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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
5章 ACT1

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第5話 ろくに人と話してこなかったから、こういうの向いてないとは思う

 目覚めると、夜霧は馬車の中で一人だった。

 知千佳たちは夜霧を放っておいて出ていったらしい。

 馬車が動いている様子はないので、どこかで休憩でもしているのだろう。


「あんまり寝てないような……」


 寝ぼけまなこでちらりと腕時計を確認する。寝ていたのは半日ほどだった。

 疲れ具合からするとまだ寝ていてもおかしくはない。ではなぜ目覚めたのかといえば、それは死の気配を感じたからだった。

 今すぐどうなるというものでもないが、起きていないと少々不都合。その程度の微弱な気配で、夜霧の目にはうっすらとした靄のようなものとして見えていた。


 ――落ち着ける場所へってことだったけど。


 突然あらわれた少女、リズリーの目的は、王都へ向かうことであり、それは夜霧と会うためだった。

 ならばもうどこかへ行く必要はないはずだが、王都周辺は混乱していた。あのままあの場に留まるのは、何かと不都合があったのだろう。

 夜霧は馬車を降りた。

 ここは山間部のようだった。

 川が流れていて、その側に馬車が何台も駐まっている。

 馬車に大型のテントを積み込んでいたようで、ちょっとした集落のようになっていた。

 夜霧は、何かの映画で見た巡業サーカス団を思い出した。


「どうなってるのか状況がよくわかんないな。まあ、訊いてみればわかるか」


 少しずつ、死の気配が強くなってきている。

 それはこのあたり一帯を覆っているので、ここにいる全員をまとめて殺せるような何かなのだろう。

 明確な殺意ならそれとわかるが、この場合はそうではない。

 このパターンとは以前にも遭遇している。侵略者(アグレッサー)のクラヤミがそうだった。あれに殺意があったのかはわかないが、クラヤミが通りすぎた後は全てが乾いて死滅していたと聞いている。

 つまり、圧倒的な力を持つ何かがこのあたりを通ろうとしているが、ここに来る可能性はそれほど高くはない。そんな状況のようだが、気配が強くなっているので、多少は可能性が上がりつつあるのだろう。


