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【書籍化決定】転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした  作者: 鳥助
第三章 司教スウェン

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95.指名手配

「――。ユナ――。起き――」


 遠くで誰かの声がする。続いて、体が軽く揺さぶられる。その振動にあわせて、意識が少しずつ浮かび上がってきた。


「ユナ、起きて。ユナ」


「ん……クロネ? どうしたの……?」


 まぶたを擦りながら目を開けると、枕元にクロネがいた。その表情はどこか張りつめていて、普段の落ち着いた雰囲気とは違う。


「様子がおかしい」

「えっ?」


 言われて窓の外に目をやると、ちょうど朝日が昇り始めたばかりだった。まだ空気は冷たく、町も静かな時間帯のはずなのに――。


「さっき、大勢の人がこの宿に入ってきた。足音と声で目が覚めたの」

「え……?」


 私が戸惑っていると、クロネは静かに、しかし確信を持った口調で続けた。


「話し声を聞いた限りだと、誰かを探しているみたい。しかも、どうやら――私たちを」

「私たちを? どうして?」


 急に冷たいものが背筋を這うような感覚がした。寝ぼけていた頭が、急速に現実へと引き戻されていく。


「ここにいたら危ない気がする。どこかに逃げよう」

「逃げるって……どこへ?」

「分からない。でも、とにかく――今来ている人たちには、捕まらない方がいい」


 クロネの鬼気迫る表情と口調に、胸の奥がざわつく。なぜ私たちを探しているのか、理由は分からない。でも――きっと、まともな相手じゃない。


 情報が欲しい。相手が誰なのか、どこまで迫っているのか。何も分からないまま逃げるのは、不安すぎる。


 ……相手の様子を、窺えないかな?


 気配を探る、気配を隠す……いや、もっと踏み込んで――姿を消す、というのはどうだろう。


 そうだ。魔力を変異させて、姿を消す力にできれば……。


「さあ、行こう!」

「ちょっと待って。ここにいて、相手の出方をうかがいたい」

「そんなの無理だ、捕まっちゃう!」

「大丈夫。荷物をまとめて、私たちも一緒に部屋の隅に寄ろう」


 私は小声でそう言いながら、急いで荷物をひとまとめにした。クロネと一緒に部屋の角に移動し、そっと壁際に身を寄せる。


 そして、静かに魔力を広げ、自分たちの周囲を包み込んだ。


 集中して魔力の性質を変えていく。空気の揺らぎ、壁の色、光の反射……そのすべてに同調するように、魔力を景色と同化させる。


 やがて、私たちの姿がゆっくりと風景に溶け込んでいく感覚が訪れた。


「よし、成功した」

「こ、これは!? 私たち、消えてる?」


「うん。これで、きっと私たちの姿は見えないはず。だから、ここからは喋らないで。声で気づかれちゃうから」


「……わかった」


 姿を消した私たちは、互いの姿さえ見えない。けれど、そっと手を伸ばすと、クロネの指先に触れた。


 手を繋ぎ合って、互いの存在を確かめる。それだけで、少しだけ心が落ち着く。


 そして――静寂の中、外から足音が近づいてきた。重く響く複数の足音。ドタバタとした騒がしさが、すぐ目の前まで迫る。


 ついに、その足音が部屋の前で止まり――扉が盛大に開いた。


「ユナとクロネ! 窃盗の容疑で逮捕する!」


 先頭で入ってきた男性が声を張り上げて、部屋になだれ込んでくる。だけど、部屋に入ってきた彼らはベッドを見て驚愕した。


「隊長! 指名手配犯は見つかりませんでした!」

「くっ……気づかれて逃げられたか! 相手は商会の宝飾品を盗んだ犯罪者だ。しかも冒険者ランクBと聞く。手強い相手だが、絶対に捕まえて牢屋にぶち込め!」


 彼らは部屋をくまなく確認したが、誰もいないことに気づくと、騒がしく部屋を後にした。


 私たちは、足音が完全に遠ざかるまで、一切の物音を立てずに静かにその場に立っていた。


 やがて、音が全く聞こえなくなると、私はそっと透明化の魔力を解除し、外に出た。


「どういうことだ……? 商会の宝飾品を盗んだなんて、あたしたち、そんなことしてないのに」

「事情を知っている私たちを捕まえるために、わざと冤罪をかけたんだ」

「なんて奴らだ! 教会と共謀している方が悪いのに!」


 なるほど……急に大勢が押し寄せてきたのは、そういうことか。


 商会は教会と結託し、町の人々の意思を奪い、操っている。それがバレてしまった以上、彼らは黙っていられない。何としてでも、事情を知る私たちを捕らえようとするだろう。


 だから、捕まえる口実として宝飾品が盗まれたと嘘の供述をし、警備隊を動かして私たちを犯人に仕立て上げたんだ。このまま町にいれば、私たちは犯罪者として扱われてしまう。


 どうにかして、この絶望的な状況を好転させなければ。自分たちの潔白を証明し、教会の魔の手から町を救う方法を見つけなければならない。


 町の人々を救うには、オルディア様の力と私の魔力があればきっと大丈夫。けれど、教会を野放しにすれば、いくら救ってもまた洗脳されてしまう可能性がある。


「クロネ。ランカと一緒にこの町を救おう」

「賛成。ユナの力があれば、ランカも町の人達も元に戻せる。だけど、その前に諸悪の根源を立つ必要がある」

「スウェンだね……。よし、乗り込んでスウェンを止めよう」


 ランカや町を救う前にやること。それは、この原因を作ったであろうスウェンを止めることだ。あの人を止めない限り、この町はスウェンの思い通りになってしまう。


 私たちは荷物をまとめると、窓から飛び降りて、町の中に消えていった。

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もう街ごと爆散して証拠隠滅でいい(過激派)
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