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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
4章 ACT2

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第17話 え? いや、おかしくない? なんで、我、負けたことになってんの?

 城壁からは銃声が聞こえていた。

 最初のように連射ばかりしているわけでもないようで、時には断続的な、時にはより巨大な爆発音が聞こえてくる。どうやら様々な銃火器が使用されているようだ。

 だが、その戦闘音も次第に遠ざかっていく。どうやら場所を変えながら戦い続けているらしい。


「ただじっとしてるってのもちょっと辛いよね」


 知千佳は森の中、木に登って姿を隠していた。気配は完全に消している。この会話も、もこもこ以外が聞くことは不可能だろう。


『だが、この状況ではどうしようもないがな。ガチバトルなら、お主の技能とバトルスーツの性能でどうにかなりそうな気はするが、手妻の類だと対応しようがないしの』


 知千佳はバトルスーツを身に付けて戦闘に備えていた。

 積極的に戦うつもりはないが、これがあるのとないのとでは、戦闘力に格段の差が出てくる。

 身を守るにしろ、逃げるにしろ、役に立つはずだった。


「できても戦わないけどね」


 本気で殺しにかかってくるクラスメイトと戦うなど嫌に決まっている。

 なので、早く夜霧と合流したいところだった。彼ならば、この局面を打開できるかもしれない。そう知千佳は考えている。


『ほう? 索敵系の能力を使う者がいるとは考えていたが、こんなやり方とはな』

「ん?」


 もこもこが何かに気付いた様子なので、知千佳は注意深く周囲を観察した。

 だが、特に異変を感じることはできなかった。


『雑霊だな。雑魚どもの霊を使役し周囲に放っておる者がいる』

「え? どこ?」

『周りをうようよとしておるが』

「そうなの!?」


 知千佳は霊視能力に目覚めたとばかり思っていたが、霊ならなんでも見えるわけではないらしい。


「それまずいんじゃないの? 食べたりとかできる?」

『あほうか! なぜ我がそんなもん食べねばならんのだ!』

「いや、お化けって、やっぱお化け食べるのかな、とか思って」

『戯れ言を言うておる場合ではない。かなりの数だ。ここら一帯の状況は術者に把握されておると考えたほうがよいな。おまけに電波障害が発生しておる。これでは小僧と連絡が取れん』

「なんでお化けで電波障害が……」

『あれだ。ホラー映画などで、急に電話がかけられなくなったりするだろう? スマホの電波が不安定になったりするのは霊のせいなのだ! 肉体のない我々のような存在は、電磁波とか光とかそーゆーもんに近かったりするからな』

