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第14話 刺客からの脅迫




 翌朝、第三回目の裁判がついに始まる。

 今日でこの裁判の結末が決まるのだが、セラード王子(原告)が新しい証拠を提示しない限り、この裁判はクローディアの無罪で終わるだろう。

 

 覚悟を決めたものの、やはり気は重く。

 判定者を辞めるよう言ってくれたカイルにどう報告すれば良いか、一晩中悩んだりした。

 

 きっと正気か?とか言われて、あっさり護衛騎士の任から離脱するって言う可能性もある。

 けれどそれに対して、引き留める権利は私にないだろう。


 屋敷の門の前でカイルが迎えに来てくれているのか。

 そう思って自室の窓から覗くと、案の定屋敷の前に赤銅色の目立つ髪の男が立っているのが見えた。


 ───カイルだ。


 カイルには赤裸々に話すしかないと覚悟を決め、私は慌てて屋敷から出て彼のもとに近寄っていく。


 後から思えば、この時。

 カイルに何て話そうかな。第三回目の公判でどうなっちゃうんだろうなと上の空でいたのが悪かったと思う。


 その屋敷の前にいた男が、カイルと同じ赤銅色の髪をしただけの男だと認識した時───突然顔に手をかざされて、私の意識は暗転した。


 そして次に目を覚ました時、そこは倉庫のように薄暗い部屋だった。



 


 ◇ 


 



(つ、捕まっちゃった………!)


 手足を縛られ、体は動かない。

 息を呑み、少しだけ顔を上げて辺りを見渡す。

 

 窓の隙間から光が差し込むその薄暗い空間で、ローブのフードを深くかぶった不審者が立っているのに気付いた。


 手には、鋭い短剣が握られている。


「目を覚ましたか、シャーロット・ベイル」


 声の低さからして男性だろう。何者かは分からなかったが、武器を持った怪しい人物相手に冷や汗がだらだらと流れた。


 やばい。本当にやばい。

 昨日父が言っていた圧力ってこういうののことを言うのか。

 いくら何でも実力行使過ぎる。


 すると男は短剣を掲げながら口を開いた。


「今日の裁判の判決で、クローディアを有罪にしろ。さもなければ、どんな手段を使ってでもお前の家を潰してやるぞ」

「まだ裁判は終わってません。…………今日の裁判でもしかしたら、クローディア様がメアリ嬢に嫌がらせをしていた明確な証拠が、原告側から提示されるかもしれません。それを信じず、どうしてこんな風に脅すんですか?」


 そういう可能性もあるから私は今日裁判に臨むのだ。

 しかし男は冷たく首を振る。


「何が真実かは、どうだって良い。クローディアを有罪にすれば王権の維持は保たれる。それで良いんだ」


 まあ、そうだろうなとも思えてしまう。

 こんな無理矢理脅してくる輩なのだ。裁判で勝てるかもしれないよ?だなんて言って「それもそうだな。はい、解放」なんてことは絶対にしてくれない。


 けれど先の会話も無意味ではなかった。


 ───王権の維持。


 つまりこの男は、保守派の貴族ではなく、セラード王子からの刺客なのだろう。

 断定まではできないが、もしそうだとしたら原告側に信頼性のある証拠が最後まで用意できなかったのが伺える。


 とりあえずここは嘘でもついて、穏便に解放してもらおう。

 そして裁判に出て、その後どうするか考えれば良い。


「…………良いでしょう。クローディア・オットー侯爵令嬢を有罪にいたします。それで良いので、この縄をほどいてください」

「ならば血の盟約を結ぶぞ」

「へ?」

「これを裏切れば、お前は死ぬ」


 そ、それはあ………。


 血の盟約は魔術に疎い私でも知っている。

 言葉の意味のまま、呪いのかけられた契約書に血判を押し、契約を裏切ればその者の命が事切れるという物騒な代物。


 懐から契約書らしき紙を取り出し短剣をかざす男に、私はさっと血の気が引いた。


 本当に、どうしよう。

 このままだと血の盟約を結ぶことになってしまう。


 体が震え、何もできない。

 どうしようもなかった。


 ───しかし次の瞬間。

 薄暗い部屋の扉が勢いよく破壊された。

 驚きとともに目を見開き、振り返る。そこには、剣を構えたカイルが立っていた。


「カイル!」

「シャーロット!無事か!」


 カイルの声が私の耳に届く。

 瞬時に安堵の息を吐いたが、同時に状況はまだ終わっていないことを思い出した。

 

