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【書籍化決定】転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした  作者: 鳥助
第三章 司教スウェン

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90.危機からの脱出(2)

「目がっ、目がぁっ!」


 床の上で転げ回る男。どうやら私を洗脳しようとしていたらしいけれど、見た感じ、強そうにはまったく見えない。もしかして、あの鈴に何か特別な力があるのかもしれない。


 こういうときは、あの人に聞くのが一番だ。


 オルディア様、先ほどは助けてくださってありがとうございます。


『ユナが無事で本当によかったです。まさか、仕事をサボって覗き見していたら、あんなことになっているなんて……焦りましたよ』


 また仕事サボってたんですか……。


『し、仕事はちゃんとしてますよ! ただ、その合間に、ほんの少しだけ休憩を……』


 いや、今、堂々と覗き見していたって言いましたよね? ツッコミたい気持ちはあるけど、今はそれより大事なことがある。


 オルディア様、あの鈴……何か洗脳的な力でも宿っているんでしょうか?


『ええ。どうやら、あの鈴が術の発動器みたいですね。持ち主の男には、魔力も呪術の才能もほとんどありませんから、鈴に頼っていたんでしょう』


 なるほど……。つまり、彼自身には力がない、と。


『その通りです。だから、煮るなり焼くなり、ユナの好きにしていいですよ!』


 いやいや、さすがにそんな物騒なことはしませんって。私が欲しいのは、情報です。


まずはこの男を、魔力で編んだ縄で縛り上げた。体が動かせなくなったところで、騒ぎの原因だった目を魔力で癒してやる。


「あれ……目が……。なっ、お前は!」

「気づいてくれて良かった。これで、普通に話すことが出来るね」

「そんな洗脳は……!」

「残念だけど、失敗したみたいだよ」


 男は歯を食いしばり、悔しそうに顔を歪めた。


「俺を捕らえて、何をする気だ! な、何も吐かんぞ!」

「……そう。なら、こうなっても文句はないよね」


 私は視線をベッドへ向け、手を伸ばす。魔力を集中させると、淡い光の粒がベッドの上に集まり、腐食の魔力へと変化していく。それをベッドにかけると、すぐにシーツが黒ずみ、軋むような音を立てながら、木の骨組みごとどろどろと溶け出した。


「ひっ、ひいいっ!?」

「何も喋らないって、そう言ったよね?」


 私の声は静かだった。でも、その静けさが逆に男の恐怖をあおる。


「この部屋のものを溶かしていこうかな。あなたを含めて」


 満面の笑みを浮かべながら、もう一度魔力をゆっくりと練り上げる。男の顔から血の気が引き、全身が震え出した。


「や、やめてくれ! 話す、話すから!」

「最初からそうしてくれれば良かったのに。それで、あなたは私を洗脳しようとしたって事でいいのね?」

「そ、そうだ。商会長から町民のように洗脳してくれって言われたから……。ウチで取り扱っている薬を盛って、その上で魔法の力で洗脳しようとしたんだ」


 やっぱり……。町の住人たちが妙に揃ったような態度を取っていたのは、薬と魔法で意識を操られていたからだったんだ。


 となると、この件にはカリューネ教が深く関わっているのは間違いない。どこへ行っても、あの宗教からは碌な噂を聞かない。


 カリューネ教と商会が手を組んで、洗脳された町民を作り出していた……。目的は、おそらく信仰を集めるため。


 人の心を踏みにじってまで崇拝を求めるなんて……そんなのただの独善だ。宗教の皮をかぶった支配じゃない。


「それは、カリューネ教の指示なの?」

「そ、そうだ……。あそこに従えば、色々と優遇されるし、報酬だって悪くないんだ」


 やっぱり、これもカリューネ教の仕業だった。薬と魔法を使って人々の心を操り、信仰をねじ込む――この町の異様な空気も、全て仕組まれたものだったんだ。


 ここまでくればもう明白だ。カリューネ教は悪だ。意志を奪い、自由を奪い、信仰を強いるなんて、そんなやり方が許されていいはずがない。


 彼らが何を企んでいるのかはまだ見えてこない。でも――絶対に、放っておいちゃいけない。


「じゃあ、次の質問。クロネはどこにいるの?」

「クロネ? さ、さぁ……俺はお前を洗脳してこいって言われただけで、他に同じ子がいるなんて話は聞いてない」

「……じゃあ、私と同じように、クロネも――」

「……多分、そうだと思う」


 胸が締めつけられる。クロネにも同じような命令が出されているなんて――そんなの、絶対に許せない。


 どうにかして、早く救出しないと。今はカリューネ教の事よりも、クロネの事を優先するべきだ。


 男性をその辺に転がせておくと、私は部屋を出て行く。でも、どこに行けばいいのか分からない。クロネを早く救出しないといけないのに!


『あの……お手伝いしましょうか?』


 えっ……オルディア様? まだいてくださったんですか?


『い、今の話、気になっただけです! べ、別に仕事をサボる言い訳が欲しかったわけじゃありませんからね!? 本当に!』


 ふふっ……分かりました。ありがとうございます。私のために、嬉しいです。


『ふすーっ、当然ですとも! さあ、さっそくお友達を助けに行きましょう!』


 ……でも、クロネがどこにいるか分からないんです。


『こういう時は……女神レーダーの出番ですね! ムムムムム……ハッ! 右の方から、強い気配がします!』


 右ですね、分かりました!


 私は勢いよく走り出した。鼓動が早くなるのがわかる。足がもつれそうになるほど焦っている。だけど、止まってなんかいられない。


 お願い、クロネ。どうか無事でいて――!


 今、すぐに助けに行くから! 絶対に……絶対に、助けるから!

お読みいただきありがとうございます!

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