「うわー、全然納得できない……ま、それはともかく。術者っていうけどさ。そんなことできそうな人いたっけ?」


 知っている限りの能力を思い浮かべてみるが、そんなことができそうな者に心当たりがない。

 一番それらしいのは死神だが、該当者はすでに死んでしまっている。


『もともとそんな能力を持っていた。などの可能性はあるな。それか、クラスや能力を偽っておったか。しかし見つかったとなると、じっとしておるのはまずいな』


 知千佳は樹上から飛び降りた。位置を知られてしまったなら、すぐに移動するしかない。

 そう考えて適当に進もうとしたところで、人の気配を感じた。

 知千佳のほうへやってくるその気配は、自らの存在を隠そうとはしていない。

 だが、いくら知千佳の目がいいといっても夜目には限界があり、何者かまではわからなかった。


「ともちー!」


 ろみ子の声だった。

 だが、知千佳はそのまま逃げることにした。

 そもそも、友達が相手だからと無条件で信用するぐらいなら、一人で逃げてはいないのだ。

 ろみ子のことは友達だと思っているが、この状況で信用しきれるとも思っていない。


『あれが術者かもしれんな。お主が相手を視認できておらんのに、向こうはこちらを把握しているなど怪しすぎる』


 知千佳は駆けだした。まずは距離を取る。気配のないほうへと移動する。


「わ!」


 だが、知千佳は急制動した。木の陰から、突然人があらわれたからだ。


『雑霊じゃ! だが、なぜお主に見えておるのだ!?』


 もこもこが、ぼんやりとした人影を殴り飛ばす。雑霊らしく、その姿は簡単に掻き消えた。

 だが、雑霊が故に替えはきくのだろう。それらは次々とあらわれてくる。


「ねえ。これって、私が触ったらだめなやつ?」

『地味にダメージを受ける。霊障というやつだな。少量、短時間なら大丈夫だが、数が多いとやっかいだ。命に関わることもあろう』

「あ、うん。そういう感じはするね」


 なんとなくだが、まとわりついて継続的にダメージを与えてくるような印象だ。

 一匹、二匹なら突っ切れるだろうが、まとめてやってこられると形勢が悪くなるだろう。

 そんなことを考えているとゆっくりと足音が近づいてきた。


「ともちー。逃げないでよー」


 木の陰からろみ子の姿があらわれた。そしていつものようなのんびりとした声で話しかけてくる。


「これ、みこちがやってるの?」


 慎重に問いかける。ろみ子が何をしにわざわざやってきたのか、よくわからなかったのだ。


「うん。霊を見えるようにしたら、びっくりして足が止まるかなーって思って」


 ろみ子は数を数える能力しかなかったはずだ。

 だが、事実このようなことをやっているのなら、認識をあらためるしかない。


「なにしに来たの? 今が殺し合いの最中だってことはわかってるんだよね?」

「さすがに、私でもこの状況ぐらいわかってるよー。でも、殺し合いにはならないと思うよ。ともちーは人殺しなんてできないもんね」

『いや、こやつは十の頃に父親の片眼をえぐっておる、デンジャラスビーストなのだが』

「するか!」

「そうなんだ、おとうさんかわいそうだね」

「そんなことしてないって! つーか、前はおじいちゃんの目がどうとか言ってなかった!?」

『む、ということはお主は、父と祖父の目を……』

「なんなのその目玉コレクター!」


 唐突なツッコミをしつつも知千佳は気付いていた。

 ろみ子はもこもこの言葉を認識している。やはりろみ子には霊能力があるのだろう。


「ねえ、樹菜はどこ?」


 先ほどから気になっていたことを知千佳は聞いた。もこもこはろみ子と樹菜が一緒に逃げたと言ったのだ。なのに、ろみ子は一人でやってきた。


「わかんないなー。いつの間にかいなくなってたけど」


 嘘だろうと知千佳は思った。意図せずはぐれたのならこんなにのんきにはしていられないだろう。何にしろ、ろみ子の言動は怪しかった。


「で、もう一度聞くけどなにしにきたの?」


 殺すつもりなら、姿を見せず遠距離から雑霊を仕掛け続ければいいはずだ。

 なのに、わざわざ目の前にやってきて話しかけてくる。その意味が知千佳にはわからなかった。


「私もね、ともちーと一緒なの。背後霊、いるんだよ」

「へ?」


 ろみ子がそう言った途端、彼女の背後に人影が浮かび上がった。


「何それ!? 私もそっちのほうがいい!」


 思わず知千佳はもこもこと見比べた。

 もこもこは、丸いしでかいし古くさい着物を着ているし、ぼんやりとした顔の年齢不詳の女だ。

 対して、ろみ子の背後霊は、華奢でありながらも豊満な部分もあり、華麗なドレスを着ていて、金髪で色白で目鼻立ちのはっきりとした美少女なのだ。

 おまけに身体の周りはうっすらと輝いていて、その美しさを惜しむことなく見せつけている。


『おい!』


 知千佳が本気だと思ったのか、もこもこは血相を変えていた。


「古代種の姫なんだって。名前はティアンヌっていうの」

「こっちは、もこもこってふざけた名前なんだけど! なにこの格差!」

『わ、我だって姫と呼ばれたことぐらいあるわい! 実際、壇ノ浦は豪族だったし、そこの姫だったし! それにもこもこという名の何が悪い!』

「負けたわー。もう戦う前から負けたわー。もこもこさん神霊とか言ってたけど、あっちのほうがよっぽど神霊っぽいわー。ほら、なんか光ってるじゃん! あれ、もう天使じゃん!」


