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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
5章 ACT1

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第4話 無敵軍団って小学生かよ!

 知千佳の類いまれな視力は、騎馬の一団を捉えていた。

 軍服の兵士を乗せた十頭の馬が、こちらへとやってきているのだ。

 騎馬が近づいてきて、知千佳は軍服に見覚えがあることに気付いた。

 先日まで過ごしていた、マニー王国のものだったのだ。


『しかし、軍がなんの用なのだ?』


 王都が崩壊しているのだ。軍なら王都周辺でやるべきことはいくらでもあるだろう。


「なんか、追われるようなことしたっけ?」

『暗殺ギルドのなんたらを殺しておるし、大司教とかも殺しておるし、十分に犯罪者だな』

「そうでした……なんか麻痺しちゃってたけど……」

『だが王都があの状態だ。証拠などあるまいし、捜査なぞしておる場合ではないと思うがな』

「まあ、リックさんからもらったあれがあるから、話ぐらいはできると思うけど」


 マニー王国の第三王子であり、現在の剣聖である、リチャードからもらったアミュレットがある。

 それは、リチャードの関係者であることを示すもので、マニー王国内でなら便利な代物だった。軍の一部隊ぐらいならこれで丸め込めるかもしれない。


『小僧を起こすか?』

「うーん。なんでもかんでも高遠くんに頼りっぱなしってのもね」


 マニー王国の軍隊なら話は通じるだろうというのもあるし、危険なら勝手に起きてくるだろう。

 知千佳が何かがやってくるほうへと向かうと、半魔たちはすでに迎撃態勢を取っていた。

 その集団の先頭には、テオディジアとエウフェミアが立っている。

 目には見えないが、彼女たちがいるあたりが結界の境界近くのようだ。

 知千佳は先頭近くまで駆け寄った。


「私は魔術には疎いのだが、結界は正常に機能しているのか?」

「はい。問題なく作動しています。オリジンブラッドとしての力ですから、そう容易く看破されるものではないはずですが」


 テオディジアの質問にエウフェミアが答える。

 外部からはここに何もないように見えているはずとのことだった。

 だが、騎馬の軍に迷いはなく、結界の近くまでやってきて、止まった。

 総勢十名。男女比は半々。年齢は様々だが、少なくとも知千佳よりは上のようだ。

 全員が軍服を着ていて、乗っている馬は装甲に包まれていた。

 そして、先頭にいる大柄な男と知千佳の目が合った。やはり結界は通用していない。


「あの……」

「我々はマニー王国第二王子、ダリアン様率いる無敵軍団である! 貴様らを殲滅するためにやってきた!」

「無敵軍団って小学生かよ!」


 朗々と大声が響き渡り、知千佳は反射的に言い返していた。


「貴様! 我らを侮辱するか!」

「いきなりやってきて殲滅するとか言われてるのに侮辱もなにもないでしょ!」

「ジョルト、殲滅したりはしないよ」


 そう言いながら、一人の少年が前へと出てきた。

 知千佳は、その少年こそが第二王子のダリアンなのだと直感した。どことなくリチャードに似ているし、雰囲気が他の者とはまるで異なるのだ。


「そうなのですか? これほどの数、野放しにはできないと思ったのですが」

「だからと言って彼女たちを脅してどうするというんだ」


 ダリアンの物腰は優雅であり穏やかだった。これなら十分に話し合いの余地があると知千佳は考えた。


「彼女らは、耐久消費財であり、我が国民から奪われた財産だ。できるだけ損なわずに、持ち主の元に返す必要があるんだよ」

「ちょっといい人かと思った私が馬鹿だった!」


 知千佳は、この世界にはろくな男がいないことを、あらためて思い出した。

 だが、それでも今までに出会ってきた敵に比べればまだ良いほうだろう。賢者たちのような、暴虐の果てに辿りついたような存在を相手にするよりはよほどましだと思われた。


 ――どうしたもんかな……。


 知千佳は、テオディジアを見た。実に冷めた目をしているが、その奥にあるのは激情だ。今にも飛び出して、無敵軍団とやらに襲いかかりかねなかった。


「ちょっと、いいですか!」


 知千佳は、アミュレットを掲げて、王子へ話しかけた。

 まずは事情を聞く。何をするにしてもそれからだと思ったのだ。

 知千佳が前に出たことで、テオディジアの殺気が多少は抑えられた。話をするなら一旦は任せるという態度になったのだ。


「ああ、リックの友達が来てるって聞いたけど、君のことかな? でもどうしてこんな所で、半魔と一緒に?」

「あー、たまたまそこで出会いまして。その、第二王子様、ですか? あなたこそどうしてここに?」


 ――もうちょっとなんか考えてから話しかけろよ、私!


