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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
4章 ACT2

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第20話 あたりまえのようにセクハラ発言すんな!

『なにが……どうなったっていうの?』


 声が出せず、綾香は心の中で話しかけた。

 自分が幽霊にでもなったというのでなければ、生きてはいるはずだ。

 だが、目は見えず、体の感覚も曖昧で、自分の状況がまったくわからなくなっている。


『おそらくは原子爆弾だろう。形状から見てファットマンか。ずいぶんと古臭い代物だが、威力は実証ずみだ』

『なぜそれを早く言わなかったのよ!』

『伝えたところで回避は不可能だった。まったく。余計な余裕を見せるからこのようなことに』

『私は……どうなっているの』


 まったくわからない。自分がどうなっているのかを知る手段が何もないのだ。

 何も見えない。何も聞こえない。何も匂わない。

手足が動かないので、触って確かめることもできない。ただ、鈍痛だけが全身を苛んでいる。

 それが、綾香にはたまらなく恐ろしかった。


『原子爆弾ってなんなのよ! 私はいったいどうなるの!?』


 いつか何かで見た原爆被害の資料を思い出せば、絶望しか感じることができなかった。


『落ち着け。まず、放射線による影響は気にしなくていい。我々は、次世代の人類として、熱核戦争後の世界をも生き抜けるように設計されている』

『だが、放射線により大気の原子が励起されることにより発生する高熱。それによる影響は深刻だ』

『私たちは、全身の六割を消失した』


 六割を失った人体。そんなもの、綾香は想像もしたくなかった。


『かろうじて生きてはいるが、行動不能に陥っている』

『あいつは? 竹倉希世子はどうなのよ!』

『ただの人間が爆心地で生きていられるはずもないだろう。あれはカミカゼアタックだ』


 だが、綾香の感覚のほとんどは途絶えてしまっている。

 季世子が最後の一撃を繰り出すべく迫ってきていても、わかるはずなどないのだ。


『どうしろっていうのよ!』

『まずは回復する必要がある』

『本来の肉体だけでは無理だったが、幸い我々にはドラゴンの力がある』

『それを解放する』

『竜魔法、(ドラゴン)(ヒール)を使用する』

『そんな、便利なものがあるのなら、さっさと使えばよかったじゃない!』

『留意事項がある』

『この能力の使用により、我々には不可逆的な変化が生じる』

『人格ユニットによる承認が必要となる』


 久しぶりに聞いたその言葉で、綾香は自分がユニットと呼ばれる人工知能の一部でしかないことを思い出した。


『不可逆ってどうなるのよ?』

『ドラゴンの治癒能力だ。治癒の結果、当然ドラゴンの姿となる』

『それってドラゴンに乗っ取られるなんてことはないでしょうね?』

『それについては我々も十分に検討した。我々が得たドラゴンの肉の中に、このドラゴンの精神を示す兆候はカケラも存在していない。よって、乗っ取られるなどあるはずがないのだ』

『だが、ドラゴンの姿となることは我々の目的からは著しく離れた状態だ。時間はかかるが、我々が本来持つ回復能力のみでの治癒を期待する方法もある』

『そんな悠長なことをしている暇なんてあるわけないでしょう!?』


 即断だった。

 本来の治癒能力とやらで、回復するまでにどれほどの時間がかかるというのか。その間こんな曖昧な、何もわからない状態でい続ける。そんなこと、耐えられるとはとても思えなかった。


『承認を得た』

『では唱えるがいい』

(ドラゴン)(ヒール)!』


 途端にめきりと身体が歪んだ。内側から盛り上がった肉が、焼け焦げた皮膚を突き破り出現した。

 眼球が再生し、周囲の様子がわかるようになる。

 あたりには何もなかった。城壁も森も一切が消し飛んでしまっている。

 そこにあるのは灼熱の嵐。

 高温により発生した大気の渦が、今もなおあたりを撹拌し続けているのだ。

 綾香はその熱を吸収していた。回復のために利用しているのだ。竜の身体がどのような仕組みになっているのかはわからない。しかし、ただの爬虫類もどきということはないようだ。

