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【書籍化決定】転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした  作者: 鳥助
第三章 司教スウェン

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86.スウェンの疑惑

 突然のスウェンの登場に息を呑んだ。相変わらず顔はにこやかに取り繕っているが、視線は冷たい。まるで、人を人とも思っていないようだ。


「あなたたちもこの町に来たのですね。もしかして、カリューネ教に興味がおありなんじゃありませんか?」

「あたしたちはオルディア様を信仰している」

「それはカリューネ教を知らないからでしょう。カリューネ教を知ってもらえれば、きっと改宗したくなるでしょう。ぜひ、祈りに参加してみてはどうですか?」


 まるで、何もなかったかのように話をするスウェン。あの黒い触手も、従えていた魔物も、前の町で沢山の魔物の匂いを付けていたことも、私たちは知っている。


 クロネはスウェンを睨みつけ、確信に迫った。


「ユナが見ていた。ランカが黒い触手に連れ去れたところを」

「……ほう」

「そのランカがあんたの近くにいるって事は、あんたがランカを攫ったんだろう」

「なるほど……」

「それに、あんたからは嫌な魔物の匂いがする。カリューネ教の司教から匂っていいものじゃない」


 クロネの言葉を素直に受け入れるスウェン。だけど、その様子は慌てた様子じゃなくて、とても落ち着いている。その様子がとても怖く感じた。


 真剣に考える素振りを見せているが、何を考えているのか分からない。返答を待っていると、スウェンが口を開く。


「それのどこが悪いのですか?」


 全く悪そびれる態度ではなく、当たり前のように言い放った。


「ランカはスラムに住んでいた孤児です。その孤児に神官見習いとしての素質を見出したからこそ、彼女を手元に置きました」

「ランカにはその素質があるようには見えなかった」

「私にはそう見えたんです。それに、あの時のランカは初めての獣化で我を忘れていた。だから、私が魔法でランカを捕縛したんですよ」

「最後にはランカは正気を取り戻していた。それを無理やり拉致するのはどうなんだ?」

「お互いに見知った関係ですから、拉致ではありませんよ」


 クロネがどんどん追及していくが、スウェンはまるで自分が悪くないかのように言葉を続けていった。確かにそういう見方も出来るだろうけれど、それにしては手段が強引すぎる。


「本当にランカの意思はあったの?」

「そうですよ。ですよね、ランカ。ランカは自分の意思で私についてきたんですよね?」

「はい。自分の意思で付いてきました」


 スウェンの問いにランカは同意した。だけど、そこにランカの意思は感じられない。だって、ランカは自分の事を自分とは言わない。だから、これはランカの意思に反することだ。


 オルディア様が言っていた薬と魔法の影響があるのだろう。それをどうにかしないと、ランカを目覚めさせることは出来ない。


「魔物の匂いはどう説明するんだ」

「魔物は移動中に襲ってきたんですよ。だから、魔法で撃退しました。その時に付いた匂いでしょう」

「そうか? あたしには魔物と仲良くしているような印象を受けたけれど?」

「それは無理でしょう。だって、相手は魔物ですよ。私の意思なんか尊重してくれません」


 魔物の匂いの説明もそう来たか。私たちが知っているのは、魔物の匂いが付いているという事だけ。それだけでは、スウェンを深くは追及できない。もっと、確かな証拠があればいいんだけれど……。


「話は終わりですか? これから信者に向けて説教をしないといけませんので、これで失礼しますね」


 そういうと、スウェンはランカを連れて信者が待つ場所に向かっていった。


 正直、このままランカを行かせたくはなかった。でも、ランカを正常に戻す手段が見つからないのに、無理に引き留めるとこちらが悪になってしまう。


 そのことをクロネも分かっていたみたいだ。スウェンが去った方向を悔しそうに眺めている。


 ◇


 何も出来なかった私たちは馬車の中に戻ってきた。馬車の中は重苦しい空気に包まれている。その空気を破るかのように、私は口を開いた。


「ランカが見つかったのに、取り戻す事が出来なかったね」

「……あたしたちの事を覚えていなかった。それが悔しい」

「実はね、その事で気づいたことがあるの。どうやら、ランカは薬と魔法の影響で意思を奪われているみたい」

「なんだって!? それじゃあ、さっきのはランカの意思じゃないってことか!?」


 私の話にクロネはとても驚いた様子だ。それもそうだ、まさか薬と魔法の影響であんな風になったとは思わない。


「なおさら、助けないとダメじゃないか!」

「でも、どうしたらランカを元に戻せるか分からないの。薬と魔法の影響を無くす手段、これを考えない事にはランカを取り戻す事が出来ないよ」

「くそっ……どうしたらいいんだ」


 ランカを取り戻すには薬と魔法の影響を無くさなければいけない。何をしたら、その影響がなくなるのか……。


 私の魔力でどうにかなる? でも、どんな効力にすればいいのか分からない。一度、試してみない事には……。


 そんなことを考えていると、馬車の扉が開いた。


「おや、先に戻っていたのですね。教会はどうでしたか?」


 商会長が戻ってきた。私たちはすぐに取り繕って、口を開く。


「自分たちには合わない場所でした」

「そうでしたか、それは残念です。では、私の屋敷に参りましょう。そこで、今日のお礼をさせてください」


 それだけを言うと、商会長は残念そうな顔をした。商会長が馬車に乗り込むと、馬車は進んでいった。

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