第5話 嫌がらせの証拠
高らかに宣言するセラード王子に対し、とりあえず静粛にするよう呼びかけようとする。
この後の段取りとして、提出された証拠を確認していく作業があるのだ。
裁判をスムーズに行うため、セラード王子には静かにしてもらわないと。
しかしそれよりも前に。
彼は席を立ち上がって、まるで舞台俳優のように法廷を歩き出した。
「この神聖なる法廷でよくも嘘をつけるな。貴様がメアリに行った嫌がらせの数々の証拠を今見せてやろう!」
「セラード王子………」
証言台から被告席に戻ったクローディアに言い放つ。
私は「こりゃ駄目だ」と木槌を鳴らそうとしたが、それよりも先にセラード王子は講堂全体に響き渡る声で話し始めた。
「まずはクローディアがメアリに送ったとされる嫌がらせの手紙だ。すでに証拠として判定者に提出したが、全部で5通ある。そのどれもがメアリの人格を否定するもので、時に剃刀が入れられていたこともあった。
……───筆跡はクローディアのものと同じであるから間違いないだろう」
彼の言葉に傍聴席から騒めきが起こる。
確かにセラード王子から証拠品の手紙を5通提出された。
王子に取り入る売女。
元平民のくせに。
学園なんてやめてしまえ。
そんな内容が執拗に書かれていたのだ。
「それから、陰でメアリに暴言を吐いていたという証言もある。最も酷いのは、人気のない図書室で『平民出の売女がよくも学園に通うことができるな』というもので、その現場を何人もの生徒が見ていたと確認も取れている」
そして「クローディアが明確な差別主義者であることがよく分かるな」とセラード王子は続けて言う。
その声は、あたかも自らが判定者となったかのような響きを持っていた。
「最後に、呪いだ。つい先日、メアリは呪いをかけられ、三日三晩悪夢を見るようになった。優秀な魔術科の生徒に話を聞けば、それはクローディアによる生霊の仕業だと教えられたぞ」
それからセラード王子は最後に魔術科に所属する生徒の証言を持ち出す。
メアリが呪いをかけられたという話に、傍聴席の生徒達の反応は一段と大きくなり騒めきが広がった。
もしそれが真実であれば、クローディアの悪事は一層恐ろしいものになる。
通常の嫌がらせならともかく、魔術による呪いが加われば更に心象は悪くなる。世間的には「流石にやりすぎ」と言ったところなのだ。
セラード王子が裁判席に座る私を一瞥して、にやりと笑みを浮かべる。
そして視線を外し、クローディアを見つめる。
「───以上が、クローディアの悪事の証拠だ。証拠も証言も、魔術師による見解もある。どうだ。これで認める気になっただろう」
その自信満々な言葉にクローディアは青ざめる。
その姿を見て、セラード王子はさらに力を込めるように声を高らかにした。
「認めろ、クローディア!自分が犯した悪事を!」
傍聴席では、セラード王子の言葉に賛同するような声が上がり始めた。
クローディアに対する非難の声が混じっており、メアリが感激した様子で「セラードさまあ!」と叫んでいるのにも気付く。
何だか裁判めちゃくちゃになっちゃったな。
やっぱり判定者に向いてないよ、私。
そう思いながら、割り込むのは今しかないなと思い口を開こうとする。
横でリュシアン王子が立ちあがろうとしたのにも気付いたが、私だって言わなければならないことがあるのだ。
「あの………」
しかし出てきた声は何ともか細く情けない声音で。
けれど暴走するセラード王子をこのままにしておけないと、気まずくなりながらも話しかけた。
「何だ、判定者?証拠がこれだけ揃ってるんだ。もう裁判とやらを閉廷させるか?」
「いえ。事前に頂いた証拠や証言についてですが…………どれも矛盾や信頼性の問題があって、証拠として採用されませんでした」
しっかりとした口調で言うと、セラード王子の顔が一瞬にして固まった。
「何?」と彼は声を詰まらせ、明らかに驚きの表情を浮かべる。
私の言葉に傍聴席からも騒めいたが、表情を変えないように気を付けながら、静かに続けた。
「手紙の筆跡がクローディア・オットー令嬢のものだという確固たる証拠がないこと。また図書館での目撃証言に信憑性が欠けること。そして呪いに関する証言も信憑性がないことによって、全ての証拠に疑問の余地があります。そのため提出された証拠や証言は全て無効としました」
そうなのだ。
セラード王子から事前に提出された証拠や証言を精査した結果、どれも証拠能力がなしと判断するしかなかったのだ。
しかしやはり納得がいないのか。
セラード王子は私を指差しながら声を上げる。
「おい、貴様!どういうことだ!あれだけの証拠を見ておいて信憑性に欠けるだと!?やはり貴様はクローディアの手の者じゃないのか!?」
「いえ、違います」
そんな彼に私は一から説明しなくてはならないなと思い、セラード王子から提出された証拠や証言を整理しながら話し出した。
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