 巨大な足が伸びていく。足先に鋭い爪が生え、高熱でガラス化した大地に突き刺さった。

 腕があったあたりから伸びていくのは翼だ。このドラゴンには腕はなく、二足歩行で巨大な翼を備えているのだ。

 全身は緑の鱗で覆われ、ゴツゴツとした角状のものが背骨にそって生えていく。

 完全に修復が完了するまでに、それほどの時間はかからなかった。


「案外、嫌悪を感じないのね」


 身体構造の違いに苦しむかと思ったが、綾香はドラゴンの身体にすんなりと馴染んでいた。

 大地を踏みしめ、翼を羽ばたかせる。尾を振り回し、顎を大きく開いてみた。

 全ては思いどおりだ。綾香は、このドラゴンの身体を自由に操ることができた。


「さて。では復讐を続行しないとね」

『……この有様だぞ? お前の復讐すべき相手は全滅したのではないか?』

「全滅したと納得できればそれでいいわ」

『しかし(ドラゴン)(センス)はここでは使えぬしな……ふむ。この身体になったからこそ使えそうな手があるか』

「なに?」

(ドラゴン)(ウォーリア)ですね。牙から作りだすことができますよ』


 綾香はさっそく口内から、牙をぼとぼとと落とした。

 抜けた歯はすぐに生えてくるため、たいして抵抗は覚えない。

 落ちた牙は地面に潜り込み、そこから何かが這い出てきた。

 綾香だった。

 ドラゴンになる前の、人間の姿をしている綾香が次々と地面からあらわれたのだ。

 彼女たちは、兜と鎧を身に纏い、槍を手にしていた。


『彼女らを放てばいい。彼女らが見聞きしたものを我々は知ることができるし、彼女らが倒せそうな相手がいれば倒してしまえばいいわけだ』

「なんだか、もうめんどくさいとでも言いたげね」

『無駄な行いに思えてな。この状況で生き残っている者がいるとはとても思えない』


 (ドラゴン)(ウォーリア)は、八方へと散っていった。

 綾香は、この近辺にあった城壁に辿り着いたところで竹倉希世子と遭遇した。

 ならばクラスメイトはこのあたりにいるのだろうし、障害物のほとんどがなくなった今、生き残っている者を見つけ出すのは簡単なはずだった。

 それは、すぐに見つかった。

 少女が三人に、男を背負った少年が一人。何もなくなった、地獄のような荒野を歩いていた。

 クラスメイトの壇ノ浦知千佳、二宮諒子、キャロル・S・レーン、花川大門だ。

 彼女たちもまた、(ドラゴン)(ウォーリア)に気付いたようだ。もしかすると、本体たる綾香にも気付いているかもしれない。今の綾香は巨大なのだ。遠くからでも簡単に見つけられることだろう。

