81.ダランシェ子爵領へ続く道で(1)
「えーっと、ダランシェ子爵領は……。あっちの道だね」
分かれ道に立っていた案内を見て、行く道が決まった。そっちの道にホバーバイクを走らせていく。
私が運転して、クロネが後ろ向きに後部座席に乗る。クロネもホバーバイクに慣れてくれたのか、今ではちゃんと後部座席に座ってくれた。
クロネがちゃんと乗ってくれたお陰で、旅路はとても早く進んでいた。これなら、今日中にはダランシェ子爵領の町が見えてくるはずだ。
ホバーバイクの速度を上げ、道を進んでいく。すると、道の奥に立ち往生する馬車の列が見えた。
「ねぇ、クロネ見て。何かあったみたい」
「何だろうな。見に行ってみよう」
「うん」
私たちはその馬車の列に向かっていった。すると、人の姿もちらほらと見える。呆然と立ち尽くす人がいる中、慌てている人もいる。一体、何があったのだろう?
私たちはホバーバイクを降り、マジックバッグにしまうと、徒歩でその人達に近づいていった。
「あのー、何かあったの?」
「えっ、お嬢ちゃん……たちだけ?」
「こう見えても冒険者だから」
「そ、そうかい。いやな、馬車の先頭がガルノクスに襲われているんだよ」
魔物に襲われている!?
「今、護衛が戦っているらしいんだが……強くて討伐出来ていないみたいなんだ」
「だったら、手を貸そう」
「手を貸すって……。ガルノクスはBランクの魔物だ。お嬢ちゃんたちには……」
「これでも?」
戸惑う人に対してクロネは冒険者のタグを見せつけた。
「それはBランクの!? ほ、本当か?」
「嘘じゃない。魔物討伐に手間取っているなら、手を貸すけど?」
「ありがたい。この馬車の先頭にいけば、商会長がいるはずだ。その商会長に話してやってくれ」
「分かった。ユナ、行こう」
私たちは商会長と話すために馬車の先頭に向かって駆け出して行った。道には沢山の馬車が立ち止まっていて、みんな不安そうに先頭の方を眺めていた。
しばらく走って行くと、騒がしい声が聞こえてきた。視線を向けると、そこには横転して壊された馬車と魔物がいた。
それはまるで岩の塊が動いているような魔物だった。灰色がかった分厚い皮膚はひび割れ、まるで石の装甲のように硬そうだ。体は馬車二台分ほどもあり、脚は丸太のように太い。
額から突き出た一本の角はねじれて鋭く、赤黒く汚れていた。さっきまで何かを突き刺していたのだろう。鼻息一つで土煙が舞い、地面がわずかに震える。まるでサイのような見た目だ。
そのガルノクスには数名の護衛が対峙していた。休むことなく攻撃をしているが、ガルノクスはびくともしない。その厚い皮が全ての攻撃を無力化しているように見える。
「商会長! 全然、攻撃が効きません!」
「どうにかして、あの馬車から遠ざけてくれ! あの馬車には、大事なものが!」
ガルノクスは馬車に乗せてあった食べ物に夢中らしくて、その場を動こうとはしなかった。食べ物に夢中だったから、けが人も少ないみたいだ。
私たちは商会長と言われていた男性に近づき、声をかけた。
「あの、私たちで倒しますか?」
「えっ……?」
「こう見えてもBランクの冒険者だ」
「あっ!」
声を掛けると私たちの姿を見て驚き、クロネが取り出した冒険者のタグでもっと驚いた顔になった。
「なんという天の助け! 頼む! あのガルノクスを討伐してくれ!」
「分かった、あとは任せろ」
「じゃあ、やろう!」
商会長のお願いを受けて、私たちはガルノクスへと近づいていった。すると、今まで戦っていた護衛の人達が私たちを見て驚きながらも手を引く。
「ほ、本当に大丈夫なのか?」
「俺たちでも無理だったんだぞ」
「どうにか出来るのか?」
不安そうな声が聞こえてきたが、自分たちじゃどうにもできないって分かっていたらしい。あっさりと場所を譲ってくれた。
改めてガルノクスを見る。近くで見ると、その大きさが分かる。それに皮膚がとても頑丈そうだ。生半可な攻撃だと全て防がれてしまうだろう。
「初めから全力だ」
そう言って、クロネは双剣を抜き放つ。刃が抜ける音と同時に、彼女の気配が一変した。鋭く細められた目には、迷いも怯えも一切ない。ただ、静かに獲物を狩る獣の目。
ぐっ、と地面を踏みしめる。全身の筋肉が一瞬で張り詰め、双剣を握る指に力がこもる。その気配はまるで稲妻の直前の静寂――そして次の瞬間、クロネの姿が空間から消えた。
「《迅雷双刃》!」
声が轟くと同時に、彼女はガルノクスの横腹に現れていた。その刹那、鋭い双剣が交差し、岩のような魔物の皮膚を真一文字に斬り裂く。
重厚な肉体が宙に浮き、巨体が地面に叩きつけられた。地鳴りのような衝撃音とともに、地面が揺れる。土煙が巻き上がり、周囲の護衛たちが息を呑む。
そこに立っていたのは、双剣を構えたまま、音もなく着地する黒髪の少女。彼女の足元に、風が渦を巻いていた。
これは効いたはずだ。固唾を呑んで見守っていると――その巨体が動いた。ガルノクスはゆっくりと立ち上がり、まるで何事もなかったかのように馬車に顔を突っ込んだ。
「くそっ……。力が足りない」
「そんな、クロネの技を受けて平然としているなんて」
どうやら、ガルノクスはかなり皮が厚いらしい。クロネの技に耐え切れるほどの防御力を持つなんて……。
このままだと私の火の矢も耐え切ってしまうような気がする。何か良い手は……。とにかく、あの厄介な皮をどうにかしないといけない。だったら、皮を――。
「次は私に任せて」
そう言って、私はガルノクスに近づいた。
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