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【書籍化決定】転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした  作者: 鳥助
第二章 クロネの事情

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77.ミノタウロス

 悲鳴が聞こえた場所に行くと、そこには一体の巨大な魔物がいた。


 身の丈は四メートルを超え、隆々とした筋肉に覆われた身体は岩のように硬そうだった。牛の頭を持ち、額からは二本の巨大な角が突き出ている。目は血走り、理性のない憎悪だけが宿っている。


 口にはどんなものも噛み砕くような強靭な歯が並び、鼻息は空気を震わせるほど荒い。巨大な斧を握り、その斧には血の跡がべったりとへばりついていた。


 全身は毛むくじゃら。ひづめのような足が地面を踏み砕いている。その一歩ごとにズシンと音が鳴り、周囲の空気が揺れる。


「あれは……ミノタウロス。Aランクの魔物だ」


 この大軍に潜んでいた、圧倒的な戦力。そのミノタウロスは巨大な斧を振り回し、次々と冒険者たちを屠っていた。この中にAランクのミノタウロスと対等に渡り合える冒険者はいない。


 Bランクである自分たちがどうにかしないといけない。大丈夫、私はAランクの魔物を倒したことがある。それに、クロネだってAランクの魔物と戦える実力はある。


「よし、クロネ。やろう」

「あぁ。ちょうど、体が疼いていたところ」


 クロネは静かに双剣を構える。その瞳が鋭く光ると、地を蹴った彼女の姿が風と共にかき消えた。


 一瞬の静寂が降りた。――が。


「《迅雷双刃》!」


 次の瞬間、雷鳴のごとき素早さでクロネはミノタウロスの背後に現れ、両手の双剣が稲妻のような衝撃が奔った。


「ブモォォッ!」


 ミノタウロスの分厚い背に深々と斬撃が刻まれ、鮮血が高く噴き上がる。巨体がぐらりと揺れ、前のめりに傾いた――が。


 地面を砕くような音と共にミノタウロスは片膝をつく寸前、強靭な脚で地を踏み鳴らした。


「ブモッ!」


 反撃は一瞬だった。巨躯をひねり、振り抜かれた斧が唸りを上げてクロネに迫る。


「……ぐっ!」


 クロネは双剣を交差させて受け止めた。だが、凄まじい衝撃にクロネの体は宙を舞う。空中で身体をひねり、受け身を取りながら地に着地する。


「さすが……伊達にデカいだけじゃない、か」


 クロネの必殺技を受けても、平然と反撃出来る強靭さがミノタウロスにはある。これは生半可な攻撃は効かないっていうことか。


「ユナ! あたしが引き付ける、その間に魔法で弱らせて!」

「分かった!」


 クロネがミノタウロスの前に立ち塞がると、勇敢にも立ち向かっていく。クロネがミノタウロスを引き付けてくれるから、私は十分に魔力を練る事が出来る。


 クロネの勇気を無駄にしないために、すぐに魔力を高めた。放出した魔力を次々と火の矢に変える。私の頭上には二十本もの火の矢が生成出来た。


「クロネ、避けて!」


 声を張り上げた。すると、クロネの姿が消えた――これならいける。火の矢に風の力を付与して、突風如き速さでミノタウロスに放つ。


 狙いは定めた、あとは当てるだけ。――そう、思っていた。


「ブモォォォッ!」


 突然、ミノタウロスがいきり立ち、向かってくる火の矢に向けて斧を縦横無尽に振り回す。豪風が吹き荒れ、斧は火の矢を爆発と共に打ち消していく。


 二十本も放ったのに、全てを叩き落とされてしまった。……このAランクの魔物は強い。


 ――だけど、勝てない相手じゃない。


「クロネ! 引きつけるのはもういい! 全力で叩き込んで! 私が隙を作る!」

「了解ッ!」


 即答と同時に、クロネは地を蹴ってミノタウロスへ突進する。その刃に宿る殺気が風を裂き、獣を挑発するように何度も斬撃を浴びせた。


 私はその背中を見送りながら、静かに目を閉じた。


 ――集中。限界まで魔力を高める。


 呼吸と鼓動を魔力の流れに重ね、体内の力を一気に開放する。先ほどの火の矢を凌駕するほどの力を籠めて、火の矢を頭上に生成した。


 何者も貫く強靭な風の力を付与すると、それらをミノタウロス目掛けて解き放つ。先ほどよりも速く、強靭な火の矢がミノタウロスに向かっていった。


 そのミノタウロスが火の矢に気づく。


「ブモォォォッ!」


 ミノタウロスが唸り声を上げながら、構えた戦斧を振り上げる。狙いは火の矢――叩き落とす気だ。剛腕が風を裂き、火の矢に迫るその瞬間――。


 「今だ!」


 私は即座に魔力を込め、転移の魔法を発動させた。


 火の矢が突如としてその場から消える。振り抜かれた斧は空を裂き、衝撃波が地面をえぐる。ミノタウロスの小さな目が驚愕に見開かれた。


「ブモッ!?」

「残念! その火の矢――もう自由なの!」


 私は勝ち誇った笑みを浮かべ、掌をひらりと返す。そしてその瞬間――。


 ズンッ――ドガァァン!!


 ミノタウロスの背後、まさに死角に転移させた火の矢が出現し、爆音と共に直撃する。


「ブモォォォッ!!」


 雄叫びを上げるミノタウロスの巨体がのけ反る。だがそれは序章に過ぎなかった。


 「次、次ッ!」


 私は連続して転移の魔法を行使。周囲の空間が歪み、火の矢が次々と現れる。それらはミノタウロスの腕、脚、腹、首元――逃げ場のない密着距離に次々と。


 ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!


 火の矢が炸裂するたび、閃光が夜のような空間を照らし、爆炎がミノタウロスの体を呑み込む。爆風に吹き飛ばされる肉片、裂け飛ぶ鎧、黒煙が天に立ち昇る。


 その黒煙が消え、ミノタウロスの体が露になる。体中に受けた爆発の衝撃、防げないその力に体中が抉れていた。焼け焦げた肌と抉れたところから血が滴り落ちる。


 先ほどの威勢は消え、ミノタウロスはフラフラになりながらもなんとか立っていた。ここが好機だ!


「クロネ!」


 私の叫びと共に、クロネの姿が風のようにかき消えた。


「《月影舞・殺陣》!」


 それは――斬撃の残像。闇に紛れ、月光のように美しく、鋭く、儚く。それが次の瞬間、ミノタウロスの全身を包囲するように走った。


 視認できないほどの速度で放たれる斬撃の数々が、鉄壁の肉体をまるで紙のように切り裂いていく。肩を、胸を、腹を、脚を――無慈悲に、的確に、致命的に。


 ミノタウロスは反応する間もなく、血飛沫を撒き散らしながら、ただ立ち尽くすしかなかった。


 「ブ……モ……」


 声にならない呻きが漏れた時には、すでにクロネは背後に立っていた。双剣を構えたその姿は、まるで処刑を終えた影の女神のようだった。


 そして、ミノタウロスの巨体が、ドサリ、と音を立てて崩れ落ちる。

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