 背後霊に格の差を感じて、知千佳はへこんでいた。

 背後霊なんてものは、どれも似たようなものだろうと思っていたのだ。薄気味悪いぶつぶつ言うような、おかしなのじゃなくてよかったと自分に言い聞かせていたのだが、まさかここまでレベルの高い美少女背後霊が存在しているとは思ってもいなかった。


『な、殴り合いなら負けはせんわ!』

「えー? 見た目で負けたから、殴って勝ちました。って最低じゃない?」

『え? いや、おかしくない? なんで、我、負けたことになってんの?』

「ともちー? 続きいい?」

「ああ、そういや話してたっけ。なに?」


 知千佳はついもこもことの会話に夢中になってしまっていたが、ろみ子は少し近づいてきたぐらいで特に何をしてくることもなかった。

 雑霊たちは周囲を囲んでいるがそれだけなのだ。


「ティアンヌはね。かわいいんだけど、数を数えるぐらいしかできないし、たいして強くはないの。ともちーの背後霊と戦ったら負けちゃうんじゃないかなって」

『ほ、ほら見たことか! あやつも認めておるわ!』

「だからさ、それ、ちょうだい?」

『ぬ!』


 そして、もこもこは、いきなりろみ子に向かって飛んでいった。


「へ?」


 知千佳が突然の展開に呆気に取られていると、もこもこがろみ子と重なって消えていく。


「あー、そのすまん。こやつに憑依させられてしまった」


 ろみ子は、もこもこの口調でそう言った。


  *****


 ろみ子もまた、覚悟を決めた者の一人だった。

 めんどくさいだの、目立ちたくないだのは、生きているからこそ言えることだ。

 状況が変わった以上のんびりとはしていられない。

 砦を出たろみ子は、自分に何ができるのかを考えた。

 霊を支配下におくことができる。

 霊を操ることができる。

 霊が見聞きしたものを知ることができる。

 霊を可視化することができる。

 霊を憑依させて、能力の一部を借りることができる。

 こんなところだ。

 この力で誰かを殺すのは案外簡単だ。操った霊を対象にけしかければいい。

 大抵の人間は霊を感知することができず、霊障により衰弱していきやがて死にいたる。

 だが、この方法は時間がかかる。体力のある者だと殺しきるにはかなり時間がかかるだろう。少なくとも一時間ではとても無理だ。

 となると、霊を憑依させてその力を使うことも視野に入れなければならないが、ろみ子が現在使役している霊にはそれほど強力な者がいなかった。

 そこらを漂っている霊は有象無象の輩なのだ。ティアンヌのように力と意識を保っている者は例外で、たまたま遭遇して支配できたのは運がよかっただけらしい。

 それならば、死んだクラスメイトを利用すれば強力な力が手に入るのではとろみ子は考えたのだが、これまでのところそれもうまくいっていなかった。

 死んで霊となって彷徨うにもそれなりの素質がいるらしく、通常は大気に霧散してしまうのだと、ティアンヌは言っていた。

 そうなると、そう都合のいい霊をすぐには入手できないことになるが、ろみ子はその都合のいい霊に心当たりがあった。

 知千佳の背後霊だ。

 一目見た瞬間から、その強大な力には注目していた。その力を得ることができれば、ろみ子自身を数段強化することができる。霊の使役と合わせればかなり勝率を上げることができるだろう。