 するとカイルはフードの男に向かって容赦なく剣を振り下ろし、二人の戦いが始まる。

 激しい攻防が繰り広げられる中、私は部屋の隅に這いながら逃げる。


 すると男はしばらく攻防を続けた後、分が悪いと思ったのか。カイルの破壊した扉から身を翻して逃げていった。


 カイルは一瞬追いかけようとしたものの───すぐに私のもとへ駆け寄り、縄を切って解放してくれた。


「怪我は?」

「な、無いです。ありがとうございます。本当に助かりました」

「シャーロットの屋敷に行ったら君がいないんだもの。おそらく裁判絡みで攫われたんだろうなって思って、学園で怪しそうなところをしらみつぶしに探していたんだ」

「…………よく学園内にいるって分かりましたね」

「今日の裁判で有利な判決を下すよう脅されていたとしたら、裁判に間に合うよう学園内にいるんじゃないかなって」


 そう言い切るカイルに私は思わず慄いてしまう。

 頭の回転の速さといい、カイルには随分と助けられている。


 私はカイルに支えられながらも、何とか立ち上がった。

 体は震えていたが、その震えを必死に抑えようとする。


「…………これで分かっただろ?」


 するとそれを見て、カイルが苦笑しながら言う。


「裁判から手を引いた方が良い。こんな危ない目に遭うんだ。俺だったら尻尾巻いて逃げ出しちゃうね」


 そう言って肩をすくめるカイルに、私はすぐさま首を振る。


「いえ、やります。正直逃げたいのは山々ですが、ここで政治的な圧力に屈してしまえばそれこそベイル家に泥が被ります」

「は!?君、親父さんにも相談したんだろう?止めろって言われなかったのか?」

「むしろ発破をかけられました。なので私は裁判を中止しないし、最終判定者の役目からも逃げません」


 目を丸くしてぽかんとするカイルに、私は段々と申し訳なくなってくる。

 心配してくれて、自分が悪者になったとしても判定者を辞めろと言ってくれて、しかもたった今助けてくれたのだ。

 そんな相手の気持ちを私は踏みにじってしまっている。


「………───カイル、私を守ってくださって本当にありがとうございます。貴方は学園の評価狙いで護衛騎士の役目を負ってくれましたが、それ以上の働きで私に尽くしてくれました」


 彼の本心は分からないけれど、ただの飄々とした若者でないのはすでに分かっている。

 私はカイルに頷いてみせた。


「これ以上この学園裁判に関われば、護衛騎士としての評価はあれど、今後社交界で保守派の貴族に目を付けられる可能性があります。それは私にとっても本意ではありません。

 ───なので、カイル。貴方を護衛騎士の任から外します」


 もうこれ以上カイルを巻き込んでしまっては申し訳なさすぎる。


 私は「急ぎますので」と言って、カイルを残して倉庫らしき部屋を出た。

 辺りを見回す。そこはどうやら旧校舎の一角なようで、棟の時計の針はそろそろ12時を指そうとしている。


 第三回目の裁判の開始時刻は12時から。

 このままでは遅刻してしまうと、私は裁判が行われる講堂へ向かうべく、走り出そうとした。


「………───ああ、もう」


 しかしその時、カイルは大きくため息を吐いた後、走り出そうとする私を後ろから素早く横抱きにした。


 そして眉間をこれでもかという程寄せてぼそりと呟く。


「しょうがないから講堂まで連れて行く。全く、何で逃げないんだか」

「え、あの」

「これでも俺は魔法騎士だからね。バフかけて走れば、あっという間に講堂につくよ」


 戸惑う私を無視するように、カイルは小さく「活性(アクティビティ)」と唱える。

 そして私を軽々と抱き上げ、風のように走り出した。

 

 礼を言う間もなく、景色がどんどんと流れていく。

 

 そんな中でふと思う。


 ついこの間まで赤の他人だった私に、カイルはどうしてここまで力になってくれるのだろう、と。





 ◇


 



 一方、講堂にて。

 判定者であるシャーロット・ベイル伯爵令嬢が中々現れないことにクローディアは焦っていた。


 そして、そんな彼女の姿を一瞥し、原告席に座るセラードが笑みを浮かべて嘲笑した。


「判定者の女が現れないな。流石のベイル家の女も王族相手には逆らえないと気付いたのだろう。今更であるがようやく身の程を弁えたということか」


 その様子にクローディアの頭は熱くなる。


 

 まさか、こいつは───

 学園裁判の判決を有利なものにするべく、ただの巻き込まれたに過ぎない令嬢に何らかの危害を加えたというのか。


 

 そこまでの恥知らずだったとは。


 クローディアは怒りで震え、セラードを睨みつける。



 しかしその時、講堂の扉が勢いよく開かれた。






 


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― 新着の感想 ―
王子の手の者による悪事だし、もうこの時点で王子の死刑宣告でいいよもう。
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