていた。腹が動いているようにも見えないし、中から剣が突き出されることもない。


()(ろう)(おう)……」


 誰かがぼそりとつぶやく。

 それは、ある侵略者(アグレッサー)の名だった。

 常に飢え続け、手当たりしだいに食い散らかす、暴虐の化身。

 賢者レインが撃退し、それ以来鳴りを潜めていたはずの獣だった。

 ジョルトは思い出した。

 街が強固な城壁に覆われている理由を。

 賢者などという身勝手な奴らに好き放題させている理由を。

 全ては、侵略者(アグレッサー)が存在するためだ。

 侵略者(アグレッサー)から身を守るためだ。

 今までならこんなことはありえなかった。

 多少の被害が出ようとも、賢者がすぐにあらわれて事態の解決を図るからだ。

 だが、賢者がここにあらわれることはない。

 ジョルトには知る由もないことだが、この近辺にいる賢者は死に絶えていた。

 ダリアンは、何者かを封印し続けるために半魔が必要だと言っていた。

 だが、今さら何が復活して暴れようと誤差でしかないほどの被害が発生している。

 世界のバランスは、人々が気付かぬ間に崩れはじめていたのだ。


「なんで……なんで、こんなことになるんだよ……」


 餓狼王がゆっくりと近づいてくる。ジョルトを次の獲物に定めたのだ。

 ジョルトは目を閉じた。

 餓狼王の顎がじわりと近づいてくる恐怖に耐えられなかったのだ。

 ジョルトは、震えながら最期の瞬間を待つ。

 だが、いつまで経ってもその刻は訪れなかった。

 血腥く、生暖かい風が、ゆっくりと吹いてきた。

 餓狼王は、すぐそこにいるのだ。

 そして、ジョルトが耐えきれずに目を開くのを待っている。


「飢えてるならさっさと食えばいいだろうが!」


 だが、餓狼王に反応はない。

 何も見えぬ恐怖に耐えきれず、ジョルトは目を開いた。

 すると、同じ顔をした少女が二人、目の前に立っていた。


「な」


 ジョルトは想像もしていなかった光景に固まった。

 餓狼王は少女たちの背後にいるのだが、彫像のようにぴたりと動きを止めてしまっているのだ。


「お前らは……」

「マルナです!」

「リルナです!」

「二人合わせてー、マルナリルナですっ! いぇい!」


 そう言って、マルナとリルナは互いの手を叩き合わせた。

 ジョルトは呆気にとられた。

 先ほどまでの悲壮感はなんだったのかと思えるほどに、空気が変わってしまったのだ。

 気付けば獣臭い息も止まっている。それはまるで、時が止まっているかのようだった。


「さてさてー。ジョルトくんは、マルナちゃんの名前に聞き覚えはあるかなー?」

「リルナちゃんでもいいよー」

「……マルナリルナ教……」


 それは、この世界で枢軸教会に次ぐ、第二の規模を誇る宗教団体だった。


「枢軸教会みたいな、柱を崇めてるのなんて、ノーカンだよね! だから世界一の教団はうちらって言っても過言じゃないと思うな!」

「そう! 私たちは神様なのだよ!」


 だが、マルナリルナ神が二人であり、その姿が少女だなどという話をジョルトは聞いたことがなかった。


「神様だから、時間をゆっくりにするとかも可能なんだね!」

「狼ちゃんに気付かれずにやってくるのも造作ないね!」


 神だと言われてもとても信じられなかった。

 だが、この状況を作り出しているのがこの二人だというのなら、その力は確かなのだろう。


「……神……そ、そんなことができるなら、こいつに襲われてた人たちを助けられたんじゃないのか!」

「えー? だってマニー王国の人たちって、ほとんど枢軸教会の信者でしょ?」

「なんで助ける必要あるのかな?」


 そう言われればそういうものかもしれなかった。

 だが、そうなると、ここに神がやってくる理由がさっぱりわからない。


「ネタばらしに来ただけなんだよね」

「ジョルトくんがこの世界に来たのは、私たちのせいなんだよね」

「ダリアンくんもそうだよ」

「ジョルトくんは、ゴミクズみたいなどーしよーもない奴だけど、生まれ変わったらまともになるかと思って呼んでみたんだ」

「私は、クズはクズのままだと思ってたよ」

「リルナちゃんの勝ちだねー。結論! ゴミクズニートは異世界に転生してもやっぱりクズでした!」

「ダリアンくんはくそ真面目すぎて面白くなかったな」

「賢者と戦ったら面白かったのにね」

「なんで協力関係になっちゃうかなー」

「なんで正義マンになっちゃうかなー」

「まあ見てるだけだしねー」

「何をしでかしてくれるかは見守るスタンスだしねー」


 二人が交互にまくしたて、ジョルトは圧倒された。

 まるで理解が追いつかず、ただとまどうだけだった。


「で、なんで今、このタイミングでやってきたかというと!」

「ジョルトくん、もうすぐ死んじゃうから、死ぬ前に訊いておきたくて」

「どうだった? ゴミクズ人生は面白かった?」

「全部神様の掌の上だったってネタバレされてどう思った?」


 二人がジョルトの顔をのぞき込む。

 どんな顔かなどジョルト自身にわかるわけもない。だが、わけがわからず阿呆のような顔をしているのだろう。


「た、助けてくれないのか?」


 ジョルトは縋るように言った。

 神の力があれば、どうにでもできるはずだった。


「あー。今回はそーゆーんじゃないんだよねー」

「ゴミ人間の人生をじっくりたっぷりねっとりと見てるだけー」

「な、なにがしたいんだよ! 人の人生を弄びやがって! おちょくりやがって!」

「面白いかと思ってー」

「けど、あんまり面白くなかったからもういいやー」


 そして、二人は興味がなくなったとばかりに背を向け、歩きだした。


「次はどうするー?」

「さっきの子はー? 考えただけで敵を殺せるんだってー」

「なんだろーそれー、どーゆー仕組みかなー」


 マルナリルナの姿が消え、時が動きだす。

 ジョルトの目前には大口を開けた餓狼王がいた。

 餓狼王の顎が閉じる。

 飲み込まれる瞬間も混乱したままだったのが、ジョルトにとっての唯一の救いだった。

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