 これまでは、あまり目立つことはしたくなかったので、知千佳の背後霊には手を出さなかったが、この状況ではやむをえないと考えた。

 では、どのようにして背後霊を入手するのか。

 支配するにはある程度近づく必要がある。

 その際、知千佳を先に始末することはできなかった。背後霊は主に縛られているのだ。

 知千佳が死ねば、背後霊は自由になり、さっさと逃げてしまうだろう。

 なので、雑霊を使って知千佳を探しあて、近づいた。

 ろみ子は、知千佳のお人好しぶりを信じていた。向こうから攻撃してくることはないだろうと確信していたのだ。

 そして、適当な話をしつつ距離を詰め、背後霊の支配に成功した。


『おのれ! よもやこの我を拘束するなどと!』

『へー。逆らえるんだ、すごいね』


 支配下にはおいている。だが、その精神まで隷属させることはできていなかった。

 ただ、それも時間の問題だろう。ろみ子は、もこもこの力を把握しつつあった。


  *****


「憑依ってどういうこと? なにがどうなってんの?」

「うむ。かろうじて話をするぐらいはできるが、ほぼ力をこやつに奪われてしまっておる」


 そう言い終わった瞬間、ろみ子は知千佳の目の前にいた。

 壇ノ浦流、箭歩(せんぽ)

 直線的に間合いを詰める歩法。自らを矢と見立て、一直線に敵を穿つ。

 知千佳はここからの派生を瞬時に思い浮かべた。

 足か膝を踏みつけにくる。同時に喉への手刀か、顎への掌か。

 下がるのは駄目だ。勢いのまますぐに追い詰められるだろう。

 なのでかわす。後ろ足を引いて回転し、横へとずれる。

 だが、顔面への気配を感じて、知千佳は咄嗟にのけぞった。

 (つぶて)だ。

 どうやったのかはわからないが、踏み込んでくるのと同時に石を飛ばしてきたのだ。

 かろうじてそれをかわし、手をついてバク転する。

 勢い余ったろみ子はそのまま前へと進み、目前の樹木を両手で打った。

 幹が大きく抉れる。

 樹木はそこから倒れていき、地面にぶつかって大きな音を立てた。


「って、なんなのその威力!? 私バトルスーツ使ってるのに、ついてけてないんだけど!」


 今のはギリギリだった。バトルスーツによる筋力補助の力でかろうじてかわすことができたのだ。


「まあ、これがお主と我との実力差だな。というかだな、打撃に投擲を組み合わせるのは壇ノ浦流の初歩も初歩。なにを面食らっておるのだ。この程度対応できてしかるべきであろうが」

「って、なんかノリノリで攻撃してきてるんだけど!?」

「いや、我もやりたくはない。やりたくはないのだが、こやつが我の力を勝手に使っておるのだ」

「説得力ないな!」


 こんなものまともに戦ってはいられないし、ろみ子の身体なので攻撃するにも躊躇してしまう。

 なので、知千佳は逃げることにした。

 バトルスーツの力を全力で使えば、逃げるだけならなんとかなるだろう。


「あー、すまん。すまぬのだが、そのバトルスーツは我が管理しておるのだ。パージ!」


 ぴしり。

 バトルスーツに複数の線が走る。

 そしてあっけなくばらけて、知千佳はあっと言う間に下着だけの姿になっていた。


「えーと……あとで覚えてろ、このやろー」


 唐突な脱衣で呆然となった知千佳は、気の利いた文句の一つも言えなかった。


「もこもこさんグッジョブ」

「目が、目がぁー!」


 背後からの声に知千佳は振り向いた。

 夜霧と、地面に転がるデイヴッドと、なぜか目を押さえてうずくまる花川がそこにいた。


「高遠くん!? このタイミングでくんなよ! いや、助かったけど! てかグッジョブってどういうつもりだよ!」


 知千佳は混乱して、自分でも何を言っているのかわからなくなってきた。

 どうしたものかと思っていると、夜霧が近づいてくる。

 ブレザーを脱いで渡してきたので、知千佳はそれを羽織った。


「あれ、もこもこさんなんだろ?」

「よくわかるね」

「話し方でなんとなく。状況はよくわかんないけど、攻撃してくるなら殺すしかないな」


 知千佳はろみ子を見た。

 ろみ子は固まっていた。よく見れば小刻みに震えている。

 それは、恐怖によるものらしかった。

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