78.勝利の時
ミノタウロスが崩れ落ちた瞬間、あたりに静寂が訪れた。煙が晴れた後、焼け焦げた匂いと血の臭いだけが残っている。
やけに静かだな……。そう思って振り向いた時――その沈黙を破られた。
「……や、やった……倒したぞ……!」
その一言が引き金になったように、冒険者たちの間にざわめきが走る。そして、次の瞬間――。
「うおおおおおおっ!!」
「ミノタウロスが! あの化け物がやられたぞ!」
「二人が倒したんだ! あの少女たちが!」
歓声が地鳴りのように響き渡った。武器を手にしていた者たちがそれを天に掲げ、拳を突き上げて叫ぶ。誰もが血だらけで、傷ついて、疲れ果てていた。けれどその瞳には、希望の光が宿っていた。
群衆が走り寄ってくると、私たちはあっという間に囲まれた。
「お前たち、あれを本当に! 一体、どんな戦い方だよ……すげぇ、すげぇよ!」
「信じられねぇ、魔法を連発してたよな!?」
「最後の剣技、全然見えなかったぞ! どうやってやったんだ!?」
称賛の声が四方から飛び交い、誰かが拍手を送ると、次々と手が打ち鳴らされていく。次第にその拍手はリズムとなり、熱を帯びて、まるで勝利の讃歌のように広がった。
凄い盛り上がりようだ。隣を見て見るとクロネは少し気まずそうに頬をかきながら、視線をそらした。
「……別に、普通だし」
「ふふっ、照れちゃって」
「て、照れてないし……」
こんなに人に囲まれて、称賛を送られたのは初めてだったのかな? その様子は年相応の反応でとても可愛かった。
すると、群衆の中からBランクの二人が現れた。
「君たちの活躍見てたよ! 俺たちじゃ敵わなかったのに、凄いな!」
「とても強いのね! 本当に助かったわ、ありがとう」
「クロネがいたから勝てたんだよ」
「むっ。いいや、ユナがいたから勝てたんだ」
「えー、クロネがいたからだよ」
「ユナがいたからだ」
私はクロネがいなかったら倒せなかったと思ったんだけど、クロネは違うらしい。お互いの事を誇りに思っているから、ちょっとした言い争いをしてしまった。
「ふふっ、仲がいいのね。それで、疲れている所悪いんだけど……残りの魔物の掃討も一緒にやってくれない」
「まだ、魔物は残っている。全て倒す必要があるだろう」
「うん、分かってる。残りの魔物も一緒に倒そう」
「あたしはまだ動ける。残りも確実に殲滅させよう」
私たちは、残された魔物たちを見据えた。
ミノタウロスという柱を失ったことで、大軍の統率は崩れ、魔物たちはざわめきながら後退している。その視線には、確かな恐れが宿っていた。
……今なら、勝てる。
「ユナ。仕上げだな」
「うん。行こう、クロネ」
互いに短くうなずき合う。クロネが双剣を軽く回し、私は魔力を練る。空気が張り詰め、周囲の冒険者たちが一瞬息を呑む。
そして――。
「全員、突撃だ!」
「一体残さず、殲滅しろ!」
「うおおぉぉっ!」
後方から仲間たちの咆哮が響く中、私とクロネは先陣を切る。魔力を纏い、風を巻き上げ、足元を爆ぜさせて――私は、駆け出した。
◇
Aランクの魔物、ミノタウロスの撃破。そして、押し寄せた万の魔物の大軍、全ての掃討。
私たちは、その両方をやり遂げた。
最後の一体が絶命すると、戦場にいた冒険者たちから歓喜の叫びが上がる。それはまるで、地鳴りのような轟音だった。
「終わった……」
疲れた体を引きずりながら、私は空を仰いだ。群れを成していた魔物たちは、もうどこにもいない。
焼け焦げた大地に横たわるのは、無数の魔物の屍。長く、苦しい戦いだった。だけど――確かに勝った。
そして、勝利の余韻を胸に、私たちは町へと帰還した。
――町の門が見えた、その瞬間。
「帰ってきたぞ! 勇者たちが帰ってきた!!」
誰かがそう叫ぶと、町中が一斉に沸き立った。
城門が開かれ、道の両脇に人々がずらりと並ぶ。老若男女、皆が笑顔で手を振り、拍手を送ってくれる。花びらが舞い、子どもたちの歓声が空に弾ける。
「ありがとう! ありがとう! 本当に……ありがとう!!」
「あんたたちが無事でよかった!」
「あなたたちがいなかったら、私たちは……!」
住人たちが次々と駆け寄り、涙ながらに手を握り、抱きしめてくる。その温もりに、私の胸がじんわりと熱くなった。
「……こんなふうに迎えられるなんて、夢みたいだね」
私がつぶやくと、隣でクロネが照れたように笑った。
「そうだな。なんか、体がうずうずする」
「クロネも嬉しいんだね」
「……そうなのか?」
あまり受けない歓迎を前にクロネは居づらそうにしている。でも、その表情は綻んでいたから、自然と喜ぶことが出来たんだと思う。
すると、町中に鐘の音が鳴り響いた。それはけたたましいものじゃなく、一定のリズムで刻まれる音。それはまるで、私たちのために鐘を鳴らされているみたいだ。
鐘の音が鳴り響く中、私たちは並んで歩いていた。
「クロネ、ありがとう。ずっと隣にいてくれて。クロネが一緒に戦ってくれたから、頑張れたよ」
「……あたしのほうこそ。ユナがいたから、最後まで戦えたんだ。……友達だからな」
その声は照れくさそうで、けれど優しかった。さっきの言い争いが嘘のように言葉に気持ちが溶け込んでいく。
そっと、手を伸ばすと、クロネの手が自然に重なる。
「またよろしくね!」
「あぁ、任せておけ」
その手のぬくもりが、すべての疲れを溶かしてくれた。この瞬間だけは、何にも邪魔されたくなかった。
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