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第4話 学園裁判を開廷します


 

 


 晴れ渡った空の下、王立学園の広大な敷地にさわやかな風が吹き抜けていた。

 あの日から数日が経ち、いよいよ学園裁判の初回が始まる。

 

 講堂に足を踏み入れれば、普段の学園で見かける場所がまるで裁判所のように変わっていた。


 講堂の中央には木製のテーブルがしっかりと据えられており、原告側と被告側の席がその左右に並べられている。

 そして奥の中央に位置するのは『判定者』の席だ。

 

 簡易的とはいえ裁判用に整えられた講堂に「先生が魔法でやってくれたのかな……流石に手作業じゃできないよね……」と頭が上がらない。

 昨日まで普通に講堂使ってたし。

 魔法なしで一夜でこれだけの準備をするのは難しいだろう。


 ちなみに講堂の後ろには傍聴席も設置されており、立ち見の生徒達も見えるように配置されていた。

 準備は万端だ。


 

「やあ。ベイルさん、準備はできてる?」


 

 講堂──もとい法廷をぼうと眺めていると、後ろから声をかけられる。

 見れば学年主任のリックマン先生だった。


「はい、おかげさまで準備は整いました。………それから、日程調整から講堂の模様替えまでありがとうございます」

「いいや、日程調整はそれほどだし、講堂は魔術科のゴーレムを使えばすぐだったよ。それより君も大変だねえ。こんな面倒なことに巻き込まれて」


 結構赤裸々に言うな。

 次期国王と名門オットー侯爵家の令嬢の起こした学園裁判に、こうまで言えるとは怖いものなしか。


 肯定するのも否定するのも何だか違うなと思い曖昧に苦笑すれば、リックマン先生は続けて話す。


「学園裁判はね、普通の裁判とは違って進行役を判定者がすることになってるから、君が裁判を進めるんだ。記録は教師が取ることになってるから心配しないでね」

「あ、はい。ありがとうございます。進行に関しては大丈夫ですが、記録は先生にお任せします」

「よし、それなら問題ないね。頑張って」


 リックマン先生は笑顔で言うと、軽く手を上げてその場を離れていった。

 私は深呼吸をし、再び目の前の広がった講堂に視線を向ける。


 もうすぐ開廷の時間だ。



 

 ・

 ・

 ・




 定刻になると、講堂に人が集まってきた。

 傍聴席には人だかりができており、講堂の扉を開け放ってまで裁判の様子を覗こうとする人もいる。


 私が裁判官席に着くと、原告側にセラード王子。そして被告側のクローディア・オットー侯爵令嬢と、彼女の弁護人らしき人物が座っていた。

 その弁護人の男を見て、目を丸くする。


(…………リュシアン第二王子)


 リュシアン第二王子。

 セラード王子の腹違いの弟であり、王位継承権二位の男。

 髪色や瞳の色は同じだけれど、セラード王子と違ってどこか硬質そうな雰囲気を持つ1年の生徒だ。


(本当にリュシアン王子が弁護人なんだ………)


 事前に誰が弁護人を務めるか、その書面をリックマン先生から渡されていた。

 クローディアの名の横には確かにリュシアン王子のサインがあったけれど、実際に見るとぎょっとしてしまう。


 父の言った『貴族間の名誉と勢力争い』が脳裏を過った。


 裁判を進める準備を整える。

 裁判が開始する合図を待っていると、リックマン先生が指示を出した。

 

「───それでは、ただいまより第一回目の学園裁判を開廷します。

 …………まず、出席者の確認を行います。原告側──セラード・ウェルシュリア王子、被告側──クローディア・オットー令嬢、弁護人──リュシアン・ウェルシュリア王子。そして判定者として私、シャーロット・ベイルが務めさせていただきます」

 

 今回セラード王子側は弁護人を用意しなかったのか。

 それほどこの裁判を楽勝だと見ているところだろうか。


 そう思いながら、次にクローディアに目を向ける。

 被告は前に、と言えば彼女は証言台に立った。

 

「それではお名前を教えてください」

「クローディア・オットーと申します」


 そして生年月日などの本人確認を終え、起訴状を朗読する準備を始める。

 講堂は完全に静まり返り、全員が注視している。

 本来ならば検察官の役割だが、そんな役目はないため代わりに私が読み上げ始めた。


「次に、起訴状を朗読いたします。

 原告セラード・ウェルシュリア王子は被告クローディア・オットー令嬢がメアリ・ブランシェット令嬢に対して、名誉を傷つける行為、及び嫌がらせを行ったとして、これを告発します」


 朗読が終わると、私はクローディアに視線を向ける。


「被告人はこの法廷で何も答えないでいることもできますし、発言することもできます。ただし発言した内容は全て証拠となり得ますのでご注意ください。

 それではクローディア・オットー令嬢、あなたはこの起訴状の内容に対して認めるか否かをお答えください」


 するとクローディアは一度深呼吸をし、静かな声で答えた。


「私は誓って、メアリ・ブランシェット男爵令嬢に危害を加えておりません」


 その言葉を聞いて「うん。ここまでは想定通りだな」と内心頷く。

 テンプレのような冒頭確認を終え、いよいよ本格的に裁判が始まるぞと気を引き締める───が。


 次の瞬間、傍聴席にいたらしいメアリ・ブランシェットが突如として泣き出した。



「ひどいですわ!あんな恐ろしいことをしておいて嘘を吐くだなんて!わ、私は悪いことは何もしていないのに!」


 

 メアリの声が講堂に反響する。

 彼女は涙を浮かべて顔を押さえ、周囲にいるセラード王子の取り巻きの男子達は慰め始めた。


 え、えええ。めちゃくちゃ泣いてるよ………!


 と、とりあえず「静粛に」と言っておこう。

 

 しかしその時、泣きじゃくるメアリを見たセラード王子は、原告側の席から高らかに宣言した。


「メアリ!心配しないでくれ!必ず悪しきクローディアに罪を認めさせる!それまでしばし待っていてくれ!」

「え、あの静粛に………」

「クローディア!今からお前の悪事の数々を証拠と共に明らかにしようじゃないか!」


 セラード王子が憎々しげにクローディアを睨み付ける。

 それにクローディアも、リュシアン王子も怪訝そうな顔をした。


 この裁判、大丈夫かな………。

 これから先、どう進んでいくのか全く予測がつかない。


 ともかく、私は提出された証拠の確認を行う準備を始めた。





 

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