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【書籍化決定】転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした  作者: 鳥助
第三章 司教スウェン

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89.危機からの脱出(1)

 ……あれ? 私……なにをしてたんだっけ?


 重たく閉じたまぶたの奥で、意識がゆっくりと浮上してくる。ようやく目を開けると、視界に映ったのは、見覚えのない天井だった。


 ここは……どこ……?


 考えようとしても、頭の中が霧に包まれているようで、思考が上手くまとまらない。重たい靄の中を、言葉や記憶がぷかぷかと浮かんでは消えていく。


 起きなきゃ。そう思うのに、体に力が入らない。指一本動かすだけでも、信じられないほど遠い。まるで、自分の体が自分のものでないみたいだった。


 おかしい……どうして……?


 焦りのようなものが、ゆっくりと胸の奥で膨らんでいく。だけど、その感情すらもすぐに霞んでいく。まるで、何かが考える力や感情を削ぎ落としているみたいだった。


 ぼんやりと天井を見つめていると、どこかで微かな物音がした。次いで、足音。何かが、こっちに近づいてくる。


 視界の端に、誰かの影が映った。だけど、ピントが合わない。輪郭が滲んで、顔も服もよく見えない。


 ……誰?


「――――、――」


 声が聞こえた。誰かが、私に何かを話しかけている。けれど、その言葉はまるで水の中から聞こえてくるように、ぼやけていて、意味を結ばない。


「――、――――――」


 再び、何かを話しかけられる。でも、やっぱり聞き取れない。


 その人物は何かを取り出した。黄色い……小さな、もの。目を凝らしてもはっきりとは分からない。ただ、手にしているそれを、こちらに向けるようにして――


 チリン……


 小さく、けれど異様なほど鮮明に響く音が、空間に鳴り渡った。


 チリン……チリン……


 ほかの音はすべて、どこか遠くでくぐもっているのに――この鈴の音だけが、はっきりと耳に届く。頭の奥にまで、直接響いてくるような感覚。


 それはただの音じゃない。だんだんと私の意思が溶けて消えていくような感覚に陥る。その時、声が聞こえてきた。


「カリュ――至高――、カリューネ――崇めよ」


 ぼやけた意識の中に、何かが染み込んでくる。


 これまでまともに聞こえなかった音が、少しずつはっきりと輪郭を持ちはじめた。それは声。単語の切れ端が、断続的に耳に届くようになってきた。


 けれど、まだ頭は靄の中にいるようで、意味が繋がらない。ただ、その言葉だけはやけに明瞭に――頭の奥に直接、焼きつくように響いてくる。


 カリューネ神こそ至高。カリューネ神を崇めよ……崇めよ……


 その声が繰り返されるたびに、思考が塗り替えられていく感覚があった。最初は違和感があったのに、次第にそれが自然なものに感じられてくる。まるで、それが本来あるべき考え方であるかのように。


 カリューネを崇めなければ。それだけが正しい。他のことは、もう考えなくていい――。


 そう思い始めた瞬間、頭の中に突如として、別の声が響き渡った。


 『ユナ! ――お願い――、目を――――ください!』


 ――え?


 その声には、聞き覚えがあった。ぼやけた記憶の奥から、懐かしい感情が浮かび上がる。


 『――魔法――! 洗脳系の――! 意識――、抵抗し――!』


 魔法……? 洗脳?


 言葉の意味は曖昧でも、体の奥に走る寒気が、すべてが異常であることをはっきりと告げていた。


 ……私、騙されてる? このままじゃ、駄目?


 けれど、思考の深いところではまだ、「楽になりたい」という誘惑がささやき続けている。何も考えず、ただ従っていればいい。そんな甘い囁きに引き込まれそうになった、その時。


 『こうなった――。ちょっと、眩しい――、我慢――!』


 ――え、何を……?


 言い終わるのと同時に、胸元の首飾りが脈動するように震え、そこから突き抜けるような強烈な光が放たれた。


 パァァァァァッ――!


 視界が一瞬で真っ白に染まる。光はまるで、霧に覆われた意識を焼き払うかのように、私の中の何かを一掃していった。


『洗脳――効力は打ち消し――! あとは体――薬の効力を消し――!』


 少しずつ、頭の中がはっきりしてきた。この声……オルディア様? そっか、オルディア様が助けてくれたんだ。


 でも、まだ頭がぼんやりしている。まるで濃い霧に包まれているみたいだ。オルディア様は薬の影響と言っていたけど、それを打ち消せば、元に戻れるかもしれない。


 でも、どうやって? そうだ。魔力を回復魔法のように、薬の毒を浄化できる性質に変えてみたらどうだろう?


 やってみよう。私は自分の体を魔力で包み込み、その魔力の性質を意識して変えていく。薬の影響を取り除くような、浄化の力を宿した魔力に――。


 すると、魔力がすっと体に染み込んでいった。じわじわと、体の奥から温かさが広がっていく。


 手足が動く。思考もクリアになっていく。確かに、薬の効果が薄れている……!


 私はさらに魔力を集中させて、体の隅々まで浄化の力を巡らせていった。すべてを打ち消すように巡らすと、霧が一気に晴れた。


 これなら、いける!


 私は体を起き上がらせると、周囲を確認した。知らない部屋のベッドに寝かされていたみたい。


 それに、さっきの人は目を押さえて床に転がっている。まずは、この人に話を聞かないと!

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