82.ダランシェ子爵領へ続く道で(2)
「ユナ、頼んだ!」
後ろから応援するクロネの声が聞こえる。その声を力にして、私は魔力を高めた。
相手は強固な皮に覆われた、巨大な魔物。クロネの技が効かないとなると、私の魔法が通らない可能性がある。
でも、私の魔力は変幻自在。どんなものにも変えられる力がある。それを使えば、ガルノクスを倒せるきっかけを作る事が出来る。
魔力を限界まで高め――次に行うのは、それを変異させること。狙うは、あの忌まわしき外殻を持つ魔物、ガルノクスの装甲すら溶かす侵蝕の液体。
ガルノクスは鋼鉄の如き外皮を持ち、下手な攻撃など一切通じない。だが、力で突破する必要はない。無に帰す力をもって、すべてを融かせばいい。
イメージを集中する。どんな素材も逃れられない腐蝕の力。岩をも、鉄をも、そしてあの硬質な外皮すらも溶かす灼熱の酸液を思い描く。
魔力が形を変えていく。変異が始まった。空中に浮かぶ水球。それは透明な外見とは裏腹に、触れた瞬間、すべてを崩壊させる溶解の球。
形状と性質が固定され、異能の液体が完成する。視線を上げ、私は叫ぶ。
「これで!」
手をかざし、魔力の水球をガルノクスの背中へと移動させる。そして、重力に任せて――落とす。
ザパァッとした音と共に接触し、次の瞬間――
シュウウウウ――ッ!!
白煙が爆発するように吹き上がり、焼け爛れるような腐蝕音が周囲に響く。
「グオォォッ!!」
背中に走る激痛に、ガルノクスが怒号をあげて暴れ出す。その巨体が揺れ、馬車がギシギシと悲鳴を上げる。
煙の向こうで、確かに外皮が溶けていた。これで、どんな攻撃も防ぐ鎧は外れた。
「クロネ、あそこに攻撃をして!」
「分かった!」
私の合図にクロネは双剣をくるりと回し、構える。姿勢を低くして力を溜めると、その姿がフッと消える。
次の瞬間――
「《迅雷双刃》!」
雷鳴のような声と共に、クロネの姿が消え――次の瞬間、彼女はガルノクスの背に影のように出現していた。
空気を切り裂く閃光。双剣が交差し、音すら追いつけぬ速さで閃いた。
ズシャッ――!!
鋭い衝撃がガルノクスの巨体を貫き、その肉と骨を粉砕する。一拍遅れて、地響きのような衝撃音が響き渡る。
ガルノクスは声を上げる間もなく、崩れ落ちた。その背に、ぽっかりと空いた巨大な空洞。止めを刺したクロネは、血飛沫の中に無傷で立ち尽くしていた。
◇
「本当にありがとうございます。ガルノクスを倒しただけじゃなく、馬車まで直してくれるとは。本当に助かりました。これは感謝の気持ちです」
商会長は褒章メダルを二枚私たちに差し出した。それを受け取ると、さらに商会長は話を続ける。
「もう少しでダランシェ子爵領の町に到着するでしょう。それまでは、ぜひ私の馬車に乗ってください。そして、今晩ウチで泊まっていってください」
「どうする?」
「じゃあ、甘えようか」
「ぜひ、そうしてくださると嬉しいです」
折角の好意を無駄には出来ない。そう思って、承諾した。私たちは商会長に連れられて、大きな馬車に乗り込んだ。席は前方向きに設置してあり、六人は乗れるほどの大きな馬車だ。その馬車に商会長と私たちだけで乗り込む。
「狭い馬車の中になりますが、おくつろぎください」
「ありがとうございます」
そう言うと、商会長は私たちがゆっくりと過ごせるように視線を前に向けてくれた。向かい合わせだったら、ちょっと気まずくなっていたからこの席は助かる。
「ホバーバイクの方が速かったんじゃないか?」
「あれに乗るのも体力がいるからね、馬車に乗ったほうが楽かなって思って」
「ユナは魔力は凄いのに、体力がないな。鍛えようか?」
クロネが目をキラキラさせて言ってきた。本当に鍛錬が好きなんだから。でも、私はそこまで体力がある方じゃないし、いざという時にこのままじゃちょっと困るかも。
「うーん……クロネに鍛えてもらったほうがいいのかな? ときどき、ついていくだけで必死なときあるし」
「そうだろう? だったら、ユナも一緒に鍛えよう。どれくらい、まで強くなる? 素手で岩を壊せるくらいか?」
「いやいや! そこまではいいからっ。普通の子よりちょっと体力があるくらいでじゅうぶんだよ~」
「そんな事で足りるのか? もっと、鍛えたほうが楽しい!」
流石に素手で岩は無理だろう。それに、私にはこの魔力があるから力はそんなにいらない。それに――。
「鍛えるのは、ほどほどでいいよ。困った時は、クロネが助けてくれるし。ね?」
「あたし?」
「うん。いつも助けてくれるでしょ? 今回だって、クロネの力に頼っちゃったし」
正直、私ひとりの力じゃできないこともいっぱいある。だから、クロネの力が頼りで……ついつい甘えちゃうんだよね。
「クロネが迷惑じゃなかったら……これからも、頼ってもいい?」
「ダメじゃない! 友達なんだから、当然。困った事があったら、なんでも頼ってくれ」
「ありがとう、クロネっ!」
ふわっと笑いあって、手をぱちんと合わせる。心の奥が、あったかくなる。
やっぱり、持つべきものは、友達だよね!
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