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第11話 第一王子の企み



 


「何故だ!何故クローディアが被害者という妄言が噂されるんだ!!」

 


 王立学園の別棟。

 本来ならば来客用の応接室として使っていたはずの部屋を、王子の一存で勝手に改装したサロンにて。


 第一王子セラードは学園に流れる一つの噂に激昂した。


 メアリ・ブランシェット男爵令嬢の嫌がらせは全て自作自演で、クローディア・オットー侯爵令嬢は冤罪なのではないか、と。

 

 学園を歩けば、前とは違う冷えた視線が突き刺さる。


 以前は『哀れな平民出の男爵令嬢を庇う慈悲の王子』として持て囃されていたが、今は違った。

 どこか懐疑的な視線が四方から刺さり、セラードやメアリ、その取り巻き達の一挙一動をじっと観察する不愉快な目が幾重にも襲い掛かるのだ。


 すると取り巻きの一人が口を開く。

 

「殿下、このままでは不味いぞ。裁判で負けるだけでなく、殿下の風評も地に落ちる」

「何だと!?」

「裁判で平民の清掃業者の証言に疑問を呈していただろう。あれが一部の生徒達の耳に入り『殿下は差別主義者ではないか』という噂が流れている」

「な、」

 

 そんなつもりはない。

 むしろ平民出のメアリを一等親切にしてきたのだ。

 

 しかしセラードは全く分かっていなかった。

 彼はメアリだけを寵愛していたに過ぎない。

 成績優秀な平民の特待生や一代で成り上がった豪商の子弟などは今まで見向きもしなかったのだ。

 

 メアリ以外の、実力で学園に入学した者達は内心セラードの本質に気付いていたが、今回のことでそれが貴族の子息子女にまで露呈されてしまった。

 

「くそッ裁判が始まってから散々じゃないか!」

「セ、セラード様、もう裁判なんて中止にしましょう?私怖いわ。皆クローディア様の味方して………」

「メアリ、だが今更裁判を中止にしてみろ。それこそ敗北したと言っているようなものだろう」

 

 震えるメアリに同情しながらもセラードは首を振る。


 自身のプライドもあり『負ける』ということが我慢ならないというところもあった。

 学園裁判において、和解や提訴取り下げといった制度はあるし、事前に教師からの通達で説明されていたものの、セラードは「自分には必要ない」と高をくくって愚かにも把握していなかったのだ。

 

「あの判定者に何か贈るか?あんな冴えないナリをしているんだ。男でも宛てがえば言うことを聞くだろう」


 それともシンプルに金品が良いだろうか。

 セラードが賄賂を贈ることを本気で悩んでいると、横から取り巻きの一人──ゼノが首を振る。

 

「いや、シャーロット・ベイル嬢にそれは悪手だ。あいつは裁判の公平性を示すためなら、たとえ王族であろうとも盾突く女だ。貴族社会の暗黙のルールも理解していないような女に、そういった遠回しなやり方は効かないんじゃないか」

 

 おまけに父親はこの国の最高判事──ベイル伯だ。

 権力ある者からの賄賂にも圧力にも屈せず、一審二審で権力に屈した判事達の判決を、最後の最後で覆す法の番人。

 

 そんな一風変わった親を持つシャーロットに貴族の正攻法は通じないだろう。

 

「ならばどうする!?このままむざむざと負けるわけにはいかんだろう!」

「ええ、だから言うことを聞かねばならない状態にさせてやるんですよ」

「? 何?」

 

 ゼノが薄く笑う。

 

「多少品のないやり方ですが、刺客を仕向けるんです。脅すのも一考ですし、誤って(・・・)怪我をさせてしまえば大人しくもなるでしょう。見るにベイル嬢は精神が脆弱な一面もある。ちょっと手荒に振舞えば、普通の貴族の令嬢ならば言うことを聞くものです」

 

 そんなゼノの言葉に流石のセラードも言葉を失った。

 しかし隣に佇むメアリはセラードの腕を掴んで言い放つ。

 

「セラード様!裁判に勝つにはそれしかありません!………ベイルさんには申し訳ないけれど、そもそもクローディア様やリュシアン様の嘘を真に受けるあの方が悪いんじゃないですか」

 

 そしてメアリは瞳を潤ませた。


「それに……私はもう嫌です。裁判でセラード様が負けそうになるところを見るのを。だってセラード様はこの国で一番偉くて、尊い御方なのに!貴族たるベイルさんの態度はセラード様を馬鹿にしています!」

 

 その言葉にセラードはハッとする。

 

 そうだ。

 そもそもあの判定者──シャーロット・ベイルが愚かなのが問題だ。

 

 王族に盾突くあの姿は、まるで反逆者(・・・)のようではないか。

 

「そうだな………それもそうだ。あやつは何も理解してない。社会の構造も、王族に対する振舞いも」

 

 ならば自分が粛清しなくてはならない。

 いずれこの国の王となる自分が。

 


「これはただの粛清ではない!王権による秩序維持だ!!」

 

 

 セラードが絶叫する。

 この法治国家で、愚かにも誰も彼を止める者はいなかった。





 

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