 綾香は、(ドラゴン)(ウォーリア)をけしかけることにした。今となっては、綾香の姿をしている(ドラゴン)(ウォーリア)こそが復讐に用いるには相応しい気がしたのだ。

 周囲にいた(ドラゴン)(ウォーリア)を一か所に集め、密集陣形を取らせる。槍を構え突撃させるのだ。

 彼女たちも何らかの能力を持っているだろうし、それで反撃してくるかもしれないが、それは構わない。それで敵の能力の一端でも知ることができればそれでいい。


「行きなさい」


 号令をかけると、(ドラゴン)(ウォーリア)は槍を前方に向け、突撃を開始した。

 だが、その突撃は唐突に止まった。(ドラゴン)(ウォーリア)がばたばたと倒れていったのだ。


「なにが起こったというの!?」


 クラスメイトたちは何をしたようにも見えなかった。ただ歩いているだけなのだ。

 なのに、(ドラゴン)(ウォーリア)は倒れ動かなくなった。

 綾香は、別の場所にいた(ドラゴン)(ウォーリア)にも指示を出す。ここに集まってきて、奴らを倒せと命令する。

 だが、結果は同じだった。彼女たちの前に立っただけで、次々と倒れていくのだ。


『待て! 様子がおかしい! これ以上無駄に兵を動かすな!』

『これは……この現象は……』

『Α(アルファ)Ω(オメガ)……奴が……ここにいるというのか……』

「あなたたち、何を言っているの?」


 綾香にはわけがわからなかった。

 だが、綾香の内にいるユニットたちには何らかの心当たりがありそうだ。


『お前の復讐はここで終わりだ』

『ただちに撤退する』

「は? いったい何を言って……」

『我らはあれには勝てない。戦えない。関わってはならないのだ』

『そもそも、力を解放した奴を我々は認識することすらできない。戦いにすらならない』

「だから! ちゃんと説明しなさいよ! 何が言いたいのかさっぱりだわ!」

『我々は次世代の人類のためのプロトタイプだという説明は以前にしたな?』

「そうね。だから核戦争後の世界で生きられるような設計になっているなんて話でしたね」

『それも人類に訪れる脅威の一つとして考慮されているが、制作者たちが考えていたのは、もっと差し迫った危機だ』

『核戦争よりも、もっと発生確率の高い危険要素。つまり、ΑΩと呼称される個体により人類が絶滅した場合を想定した次世代人類が我々だ』

『我々は、人間のふりをやめた高遠夜霧、ΑΩを認識できない。認識したというそれだけで、ΑΩの影響を受けかねないからだ』

「は?」


 なぜここで高遠夜霧などという、いつも寝てばかりのクラスメイトの話が出てくるのか。

 綾香はさらに混乱した。わけがわからなすぎるのだ。


「だから……わけのわからないことを言わないで! 撤退ですって! こんな姿にまでなったのは復讐を続けるためでしょう!? 今そこにそのターゲットがいる! 見逃すような真似をするなら、私という存在の意義はどこにあるというの!」


 綾香の顎から炎が漏れ出る。綾香は大きく顎を開いた。

 その口腔内には炎が揺らめいている。その炎はまるで綾香の怒りに呼応するかのようだった。

 本来の姿で放つ(ドラゴン)(ブレス)

 その威力は、綾香の姿で放っていた時の比ではない。概念として抽出された模倣品ではなく、本来の、本当の、正真正銘の竜の咆哮だ。

 だが、綾香はそれを放つことができなかった。

 放とうと考え、咆哮を上げようとした瞬間に彼女は事切れていたのだ。


『人格ユニットが消えたわ』

『なるほど。我々の機能が停止していないということは、完全に独立したユニットの多重化には多少の効果はありそうだ』

『惜しむらくは、この結果を誰にも伝えることができないということですね』


 結局のところ、篠崎綾香という個体を統合していたのは、人格ユニットだった。

 彼女が消え去った今、篠崎綾香を保つことなどできはしない。

 ユニットたちは、静かにその機能を停止していった。


  *****


 半透明の塊は、魔界の魔物を取り込んでいた。

 おそらくは手当たり次第だ。

 手近な物体を取り込むか、動く物に反応してそちらに近づいていく程度の動きしかしていない。

 それに知性と呼べるようなものはないのだろう。

 それは時折、空を飛ぶ春人に反応してか、上方へと触手らしき物を伸ばしてくる。

 届くはずもないのだが、春人は念のためにさらに高度を上げた。


「まずいな。もう状況は変わったと考えたほうがいいか」


 このまま塊が増えていけば、クラスメイトは全滅だ。選抜戦どころの話ではなくなってしまう。

 だが、賢者シオンはこの状況を把握していて、これも試練の一つだと考えているのかもしれない。

 幸いこうして空中に浮いていれば、塊からは逃れられる。だが、選抜が続いているのなら、春人はシオンに殺されるだろう。春人は選抜が開始されてから、まだ誰も殺していないのだ。

