8.辺境の村
「えっ! ここって、カレディア王国じゃないの!?」
「うん。隣国のルベリオン帝国。の端っこ」
衝撃の事実だ。ということは、私は隣国に捨てられたってことになる。まさか、隣国に来ているとは思わなかった。
「じゃあ、地理とか分からないな。どうしよう……」
「大丈夫。あたしが分かっている」
「クロネはルベリオン帝国に詳しいの?」
「うん、詳しい。だって、生まれた国だから」
そっか、それなら安心だ。
「てっきり、クロネは流浪の旅人かと思ったよ。どこか遠くの国からやってきて、目的のために修行を積んでいるような」
「あたしの目的はこの国にあるから、離れる事は出来ない。だけど、流浪はいいな。響きがカッコいい」
「だったら、違う国に行ってみる?」
「……魅力的だけど、目的のためにこの国を離れる事は出来ない」
クロネの勝ちたい相手を意識しているみたいだけど、他の国に行っても修行は出来ると思う。どうして、頑なに自分の国に拘るんだろう?
「何か他にも理由があるの?」
「……別に。ちょっと、気になる事があるだけ」
あー、喋ってくれないか。まだ出会ってそんなに時間が経っていないから、自分の事を詳しく話すまで仲良くなっていない。
今はダメでもこれから仲良くなっていけば、きっと色々喋ってくれるよね。こんなことでめげないで、交流を深めて行こう。
「そろそろ、近くの村に着く。その村で泊ってから、冒険者登録が出来る町に向かおう」
「助かるよ、ありがとう! クロネはそこで寝泊りしていたの?」
「用がないから、村には寄っていない。野宿でも問題ないから」
なるほど。こんなに衣服がボロボロになるのは、野宿をしているせい? それとも、かなりの数の戦闘をこなしているせい?
「じゃあ、なんでその村に寄ってくれるの?」
「……ユナがいるから、村で寝泊りしたほうがいいと思って」
「えっ? わ、私のため?」
「だって……普通は村とか町で寝泊りするだろ?」
まだ仲良くなっていないけど、クロネは私の事を気遣ってくれる。その言葉に胸の奥がじんわりと温かくなる。
「えへへ、嬉しい。私の事を考えてくれてありがとう」
「……別に」
クロネはマントに顔半分を隠して、そっぽを向いた。照れているのかな? しっぽが嬉しそうに振れていて、可愛い。
そのまましばらく歩いていると、森の終わりが見えてきた。それと同時に家がポツポツと見てくる。
「あれが村」
「ようやく着いたね!」
見えてくる建造物に胸が高鳴る。森を抜けて、村の中に入った時――何か懐かしい感じがした。
それは、この光景がどこかで見覚えがあるという事じゃない。何か、昔に感じたことのある気配がする。これは一体?
「どうした?」
「……うん、ちょっと。違和感があるというか」
「違和感? そういえば、村人の姿が見えないな」
私が感じているのはそういうことじゃないんだけど……。でも、確かに人の姿が見えない。こんなに天気がいいから、どこかにピクニックに行ったのかな?
辺りを見渡しながら歩いていると、クロネの耳が忙しなく動き、ある一定の方向を向いて止まった。
「あっちに人がいる。しかも、大勢。雰囲気が悪いみたいだけど、何かがあった可能性がある」
「えっ、そうなの!?」
こんなに長閑そうな村なのに、物騒な事になっているってこと? なんだか、怖いなぁ。
「行ってみよう」
「……うん」
クロネが先頭を歩くと、私はその後についていく。歩いて数分、村の広場に大勢の村人が集まっているのが見えた。
村人は深刻そうな顔をして悩んでいるみたい。声を掛けようと思ったら、村人が先に口を開く。
「やっぱり、討伐は難しいんじゃないか? あの魔物は強そうだぞ」
「でも、このままじゃオルディア様の像が破壊されるぞ」
「あれが壊されると、この村の守りが弱くなる。死守しないといけないんじゃない?」
「やっぱり、町に行って冒険者に依頼しよう」
「じゃあ、誰が行く? オルディア様の守りが弱まった今、街道を行くのは危険だぞ」
色んな意見が飛び交うが纏まらないみたい。話を聞くと、魔物が現れて困っているみたいだ。オルディア様ってこの大陸に広まっている、オルディア聖教の神様だよね?
「オルディア様? 今、国教は政変後にカリューネ教に変わっているはず」
「えっ、そうなの?」
「あぁ。まだ変わって数年しか経っていない。ということは、まだこんな辺境まで広がっていないという事なのか」
なんか政変っていう物騒な言葉が聞こえたんだけど。でも、国教が変わる事なんてあるんだ。なんだか、意外だな。
そんなことを考えていると、クロネが村人をかき分けて中心に行った。すると、注目がクロネに集中する。
「魔物がいて困っているんだな。だったら、あたしたちに任せてくれないか?」
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