85.ランカの違和感
「ランカ!」
思わず叫んで近寄った。その声にランカは反応する。顔をこちらに向けてくれたのだ。良かった、声が届いた。嬉しい気持ちが湧き起ってくる。
色んな事を聞きたい。あの後、どうなったのか。どうして、何も言わずにいなくなってしまったのか。何か悪い事に加担しているのか。
だけど、いざランカを目の前にすると何を聞いたらいいか分からなくなる。目の前まで来ると、懸命に頭を働かせて、一言目を考えた。
「ランカ、久しぶり」
そう言って、笑って見せた。だけど、ランカからの反応はない。覇気のない顔をしてこちらを見ていて、久しぶりに会った感じがしない。
「心配していたんだ。ランカが突然いなくなったって聞いて。それからどうなったんだ?」
クロネが問いかけるが、ランカから反応がない。虚ろな目をしてこちらを眺めているが、何かを喋ろうとはしなかった。
……なんか、ランカらしくない。その様子を受けて、強い違和感を覚えた。普通なら色々と喋ってくれるはずなのに、それが全くない。
「おい、ランカ。どうした?」
反応のないランカの様子にクロネも違和感を覚えたみたいだ。不思議そうな顔をして、その肩を揺する。ランカはされるがままで肩を揺すられているだけだ。
本当にどうしたの? 不安に思っていると、ランカの口が動いた。
「あなたたちは誰?」
その言葉に思考が止まった。私たちは確かに言葉を交わした仲。顔見知り程度にはなっていたと思っていたのに、私たちの事を知らない?
久しぶりに会うからすぐに思い出せないかもしれないけれど……。
「何を言っているんだ、ランカ。ほら、何度も話したじゃないか」
「……知らない」
「知らないって……。あたしたちはちゃんと覚えている。出会った頃からちゃんと覚えているぞ」
「……知らない」
そんな、私たちの事を忘れてしまったの? 忘れるには離れていた期間は短いし、印象に残る時間を過ごしていたのいうのに……これはどういうこと?
もしかして、スウェンがランカに何かをした? もし、ランカを攫った黒い触手がスウェンのもので間違いないとしたら、スウェンは他の力も隠しているはずだ。
その力を使って、ランカに何かをした線が濃厚だ。でも、それがなんなのか良く分からない。何か分かる力があれば……そうだ! こういう時はオルディア様に頼もう!
きっとオルディア様ならランカの今の状態を見切ってくれるはずだ。私は服の下にしまった首飾りに手を当てて、オルディア様に話しかける。
オルディア様、いますか? オルディア様……。
『ふふふ、小腹が減った時のカップラーメン……。なんて背徳的な……。太ってしまうのが分かっていても、やめられない』
……オルディア様?
『それだけじゃなくて、物足りなさそうだったからご飯に焼いただけのソーセージを……。これはれっきといた一食分! 小腹が減った時に食べる物じゃない! それを、間食と言って食べる、この背徳感!』
オルディア様!
『ファッ!? こ、この声は……ユナ!? い、いや……これは……! ちょ、朝食を食べ損ねたからであって! だから、お腹が空いているのです!』
確実に太りますね。
『いやー! そんな、はっきり言わないでー! 最近、少し体重が増えつつあるのを見て見ぬふりをしているのにー!』
そんな事より、力を貸してください。
『うぅ、そんな事って……ユナ、冷たい。この間の温かいやり取りは一体どこに行ってしまったのでしょう……』
……温かい? そんなに温かくなかったと思うんですけど。いやいや、オルディア様の調子にまた乗せられそう。早く話を進めなくっちゃ。
『ゆっくりしていってもいいんですよ?』
オルディア様、目の前にいる狼獣人の子の事を調べてください。
『もう、ユナはせっかちですね。どれどれ……』
……何か分かりましたか?
『どうやら、その子……。薬と魔法の影響があるみたいですね』
薬と魔法?
『薬で意思を弱らせ、魔法で操っている。そんなところです』
そんな……。じゃあ、本当のランカの意識はないってことですか?
『その通りです。その子を解放させるには、薬と魔法の力を排除する必要があるでしょう』
薬と魔法の排除……。じゃあ、その二つをどうにかすれば、ランカは元に戻るんですね!
『はい、その通りです。じゃあ、私はこれで……。あー! カップラーメンがぁ――――』
オルディア様がうるさくなったところで通信を切った。あの様子は、カップラーメンが伸びてしまったんだろうな。少し、悪い事をしてしまった気分だ。
いやいや、今はそんな事よりもランカの事が大切だ。クロネは一生懸命にランカに話しかけているが、ランカの反応はいまいちだ。
「クロネ、今ランカは――」
「おや、あなたたちは?」
話しかけようとした時、聞き覚えのある声が聞こえた。背筋がゾクリとなる。この声、まさか……。
振り向いてみると、そこにはスウェン司教が立っていた。
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