 春人は状況を確認すべく、魔界の大穴を見た。

 塊の出現状況によっては、クラスメイトたちはすぐに全滅するだろう。その場合、空中に浮いて傍観しているだけで、春人は最後の生き残りとなれる。

 塊の出現速度にはたいして変わりがない。

 だが、穴の縁の様子は大きく変わっていた。

 そこは、赤黒く、うねうねと蠕動する何かへと変質を遂げていたのだ。

 まるで内臓のようだと春人は思った。

 ならば、半透明の塊は白血球のような、外敵を排除するための存在ではないかと連想する。

 そして、更なる嫌な予感を春人は覚えた。

 あの半透明の塊でさえ、まるで打つ手がない。では、それを使役する本体とは何者なのか。

 それは、この魔界全体を体内とする、途方もないバケモノなのではないか。

 それは、今まさに目覚めようとしていて、この変質ですらただの前兆でしかないのではないか。

 春人は決断を下した。

 速やかに魔界を脱出する。どちらにせよ死ぬ可能性があるのなら、脱出に賭けたほうがいい。

 春人はさらに上方へと飛翔した。彼にとって一層に辿り着くこと自体はそう難しくはないのだ。

 問題となるのは、魔界中心部を守る何かだった。

 魔界を飛んで進んでいく程度のことは、誰でも思いつく。それが実行されなかったのは、魔界中心部の穴を飛んでいくと何かに撃墜されるからだった。

 賢者候補たちはその問題を、頑丈に作った小屋を崖際に沿って落とし、扉間を転移することでクリアした。だが、春人が飛んで一層を目指した場合はたしてどうなるのか。

 覚悟を決めて上昇する。

 しばらく飛んでみた春人だったが、幸い何者にも邪魔されなかった。

 理由はわからない。

 そして、春人は理由を考えるどころではなくなった。

 閃光。

 背後からのそれに気付いた春人は振り向こうとして、遅れて到達した轟音に吹き飛ばされた。

 超高熱の上昇気流に巻き込まれていたのだ。

 全身を焼きつくされ、飛んでくる瓦礫に打ちのめされる。そして天井に激突した。

 六層から一層までの約6キロメートル。突如として発生した上昇気流は、その距離をものともせず、春人を天井に叩き付けたのだ。

 全身を砕かれたかのような激痛に苛まれながらも、春人はよろよろと熱風の中を飛んだ。

 ろくに翼は動かなかったが、気流のおかげでどうにか浮いていられたのだ。

 だが、この気流もいずれは落ち着くだろう。それまでに地面のある所へと辿り着く必要がある。

 春人は、絶体絶命の危機に陥っていた。


  *****


「これ、篠崎さんよね?」


 キャロルは、突然あらわれてバタバタと倒れていった少女たちを、まじまじと見つめていた。

 槍を構えて突撃しようとして、勝手に死んだのだ。

 いきなりのことに呆気に取られていたが、これが高遠夜霧の力なのだろう。


 ――本当に、なんの兆候もなく、いきなり死ぬんだ……。


 実際に見てみても、キャロルには信じられなかった。

 もう少し、なにかわかりやすいことでも起こってくれれば、納得ができる。

 だが、夜霧は特になにをするわけでもなく、ただ敵が死んでいくのだ。これで信じろと言われても、それは無理だろうとキャロルは思う。


「篠崎さんね」


 諒子が淡々と言う。彼女も即死の力を目の当たりにするのは初めてのはずだが、夜霧の力を信じ切っているのか、当たり前のことが起こったとでも思っているようだ。


「篠崎さんね、じゃないでござるよ。その篠崎さんが何人いると思ってるのでござるか!」

「二十人ぐらい?」

「いや、別に数を教えてくれと言ってるわけではなくてですね! 二人以上の時点で異常でしょうが、と言ってるのでござるよ!」


 真顔で言う夜霧に、花川が答えた。


「でもまあ、考えても仕方がないよね。そういう能力なんじゃないの? それより、私はあれのほうが気になるんだけど」


 知千佳が進行方向左手を指差す。

 少し先に、ワイバーン型のドラゴンが倒れていた。

 魔界の魔物が核兵器で死んだのかもしれないが、それにしては妙に綺麗なままだ。


「あれさ。この世界に来たばかりの時にバスを襲ってきた奴そっくりなんだけど」

「ああ! ドラゴンカーセックスしてたやつか!」

「あたりまえのようにセクハラ発言すんな!」