 ろくな言い訳になっていなかったが、知千佳は勢いだけで強引に話を進めた。


「ダリアンだよ、よろしくね。僕は王族が継承する封印の力がそれほど得意じゃなくてね。王都にいてもあまり役に立たないから、国内を漫遊してちょっとした世直しのようなことをやっているんだ」

「ここに来たのも世直しの一環なんですか?」


 たまたま来たというわけではないだろう。明確な目的があってここまでやってきたはずだ。


「ふむ。そうか。君は異世界の人だから事情をよく知らなかったんだね。だったら大丈夫だよ、君が罪に問われることはない」


 いまいち話がかみあっていないが、知千佳たちが異世界からやってきたことは知っているようだ。

 それは見た目での判断かもしれないし、リックから聞いていたのかもしれない。


「その、この人たちを連れていくために来たんですか?」

「そうだよ。半魔強奪事件があってね。半魔はそれぞれ所有者の元へ返す必要があるんだ」

「いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ。この人たちは、不当に拘束されて、扱き使われてたって聞いてますよ? おかしくないですか?」

「人の物を勝手に持っていくのは犯罪だろう? それはどこの世界でも同じじゃないかな?」

「物……じゃないですよね?」

「確かに物ではないけれど、我が国の法では半魔は動産として扱われる。占有権を持つ所有者がいるんだよ。勝手に持っていったからって、所有者が変わるわけじゃない」

「この人たちは動物じゃないんですよ? 見た目がちょっと違うだけの人を所有とかおかしいんじゃないんですか!?」

「ふむ。確かに僕も思うところはあるよ。けれど、現時点の法がそうなっている。法をないがしろにすることはできないよ」

「うん。話通じないな!」


 この国の法がそうだというなら、道徳や倫理面で反論するのは無駄なようだった。


『こやつらが連れていかれたとして、我らには関係がないのではないか?』

「けどさ、見過ごせる?」


 知千佳は小さな声で返した。もこもことなら、他者に聞かれずに話をすることが可能だ。


『郷に入っては郷に従えということわざもある。国家と対立するのはいろいろと不味いぞ?』


 王が死んだ後は第一王子が暫定的に跡を継いだということだった。その第一王子が王都にいたのなら死んでいる可能性もあるだろう。つまり、現時点でこの第二王子こそがマニー王国の最高権力者なのかもしれないのだ。


「うう……」


 しょせん、知千佳たちは余所者だ。この世界の住人同士が対立しているとして、そこに首を突っ込む権利はない気もしてくる。


「少し様子をみていましたが、話し合いが成立するとは思えませんね」

「同感だ。こいつらを排除するしかないだろう」


 エウフェミアとテオディジアが前に出て、知千佳たちを下がらせた。


「さて。我々は十名しかおりませんし、そちらは百名を超えています。全員を拘束して連れていくのはさすがに手間ですね。できるだけ、傷つけずに連れていきたいものですが――」