 ――ちょっとまずいか。まあ、(だん)ノ(の)(うら)さんに何かあるようなら、もこもこさんが教えてくれると思うんだけど。


 知千佳だけで対処できないなら、すぐに夜霧を呼ぶだろう。存在そのものがいい加減なもこもこだが、知千佳の守護霊としては信頼している夜霧だった。

 だが、なるべくなら早く知千佳のところに行っておくべきだろう。

 さきほどからあたりを見まわしているが、見える範囲に知千佳はいなかった。

 人の気配を感じたので、そちらへと向かってみる。

 テントを回り込んでいくと、知千佳が縛られているのが目に入った。光る鎖が知千佳に巻き付いているのだ。そして、その場にいるほとんどの者が同様の状態になっていた。

 テオディジアとエウフェミアが戦っているので、どうやら敵がやってきたようだが、その敵はマニー王国の兵士たちだった。


「何がどうなってるんだよ」


 まだ頭がぼんやりとしていて、うまく状況を把握できない。

 だが、最優先なのは知千佳を助けることだ。

 夜霧が近づいていくと、知千佳が振り向いた。


「高遠くん! 今まで何してたのかな!」

「いや、たぶんわかってると思うけど、寝続けてただけだよ」

「こんな大騒ぎしてたのに!?」


 そう言われると申し訳なくもあるが、気付かなかったのだから仕方がない。

 夜霧は知千佳の前へと回り込んだ。

 中々に見応えのある状態になっていた。胸の上下を光の鎖が縛り上げているので、よりはっきりと形のいい胸が強調されているのだ。

 魔法的な鎖なのかと思っていたが、実体があるらしい。


「……俺、こーゆーの好きかも……」

「いやいやいや! じっくり見てないで助けてくれないかな!」

「でも、こんなの初めて見たし」

「こんなんでよければ後でいくらでも見せたげるから、今はこれどうにかしてよ!」


 少々もったいないと思いつつも、夜霧は知千佳を縛る鎖を殺した。

 光の鎖が霧散した。やはり本物の鎖とは異なる存在なのだ。

 全員は解放しなかった。それは単純に難しかったからだ。

 夜霧の力は、基本的には生物を殺す力だ。応用で様々なものを殺しはするが、生物以外が相手になると精度はそれほど高くない。

 なので、目の前にある鎖を殺すのは可能でも、広範囲に散らばり、様々な状態で半魔を縛り付けている鎖を一度に殺すのは、難しかった。


「で、寝起きには中々に辛い状況なんだけど、何がどうなってるんだ?」


 半魔たちが光の鎖で縛られていて、騎馬の一団がやってきていて、テオディジアとエウフェミアが戦っているが、攻撃がまるで通用していない。

 そんな状況のようだが、事情がさっぱりわからなかった。


「この人たちは半魔を奪い返しに来たんだって」


 知千佳が経緯を簡単に説明した。幸いというべきか、敵は夜霧がやってきたことにさほど注目はしていないようだ。テオディジアたちが諦めるのを待っているらしい。


「めんどくさい状況だな……」


 話を聞いた夜霧は頭を抱えたくなった。法を優先するなら、マニー王国の言い分が正しいようにも思えるが、そもそもその法に正当性があるのか。

 かといって、異世界からやってきた夜霧が、ろくに歴史や経緯も知らずにこの世界における国や法の在り方に口出しはできないだろう。


 ――けれどまあ、どっちの味方をするかとなると。


 夜霧は、塔での半魔に対する仕打ちを思い出した。

 魔力を効率よく奪うために、人の身体を生きたまま解体する。

 それをする側には理由があったのかもしれないが、それを許していいとはとても思えなかった。


「とりあえず、話し合いだな」

「それ、さっきやってみたけど!?」

「問答無用な賢者たちとは違うなら、話ぐらいしてみてもいいだろ」

「自分ならどうにかできそうと思ってる感じが腹立つな!」


 夜霧は、ダリアンに近づいていった。

 すると、夜霧に気付いたテオディジアとエウフェミアが、攻撃をやめて跳び下がった。夜霧の側までやってきたのだ。


「助けてもらえるのか。正直埒があかない。手は出し尽くしたが、何の手応えもない」

「ちょっと、信じがたいですね。オリジンブラッドを圧倒する人間がいるなんて……」

「とりあえず話をしてみるよ」


 夜霧はダリアンまで数メートルの地点で止まり、馬上の彼を見上げた。

 第二王子らしい。

 確かにそんな雰囲気だと、夜霧は思った。


「今さら出てきたということは、真の代表者ということでいいのかな?」

「代表者か。そういうことになるのか?」


 一人、先頭に立っている時点で、そういうことになるのだろう。


「それで、諦めてくれたのかな? 僕もできるだけ荒事は避けたいんだよ。このままついてきてくれるとありがたい。ああ、もちろん、ついてくるのは奪われた者だけでいい。所有権のない半魔については、返す先がないからね」


