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【書籍化決定】転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした  作者: 鳥助
第二章 クロネの事情

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75.万の大軍(2)

 爆風の中心で一人で立つ。魔物たちは悲鳴を上げる暇さえ与えられられず、その地面に散らばっていた。


 中心は魔物の破片一つ残さないほどの威力を発揮し、地面が見えた。だが、数十メートル先には爆発の威力でその体を爆散させた魔物の亡骸が山のように積み重なっている。


 一瞬で出来た亡骸の山に魔物も冒険者もシンと静まり返る。誰もがその光景に、声を失っていた。


 さっきまで耳をつんざいていた咆哮は消え失せ、爆発の余韻が残るだけの沈黙があたりを支配していた。


 焦げた肉の臭いと、血と内臓が混じった生臭さが風に乗って漂ってくる。それは吐き気を催すような悪臭のはずなのに、誰もそれに反応できない。ただ、眼前に広がる戦果に呆然と立ち尽くすしかなかった。


 そして、時は動き出す。


「うおぉぉっ、すげぇ! あんなに沢山の魔物を一瞬で!」

「なんていう力だ! 信じられねぇ!」

「いける、これはいけるぞ!」


 冒険者たちは歓喜の声を上げた。あの悲壮感が漂っていた空気は無くなり、やる気が満ち溢れる空気になった。


「よし、あの子たちに続け!」

「行くぞー!」

「倒して、倒して、倒しまくれー!」


 冒険者たちは武器を手にすると、一斉に結界の外を目指した。その動きにようやく魔物たちも正気を取り戻し、咆哮を上げて冒険者を迎え撃つ。


 大乱戦の開始だ。こうなってしまえば、簡単に広範囲に魔法は発動出来ない。……いいや、人がいない場所ならさっきのような広範囲に魔法が発動出来る。


 問題はどうやって場所を確保するかだ。魔物の真っ只中に飛び込んでいくのは、袋叩きに合う危険性があるから危ない。だけど、そうしないと広範囲の魔法は発動出来ない。


 やっぱり、クロネに道を切り開いてもらうしかない。そのクロネの姿を探すと、魔物の群れに向かって双剣を振るっている所だった。


 その動きを止めるのは忍びないけれど、ここは協力してもらいたい。


「クロネ、ちょっと来て!」


 声を掛けると、双剣を振った後にこちらに向かって駆け出してきた。良かった、声が届いた。しばらく待っていると、目の前にクロネがやって来る。


「どうした、ユナ。何かあったか?」

「さっきのような魔法を魔物の真ん中で発動させたいの。ここじゃあ、他の人に当たっちゃうから危なくて……。人いない場所までの道を作ってくれない?」

「分かった。任せろ」


 そう言うと、クロネは耳を立てて周囲の音を拾った。


「あっち側だな」


 人がいない方向を見定めると、姿勢を低くする。双剣を構えると、体に力を溜める。また、クロネから威圧を感じて肌がピリつく。


 そして、気づいた時にはクロネは魔物の群れに飛び込んでいた。


「あぁあぁぁっ!!」


 クロネの叫びと同時に、双剣が閃いた。


 その動きは、まるで雷鳴のように速く、嵐のように激しかった。踏み込んだ瞬間、クロネの身体が加速する。風を裂き、空気を引き裂き、次の瞬間には魔物の前にいた。


「ブッ……!」


 悲鳴すら間に合わない。振るわれた双剣は、一体のオークの胸元から肩までを一直線に切り裂いた。その巨躯が血を噴き出しながら崩れ落ちる。そのまま勢いを殺さず、クロネは旋回するように体を捻り、背後から迫ってきたガーゴイルを下から斬り上げる。


 刃が石のような外殻を容易く断ち割り、砕けた翼とともにその身体が空中に投げ出された。


「邪魔だぁぁっ!!」


 怒号と共に、左右の双剣が交差するように薙ぎ払われる。道を塞ぐゴブリンたちが束になって斬り裂かれ、血と肉片が飛び散る。


 その中をクロネは一瞬も止まることなく突き進む。敵の攻撃が届く前に斬る。斬って、躱して、また斬る。まるで死を司る神が道を刻んでいくかのように。


「ユナ、来い!」

「うん!」


 道が開いた。私は急いで駆け付けていく。クロネが切り裂いた魔物を踏み越え、人から離れた場所に移動をした。この場所なら、魔力を解放しても良さそうだ。


 だけど、今度は爆発は控えよう。爆風で迷惑をかけるかもしれない。じゃあ、使う魔法は――。


「よし、決めた」


 と、同時に私は魔物の中心に移動が完了した。すぐに、魔力を高めて周囲に放出した。広く、向こう側に届くように自分の魔力を広めた。


 それは地を這い、空気を包み、温度を一気に奪い取った。風が止まり、音が消えた。熱という熱が、すべて吸い込まれていく。


「凍れ」


 私が小さく詠じた瞬間、魔力が一気に変質する。世界が凍り始めた。


 まず、地面が鳴いた。バキバキと音を立てて凍結が始まり、土や石が白く染まっていく。地に溢れた魔物たちの血液は、真紅の液体から透き通る氷の結晶へと変わり、音もなく固まった。


 魔物たちが気づいたときには、もう遅い。


「グギャアッ!?」

「キイィィ……ッ!」


 冷気はまるで見えない嵐だった。空気ごと魔物の体内に入り込み、内側から臓腑を凍らせ、筋肉を裂き、骨を凍てつかせていく。


 冷気が止まった時――周囲に生きている魔物はいなかった。魔物の大群がいたはずの一帯が、まるで氷像の荒野になっていた。


 鋭い氷の棘が地面から突き出し、そこに絡みつくように、凍りついた魔物の骸。あたり一面が氷の静寂に閉ざされ、遠くから戦場の音がかすかに響く以外は、まるで時間そのものが止まったようだった。


 私はゆっくりと息を吐く。その白い吐息が、まだ冷たい空気の中でふわりと舞う。


「……砕け散れ」


 小さく呟いたその言葉とともに、私の手から透明な風の刃が放たれた。


 音もなく放たれた刃は宙を走る。そして――凍った魔物の首筋を、胸元を、脚を、次々と撫でていった。


 次の瞬間。


 ――パリィンッ!


 一体が砕けた。それを皮切りに、まるで連鎖反応のように、次々と魔物の氷像が砕けていく。頭が崩れ、腕が裂け、胴が割れ、足元から鋭い破片となって宙へ舞った。


 砕けた氷が吹雪のように舞い上がり、太陽の光を反射して銀の輝きを放つ。空は青く、光は清らかだった。その中で、ただ私一人が立っていた。


 冷気の残滓を押し流し、粉砕された氷の破片をさらっていく。凍った地面の上に、倒れる者も呻く者もいない。ただ、静かに広がる氷の荒野だけが残った。

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