 思い出したのか夜霧が手を叩く。だがキャロルからすれば、ドラゴンの区別などつけようがないようにも思えた。


「これも高遠くんがやったのでしょうか?」


 諒子が聞く。やはり当然のことと思っているようだ。


「うん。こっちを狙ってたから」

「まあ、死んでるんなら気にしなくていーんじゃない? そういやちょっと気になったんだけどさ」


 この状況でする話でもないのかもしれないが、キャロルは聞いた。


「なに?」

「狙われてるのがわかって、その相手を殺せるんだよね」

「そうだね」

「じゃあさ、こんな状況を生んだ核兵器? 爆発前に対応できなかったの?」


 夜霧は今も周囲の危険を殺し続けているらしい。放射線や熱や暴風をシャットアウトしているのだ。それはとんでもない能力だろう。

 だが、そもそもこんな状況にならないようにもできたのではないか。キャロルはそれが気になっていたのだ。


「ああ、なんていうのかな。漠然とした言い方でなんだけどさ。これ、誰かが必死になってやったことだと思うんだよ。だから、邪魔しちゃ悪いかなって」


 ――こいつは……!


 キャロルはその言葉にそこはかとない不気味さを感じていた。

 倫理観の異なる、別世界の生き物と話をしているような気分になったのだ。


「というかですよ! ここでのんびりしてる場合じゃないと思うのでござるよ! もう覚悟は決めましたからさっさと行きませぬか! もう時間がないかと思うのですが!」

「時間って?」

「あ、いや、その……とにかくさっさと行くにこしたことはなかろうでござるよ!」


 なぜか花川は焦っている。少し怪しいが、確かにここで立ち止まってもいられないだろう。

 花川が背負っていたデイヴィッドを地面に横たえた。やはり、夜霧と花川の二人で行くことになったのだ。

 キャロルはシステムウインドウでマップを確認した。この一帯にあった城壁は消えてしまったが、選抜戦の範囲は赤いラインではっきりと表示されている。

 あとほんの数メートルで辿り着く位置にキャロルたちはいた。


「じゃあ行くか」


 夜霧が無造作に花川の手を掴み、歩きだした。


「うう……。放り出されないだけまし。ということでござるか……」


 花川も特に抵抗はせず、あっさりとシオンが提示した選抜戦の範囲外に出た。


「ん? 特に何もないような……てかですよ? こんな有様ですし、賢者様もわけわかんなくなっちゃってんじゃないでしょうかね?」


 そうは言うが、花川も本気でそう思っているわけではなさそうだった。


「いえいえ。ちゃんと把握しておりますよ。この程度のこと、賢者候補同士が争うとなれば想定の範囲内のことです」


 いつの間にか、白いドレスを着た女、賢者シオンが夜霧たちの目の前に立っていた。

 キャロルにはシオンがどこからあらわれたのかわからなかった。

 核兵器で更地となった荒野。隠れていられる場所などなかったはずだが、気付けばシオンがそこに立っている。


「あんたが賢者シオンって人か」

「おーい! もうちょっと話し方ってもんを考えたほうがいいのではござらんか!?」

「はい。そう言うあなたは高遠夜霧さんでしたか。始末したようなことを聞いた気も――」


 そこで、シオンが唐突に体勢を崩した。

 それは酔っ払いが立っていられなくなったような、足を挫きでもしたかのような動きであり、シオンはあっさりと尻餅をついた。

 シオンは、呆けたような顔になっていた。この状況が信じられないのだろう。

 そして、それはキャロルにとっても信じがたい光景だった。

 これまでにキャロルが見てきたシオンは、クラスメイトたちを弄ぶ、逆らいようのないバケモノだった。

 それが、こうも簡単に地に倒れ、夜霧に見下ろされている。


「あんたとおしゃべりするつもりはないんだ。こっちの聞きたいことだけ答えてくれ」


 夜霧以外、皆が黙り込んでいた。まだ状況を把握できていないのだ。


「って、何がなんだかわからんのでござるが!」


 花川だけがいつもどおりだった。


「そいつの右足首を殺した。練習の成果だ」


 夜霧は、どこか得意気な様子だった。

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