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第10話 第二回目の学園裁判




 第一回目の裁判から数日が経った。

 今日はいよいよ第二回目の裁判が始まる。


 学園街にあるベイル伯爵家の屋敷前にて。

 門の前にはすでに一人の青年が待ち構えていた。


「おはよう、シャーロット」


 玄関の前で待っていたのはカイル・ワグナー。

 今回の学園裁判の護衛騎士を名乗り出てくれた騎士科の生徒である。


「おはようございます。ワグナーさん」

「カイルで良いって。ていうか、このやり取りずっとやってるような気がするんだけど」

「あ、そうですね。失礼しました。カイル」


 気を抜けば普通にワグナーさんと呼んでしまいそうになる。基本的に私は前世からの習慣で(セラード王子を除く)男子は苗字で呼んでいた。


 隣に並ぶカイルをこっそりと見つめる。

 とろんとした垂れ目に人好きするような笑み。

 緩やかな赤銅色の髪は日の光を浴びていて、つい見惚れてしまいそうになる。


 モテるだろうな、この人………。


 護衛騎士として彼は、朝の見送りから帰りの送迎までやってくれる。

 昼休みの時も、騎士科の棟からわざわざ私のクラスにまで来てくれるのだ。


 友人達がそんなカイルに色めき立つが………正直言って申し訳なさの方が勝つ。

 内申稼ぎだとはいえ、こんな私に付きっきりでいてくれることに同情を覚える。


 裁判が終わったら解放されるから、それまでは我慢してほしい。


「今日から第二回目の裁判が始まるけど、調子はどう?」


 するとカイルが軽く声をかけてきた。

 それに私はううんと悩みながら答える。


「ぼちぼちです。今日は証人喚問があるので、前回以上に裁判が荒れると思います。なので気を引き締めて務めたいですね」

「なるほど。いざとなったら守るから任せてよ」

「ありがとうございます。心強いです」


 まじでこの人、良い人だな………。

 前に「普段の素行が悪いから、それを挽回すべく『護衛騎士』をやろうと思ったんじゃない?」とか思ったりして、本当に申し訳ない。


 心の中で謝りながら、私はカイルとともに学園へ向かった。


 



 ◇

 


 


 第二回目の学園裁判。

 前回よりも多くの生徒達が傍聴席に集まっており、熱気が漂っている。

 今日は証人喚問ということで、話の展開が大きく変わるかもしれない。私もそうだが、周囲もどんな証言が飛び出すのかを注視しているのだろう。


 今回、原告席にセラード王子だけでなく、彼の取り巻きの一人──ゼノという貴族の子弟が座っていた。

 弁護人として用意された彼を見るに、王子もいよいよ本腰を入れて裁判に臨もうとしているのだろう。

 うん、良いことだ。


 そして証人席で、証人であるメアリ・ブランシェット男爵令嬢が手で顔を覆いながら話し始める。


 

「…………先月でしょうか。ある日、自分のロッカーが水浸しになっていたんです。中に入っていた教科書や日用品が全部だめになっていて………それにセラード様から頂いた大事な手紙も濡れてしまって………!」


 

「それから制服もぼろぼろにされていたことがあるんです!制服が無くなって、寝巻きのまま学園中を探す羽目になって………あんな辱めは初めてで、本当につらかった………!」


 

 声を震わせ感情的に話すメアリにふと思う。 

 

 私に対して物凄い形相で睨み付けてくるような気の強いメアリと、今そこにいる萎んだ花のように弱々しいメアリ。

 どちらが本当の彼女だろうか。


 けれど「結局人間って多面的な生き物だしな」と思い直し、進行を進める。


 次に証言台に立ったのは、ロナルド・セラム男爵令息だった。

 彼はメアリの話に同意し、証言を続ける。


「クローディア様が水瓶を持った清掃スタッフに、メアリのロッカーに水をかけるように指示しているのを見ました。実際にクローディア様が清掃スタッフに話しかけているのを見た人は他にもいるでしょう」


 なるほど。実際に目撃したのか。

 その証言の真偽がどうか今の段階では分からないが、とりあえずそれを受け止める。


 しかしその時、被告側に座るリュシアン王子が「異議あり」と立ち上がった。


「ロナルド、君は本当にクローディアが清掃業者にそう話しているのを聞いたのか?それに、君がその時、どこにいたのか教えてくれ」

「…………中庭です」

「中庭だと?その時間帯、君は資料室に向かう途中だったはずだ。広報部が学内の写真を撮っていて、君が資料室前の廊下を歩く姿を撮っている」


 リュシアン王子が私に対して写真を提出する。

 本当だ。隅っこの方にロナルドが確かに写っている。


「それからその清掃業者はクローディアとすれ違った際にぶつかってしまい、謝罪していたそうだ。その時、クローディアになるべく大事にしないようにと諫められていたらしい」

「リュシアン王子、それを証明することはできますか?」

「証人として呼ぶこともできる。今回は原告側が王族とあって拒否されたが、次回の裁判で個人を特定できないよう配慮されるなら可能なはずだ」


 彼の言葉に傍聴席が「おお」と騒めく。

 リュシアン王子の弁護人っぷりに内心私も感心した。

 学年が一つ下であるためよく知らないが、直情的なセラードとは違うタイプなんだろう。

 身分が違えば、良い弁護士になれそうだ。

 

「その証人は信用できるのか?平民だぞ」


 セラード王子がそうぼやいているが、聞かなかったことにしよう。


「それから制服が盗まれ、その後裁断し捨てられていたという証言もあるが、実行できる時間帯はメアリ・ブランシェット嬢が就寝している夜のみであろう。誰かに命令されていたとしても、メアリ・ブランシェット嬢の寮に侵入した記録もなく、その証拠もない」


 もうリュシアン王子一人で良いんじゃないかな………。


 淡々と述べるリュシアン王子に心の中で呟く。


 セラード王子の主張や証人の証言は弱い。

 王子が憎々し気に舌打ちをするのを横目で確認し、ぼんやりと思案する。


 第三回目───最後の学園裁判まで、どうなるかは分からない。

 

 けれど今の段階では、クローディアが無実であると証明されているだろう。







 

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