「知るか」


 話を遮るかのように、テオディジアが剣を抜いた。

 その閃きは黒に染まり、闇の刃を解き放つ。

 長く伸びた黒光が狙うのは全員だ。十名全てを薙ぎ払う巨大な剣圧が駆け抜ける。

 だが、その闇の刃は誰一人として傷つけることはできなかった。

 軍服に、馬の装甲に。触れた瞬間に霧散したのだ。

 しかし、その程度は予期していたのか、エウフェミアは片手を掲げて攻撃の準備に入っていた。

 手が赤く輝き、赤光を迸らせる。それは空へと伸び上がり、無数に枝分かれした。

 避けようのない、滝の如き光の奔流が、ダリアンたちへと襲いかかる。

 それは、瞬く間に前方を覆い尽くした。

 その光の一筋一筋はどれほどの熱量を持っているのか。地面は抉れ、削れ、蒸発し、あたり一帯を白煙が包み込んだ。


「やった!?」

『それはフラグだな』


 白煙が晴れ、騎馬の影があらわれる。

 彼らは消滅などしてはいなかった。それどころか、埃一つ付いてはいないのだ。


「少し面映ゆくはあるけれど、無敵軍団の異名は伊達じゃないんだ。僕は魔道具を作成するのが得意でね。この軍服と馬甲は全ての魔法と物理攻撃を遮断するんだよ」

「ふざけるなよ……そんなものが存在してたまるか……!」

「だったら試してみるといい。そうだ、君たちは好きなだけ攻撃すればいいよ。そして、どうしようもないと諦めがついたら、一緒に来てくれるかな?」


 ダリアンたちの足元から、何かが飛び出した。人の背骨のような、槍のようなものが一斉に発生し、馬を貫こうとする。

 だが、それも馬甲に触れた瞬間に砕け散った。

 エウフェミアが血で作り出した赤い槍で突きかかり、テオディジアが剣を薙ぎ払う。ありとあらゆる、使える全ての技能をもって、二人は攻撃を続けた。

 それは、滑稽なありさまだった。

 ダリアンたちは微動だにせずこちらをのんびりと眺めているだけだというのに、攻撃する側だけが必死なのだ。

 そして、それを見ていた半魔たちに変化が訪れた。

 とても敵わない。

 そう思ったのか、じりじりと後退り、一目散に逃げだしたのだ。


「バインド」


 されるがままだったダリアンがつぶやく。

 途端に、知千佳の身体に何かが巻きついた。

 光でできた鎖状の何かが全身に絡みつき、身動きを取れなくしたのだ。

 その現象は、戦っている二人以外の、百名を超える全員に訪れていた。


「逃げるのは駄目だよ。敵わないと思ったのなら、所有者の元に帰ってくれなくちゃ」

「ダリアン様の魔法は常識外れですな……これほどの人数を一度に拘束されるとは……」

「別に難しいことじゃないよ。バインドぐらいジョルトでも使えるじゃないか」

「成功率は低いですし、これだけの人数をターゲットにするなどとても無理ですよ」

「そうかな。頭の中で対象の位置を描くだけのことだと思うんだけど」

「それが凡人の我らには無理なのですよ……」


 ダリアンとジョルトは、猛攻に晒されているとは思えない呑気さで語り合っていた。


「なにこれ!? 全然動けないんだけど!」


 突然あらわれた光の鎖は、実際の鎖と変わらないものだった。

 それが両足と、両腕ごと、胴体に巻きついている。

 力を入れてもぴくりともせず、動きは完全に封じられていた。

 知千佳がいまだ立っていられるのは、優れたバランス感覚が故だろう。拘束されたほとんどの者は、その場に倒れていた。


『ほう? これはすごいな』

「感心してる場合なの!? なんとかしてよ!」

『なんとか、か。まあできんこともないのだが』

「ほんと!?」

戦詩(バトルソング)の解析にはある程度成功しているのだ。このシステムにはいくつかセキュリティホールがある。そこから侵入すれば一定時間システムの影響を無効化することは可能だろう』


 戦詩(バトルソング)というのは、この世界にやってきた際に、クラスメイトたちがインストールされたシステムのことだ。

 そして、この世界で使われる魔法やギフトと呼ばれる能力のほとんどは、このシステム上で動作しているとのことだった。


「じゃあそれやってよ!」

『だが、そう長時間通用するものではないから、タイミングを見計らう必要があるな』

「時間って?」

『三十秒が限界だ。これでは逃げることはできぬ。打開策としては、ダリアンとやらを無力化するぐらいだが、その時間でできるかどうか』


 動けるようになり、三十秒でダリアンを無力化できるかどうか。

 接触さえできれば可能だろうと知千佳は考えている。

 だが、問題は距離だった。

 ダリアンまではそれなりの距離があり、近づくだけでも大半の時間を使ってしまいそうだったのだ。


「なにがどうなってるんだよ」


 背後からそんな声が聞こえてきて、知千佳は振り向いた。

 まだ眠そうな顔をした夜霧が、そこに立っていた。

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