 穏やかで自信に満ちた態度だった。

 ダリアンには罪悪感などまるでないのだろう。

 彼は世直しの一環でここに来て、自分の行いが間違っているとは思ってもいないのだ。


「荒事を好まないってのは俺も同じだよ。だから、黙って立ち去ってくれないかな?」

「……ふむ。君はこの状況が理解できていないのかな? 君たちの攻撃がまるで通用しないのは、見ていたのなら十分にわかっただろう」

「通じないとして、そっちも攻撃してこないんなら、どうにもならないじゃないか」

「なんにも交渉になってないんだけど!」


 ツッコミながら知千佳が隣にやってきた。


「やってみてわかったんだけど、ろくに人と話してこなかったから、こういうの向いてないな」

「だったらなんで話し合いとか言ってんの!?」


 知千佳が呆れ交じりに言う。

 しかし夜霧としても、積極的に攻撃をしてこない相手を殺すわけにもいかなかった。


「この程度じゃ力の差をわかってはもらえないのか。だったら仕方がないな」


 ダリアンが右手を真っすぐに上へ伸ばす。

 右手の先に生まれた光が空へと伸びていき、天空に複雑な幾何学模様を描きはじめた。

 立体複層魔法陣とでもいえばいいのか。文字と図形が絡み合ったそれは、球状に展開していく。

 光で埋め尽くされた陣は、そこから下へと伸びはじめ、山々を覆い尽くし円柱となった。

 そして、寒気がするほどに大きく、神々しいまでに輝く柱は、何の前触れもなく消え去った。

 それを見ていた者たちはとまどった。

 あまりに静かだったのだ。

 すぐそこにあった山々が消えているというのに、その実感がまるでない。

 そこにあるのは、虚ろだった。

 見渡す限りの、底の見えない穴ができている。

 それは、最初からこうだったとしか思えないような光景だった。


 ――なるほど。さっきから感じていた死の予感は、これか。


 これを直接喰らえば半魔のキャンプ地など一瞬で消え失せるし、ここまで広範囲に影響を及ぼせるなら逃げることもできないだろう。

 半魔たちは絶望に沈んだ。

 ここまで圧倒的な力を見せつけられては、逆らう気力もなくなるだろう。


「さっすがダリアン!」

「地形変わるってどんだけだよ!」

「地図書き換えないとだめだよね、これ?」

「いや、これでも手加減してるんだけどね。陣を発動したのも、わかりやすいようにだし」

「どこが手加減なんだよ!」

「半魔相手にここまでしなくてもいいのに。あーあー可哀想に、固まっちゃってるじゃん、こいつら」


 対して、王国軍は喝采していた。今まで黙っていたダリアンの部下たちが、ダリアンを褒め称えているのだ。


「ん? なんか雲行きが怪しい?」


 知千佳は首を傾げていた。


「そうだな。王国軍って雰囲気でもないような」


 ダリアンが喋っているだけなら、威厳を保てていた。

 だが、部下たちが喋りはじめると、途端に空気が変わったのだ。


「さて。どうかな? おとなしくついてきてくれる気になっただろうか」

「いや、デモンストレーションでそれ見せられてもさ。そっちは、半魔を殺さずに連れて帰りたいわけだろ? 意味あるの?」

「困ったな。ここまでしても、まだわかってくれないのか」

「だめっすよ。ダリアン。こいつらダリアンのお情けをわかってねーんですよ。人の一人や二人、目の前で殺してみせねーと理解できねー馬鹿なんすよ」


 そう言って王国軍の一人が前に出てきた。


「しかし……ああ、そうか。奪われた半魔以外なら、殺してもさほど問題はないね。所有権のない半魔は野生動物と同じだから」

「いや、今度はこっちの番だろ?」


 ダリアンが何かをする前に、夜霧は話しかけた。


「というと?」

「ただ帰れって言っても無駄なのはわかった。だから、王子様以外で、俺から一番近い所にいる奴を殺す」

「高遠くん! それは……」

「言いたいことはわかるけど、俺にできるのはこれぐらいだろ」


 何も殺す必要はない。

 彼らはまだ直接的な危害を加えてきてはいない。

 彼らは悪人とは言い切れない。

 知千佳の言いたいことはそんなところだろう。

 だが、半魔に味方するということは、王国と敵対するということであり、それは王国軍と戦うことを意味する。

 被害を最小限に留めようとは思うが、中途半端に身体の一部を殺すなどしたところで夜霧の脅威を示すことにはならず、ずるずると被害が拡大していくだけだろう。

 見せしめのつもりなら、やはり一人は殺す必要があるのだ。


「いいぜ、殺すってのなら、俺を()ってみろよ!」


 先ほど前に出てきた男がさらに馬を前に進め、挑発するように夜霧の目前にまで迫ってきた。


「ほらほら、どうした? 何をどうするってんだよ? ダリアンの作ったこの無敵装甲を前に何ができると――」

「死ね」


 夜霧は、誰が見てもわかるようにと指差した。


「それで気がすんだかい? だったら――」


 ダリアンの言葉は、男が落馬したことで途切れた。

 そして、空気が変わった。

 王国軍の人間は、こんな結果になるなど思いもしなかったのだろう。

 夜霧は衝撃が浸透するのを待った。

 全滅させるのは容易いが、積極的にそうするつもりはない。

 しょせん、その場凌ぎではあるのだが、追い返す以上のことをするつもりもないからだ。


「俺は任意の相手を殺すことができるんだ。だから立ち去ってくれ」

『皆殺しにせんのか?』

「国外まで行けばこいつらもわざわざ追ってはこないだろ」


 後々面倒だというのはあるが、夜霧や知千佳を狙っているわけでもない相手だ。さすがに気が引ける思いはあった。


「貴様! 我ら無敵軍団をなんと心得る!」

「いや、だから無敵じゃなかっただけだろ」


 状況は飲み込めたのだろう。だが、撤退するという選択肢はまだ浮かんでこないらしい。


「いいわ! こんな奴、ダリアン様の手を煩わせるまでもない! 私の魔法で――」


 ダリアンの背後にいた女が叫ぶが、最後まで言い切ることはできなかった。

 先ほどの男と同じく、落馬して動かなくなったのた。


「当たり前だけど、攻撃してきたら反撃するからな。それと、逃げる人は攻撃しないから、安心して逃げて」


 脅しているつもりなのに、どうもうまくいかない。

 夜霧は自分の交渉の下手さをあらためて自覚していた。

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