禁じられた夜のキス
煌びやかな夜会の灯りが遠ざかり、賑わっていた宴もいつしか静まり返った。
玲が一瞬席を外したその隙に、リオンは栞里の隣にゆっくりと近づいてきた。
彼の青い瞳は必死に感情を抑えきれずに揺れ、震える声で静かに呼びかける。
「栞里……俺は、もう我慢できないんだ。」
その手は震えながらも、そっと彼女の手を包み込んだ。
ふと感じるぬくもりに、栞里の胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
その温かさは、不安と戸惑いをかき消すかのように優しく伝わってくる。
「早く、好きになってほしい。早く、恋人になりたい。」
リオンの言葉は切なくて、真っ直ぐで、栞里の心を深く揺さぶった。
頭の中は混乱し、戸惑いと拒みたい気持ちと、でもどこかで受け入れたい自分が交錯していた。
「リオン……でも、玲くんが……」
言葉は震え、次第に詰まっていく。
そんな栞里の唇に、リオンは静かに指を当てて制した。
「わかってる。でも、俺はもう君の心を待てる自信がないんだ。」
彼の瞳は真剣で、痛みを伴うほどの切実さが宿っていた。
息遣いが肌に伝わり、栞里の心臓は激しく跳ねた。
「だから……」
言葉を途切れさせ、リオンはゆっくりと彼女の唇へと近づいた。
初めはほんの一瞬、唇がそっと重なっただけだった。
しかしその柔らかさと温かさに、栞里は知らず知らずのうちに引き込まれていく。
息遣いがかすかに交わり、彼の呼吸の熱が肌に伝わる。
目を閉じると、まるで世界が静止したかのように、二人だけの時間が広がっていった。
リオンの手が優しく頬に触れ、指先が震えているのを感じる。
その触れ合いに胸が締めつけられ、言葉にならない感情が溢れ出した。
唇はゆっくりと重なり合い、時折深く重なるキスに、栞里の心は激しく高鳴る。
不安と期待、戸惑いと甘さが入り混じり、まるで初めて恋を知った瞬間のようだった。
彼の唇の動きは繊細で、けれど力強く、離れたくないという切実な想いが伝わってくる。
じわじわと身体の奥まで染み渡る温もりに、栞里は思わず身体を委ねてしまった。
しかし、心の奥底には玲への申し訳なさが波のように押し寄せてくる。
それでも今はその感情を抑え、ただ彼の唇のぬくもりに浸っていたかった。
時が止まったかのような甘い沈黙の中、二人の唇は何度も重なり合い、
柔らかな吐息が交わされる。
リオンの腕がそっと栞里の背中を抱き寄せ、
彼女の身体は震えながらも、その温もりを求めていることを自覚する。
「ごめん……でも、これだけは伝えたかった。」
リオンがそっと囁く声は、切なさに満ちていた。
栞里は揺れる心を抱えながらも、静かに目を閉じ、彼の胸に顔を埋めた。
その時、遠くのほうで扉の開く音が聞こえた。
玲が戻ってくる気配に、二人は慌てて距離を離す。
「……リオン?」
栞里の声に、リオンは一瞬だけうつろな目を向けた。
「気にするな。これは……俺の独りよがりだ。」
そう言い残し、リオンは静かにその場を去った。
栞里は胸の鼓動を抑えられず、暗いテラスに一人残された。
彼女の心は揺れ動き、複雑な感情が渦巻いていた。
「どうしよう……玲くんには、まだ何も言えない。」
静かに涙が頬を伝い、夜風がそれを優しくさらっていく。
今はまだ、自分の気持ちも、未来も見えなかった――。