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【書籍化決定】転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした  作者: 鳥助
第三章 司教スウェン

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96.スウェンとの対峙

 朝日が地平線を染め始める頃、私は路地を駆け抜けていた。目指すのは教会。この町を支配するスウェンを止めるためにだ。


「止めるって言っても、どうするつもりだ? 話し合いで何とかなるのか?」

「もしかしたら、話だけじゃ済まないかもしれない。だから……スウェンを捕まえる必要があると思うの」

「捕まえたところで、どうする? 誰に引き渡すつもりだ?」

「もちろん、この町の領主様だよ。町をこんなふうにした元凶なんだから、裁くのは領主様しかいない」


 きっと、言葉だけでは通じない。となれば、実力行使でスウェンを捕えるしかない。


 そして、その後は領主のもとへ差し出す。領主様だって、町がこんな状態になるのは本意じゃないはずだ。


 ……けれど、ここで一つの疑問が浮かぶ。どうして、これほどの事態になってもスウェン――そしてカリューネ教が野放しにされているのか。


 考えられる理由は、ただ一つ。


「もしかしたら、領主様も……洗脳されている可能性があるね」

「なるほど……だから、スウェンが好き勝手できるってわけか」

「まずスウェンを捕まえて、それから領主様のもとに行って、洗脳を解かないと。とにかく今は、一刻も早く彼の愚行を止める必要がある」


 町の事も気になるけれど、一番にやらなくちゃいけないのはスウェンの愚行を止めることだ。元凶を止めなければ、現状は良くならない。


 路地を走り抜けた先、ようやく教会の姿が見えてきた。私たちはそのまま勢いよく路地を抜けて、表通りへと飛び出す。幸い、周囲に警備の姿はない。今なら――今しかない。


 教会の大きな扉に近づき、そっと手をかけて開けようとする。けれど――


「……鍵がかかってる」

「どうする? 壊して入るか?」

「ううん、それじゃ騒ぎになる。ここは私に任せて」


 私は指先に魔力を集中させ、それを静かに扉の隙間へ流し込む。鍵の構造をなぞるように魔力を絡ませ、丁寧にロックを解除していく。


 ――カチリ。手応えがあった。


 扉をゆっくり押すと、きしむような音を立てて開いた。成功だ。


「すごいな、ユナ。そんな技まで使えるなんて」

「ふふっ、こんなときくらいしか出番ないけどね。でも、便利な魔力で本当に助かってる」


 私たちは息をひそめ、静かに教会の中へと足を踏み入れた。


 扉の向こうに広がっていたのは、静寂に包まれた広い礼拝堂だった。


 高い天井が頭上に広がり、柱が等間隔に並んで奥へと続いている。色褪せたステンドグラスから朝の光が差し込み、淡い虹のような色彩が石床の上に静かに揺れていた。


 ここだけ、まるで時間が止まっているかのようだった。不気味なほどに静まり返っている。


 私は思わず、足音を忍ばせるように歩を進めた。コツリ、と靴の音が石の床に反響する。それすらも、場違いに思えてしまう。


 誰もいない……。そう思って周りを見渡していると、祭壇付近に人の姿を発見した。その人たちはカリューネ神の像に祈りを捧げているようだった。


 あの人に気づかれないように、スウェンのもとへ行かなきゃ。そう思って身を低くしながら進もうとしたとき、ふと、隣のクロネがじっと一点を見つめているのに気がついた。


「クロネ……?」

「この匂い、それにあの後ろ姿……間違いない。あそこにいるのがスウェンと――ランカだ」


 スウェンと、ランカ……?


 言われて目を凝らしてみると、確かに見覚えのある姿が二つ、祭壇の前で並んで祈りを捧げていた。


 記憶の中にある姿と、何も変わっていない。威圧的な背中と冷たい雰囲気、あれがスウェン。そして、その隣で屈むランカ。


 ……今だ。今なら捕まえられる。


 クロネと目を合わせ、静かに頷き合う。無言の合図で、私たちは息をひそめながら、祈り続ける二人に向かって、そっと歩み寄った。


 そして――。


「スウェン!」


 クロネが鋭く声を放つ。その声に反応するように、祈りを捧げていたスウェンがゆっくりとこちらを振り向いた。

 その目は驚きに見開かれ、すぐに怪訝な色を帯びる。


「……お前たちか。おかしいな。確かに指示を出して、洗脳したはずだが」


 まるで、私たちがここにいること自体が信じられないといった顔だった。だが、聞き捨てならない言葉があった。


「洗脳は解かせてもらったよ」

「な、なに……!? 洗脳が……解けただと……?」


 スウェンの顔が見る間に強張り、目を見開いたまま絶句する。


 まるで、決して破られるはずのない鎖を断ち切られたかのような、信じ難いという表情だった。


「全部わかってるわ。あなたが指示を出して、町の人たちを洗脳し、信仰を集めていたこと――!」


 私の言葉に、スウェンの口元がわずかに歪んだ。


「……なるほど。どうやら、口の軽い者がいたようですね」


 ゆっくりと立ち上がったスウェンは、もう微笑んでなどいなかった。冷たい光を宿した目で、私たちを真っすぐに見据える。その視線に、思わず背筋がぞくりとした。


「それで? もしそれが事実だったとして。あなたたちは、私にどうするおつもりですか?」

「もちろん、領主様に引き渡します」

「ふふ……ですが、その領主様は私にとても協力的ですよ?」


 その言葉に、私はすかさず言い返す。


「協力的なのは、あなたが洗脳しているからよ。だから、その洗脳を解いて、あなたを突き出す。それだけよ」


 言い切ると、スウェンの顔が明らかに曇った。面白くなさそうに唇を歪める。


「……領主様を正気に戻されては困りますね。今まで、私の言葉通りに動いてくださっていたのに」

「こいつ……! 領主を洗脳していたことを自分で認めた!」

「もう、あなたたちの前で隠す必要がなくなったんですよ」

「……どういうこと?」


 あまりにもあっさりと核心を語るその態度が、逆に不気味だった。まるで、もう隠す必要がないと言わんばかりに。私は一層警戒を強める。


 すると、スウェンがゆっくりと口元を歪め、不気味な笑みを浮かべた。


「あなたたちには、前の町でも随分とお世話になりましたからね。お礼をしなければ――」


 その言葉と同時に、スウェンが両手を広げ、静かに詠唱を始める。私はすぐさま魔力を展開し、周囲に防御魔法を張った。


 すると、スウェンの足元の床に黒い渦が出現する。


 グォォ……と唸るような音と共に、渦の中から現れたのは――禍々しい気配をまとった、異形の猿の魔物だった。鋭い牙、赤黒い眼、そして狂気をはらんだ咆哮。


 やっぱり……スウェンは魔物と通じていたんだ。


「ここで、お前たちを――消させてもらいます」


 スウェンの声は冷たく、感情の一片もなかった。

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