73.鐘の音の原因2
町全体が光のヴェールに包まれ、ワイバーンは町を襲うことが出来なくなった。それなのに、鐘の音が途切れることなく鳴り響いている。
これは、ワイバーン以外にも脅威が迫っていることを言っているようなものだ。じゃあ、その脅威はどこに?
それを考えていると、初老の男性が近づいてきた。
「本当にオルディア様の加護が発動したみたいですね。あなたは一体……」
「いや、私は……」
もしかして、オルディア様に関係した重要人物だと思われている? とても尊敬した眼差しを向けてくるから、オルディア様と繋がっているなんて言えない。言ったら、どんな態度になるか……。
「どうやら、オルディア神の加護が発動したみたいですね。おめでとうございます」
その時、スウェンが横から入ってきた。一見、穏やかに話しているように見えるが、その目はとても冷たいものだった。いいや、前よりも冷たくなっている。
何か言い返そう。そう思っていると、スウェンがさらに言葉を繋げてくる。
「ですが、鐘の音は鳴り止みません。ワイバーンは脅威じゃなかったのでは? その脅威はオルディア神の力をもっても知りぞけないでしょう」
「どうして、そんな事が……」
「さぁ、どうしてでしょうね。ただ、それだけの脅威だと思ったからです」
なんか、含みのある言い方だ。もしかして、スウェンは何かを知っている? それとも、何かを仕組んでいる?
魔物の匂いがするっていうし……良くないことを考えてしまう。いや、今はそれを考えている暇はない。とにかく、この鐘の音の原因を突き止めないと。
そう思っていると、通りの向こう側から兵士が叫びながら走ってきていた。
「緊急招集! 冒険者は至急冒険者ギルドに集まるように!」
冒険者の緊急招集? 何かただ事ではないことが起こっているみたいだ。これは黙ってなんていられない。
「クロネ、行こう!」
「そうだな」
「お待ちください。子供のあなたたちは教会に残ったほうが安全ですよ」
初老の男性が呼び止める。きっと、子供の私たちを心配してくれているからだろう。その気持ちはありがたいけれど、私たちはそんなに弱くない。
冒険者タグを見せると、初老の男性は驚いた。
「それは、まさか……!」
「だから大丈夫! 司祭様はオルディア様への祈りを続けて」
私たちの実力を分かったのだろう……初老の男性は戸惑いながらも頷いた。
さぁ、行こうと思った時、クロネにエリシアが近づいてきた。
「クロネお姉様、行ってしまうの?」
「あぁ、冒険者の力が必要みたいだからな。エリシアは安全な教会の中にいてくれ」
「……分かりました。クロネお姉様とユナの無事を祈っています」
そう言って、エリシアは胸元で手を組んで祈りを捧げた。その様子と言葉に力を貰い、私たちは冒険者ギルドへと急いだ。
◇
冒険者ギルドに到着すると、そこでは冒険者たちがごったがえしていた。その中で忙しく職員が冒険者たちの仕分けをしている。あれを受ければいいのかな?
その女性職員の近くに行くと、こちらを見た瞬間驚かれた。
「えっ!? あ、あの……冒険者、さんですか?」
「これ」
「そ、それはBランクの!」
さらにクロネが冒険者のタグを見せると、女性職員はさらに驚く。そして、驚いた顔のまま固まってしまった。
「どうすればいい?」
「はっ! えっと、Bランクの冒険者さんはあの男女の冒険者さんがいるところに集まってもらっててもいいですか?」
「分かった」
なるほど、ランクごとに仕分けをしていたのか。それだけを聞くと、その男女がいる所で待機する。
「えっ……君たちも同じ?」
すると、その男女の男性から声が掛かった。こちらを見て、驚いている様子だ。だから、二人で冒険者タグを見せると男女の冒険者は驚いた顔をした。
「ほ、本当だ。凄いんだ、君たち……」
「こんなに可愛いのに……」
「ありがとう。ねぇ、何が起きているか知っている?」
「あぁ、もちろんだ」
良かった、この事態を知っている人がいた。
「どうやら、町の外から大量の魔物が押し寄せているみたいなんだ。それを退治するために、この町にいる冒険者を集めているみたいだ」
「数はどれくらい?」
「その数は数千……。ううん、万に近いっていう話よ」
「そ、そんなにいるの?」
万に近い魔物がこの町を襲いに来ているって大事件だ! そんな事になっていたから、鐘の音が止まらなかったんだ。
「怖くなったか? 子供だから、辞退したいって言えば辞退出来ると思う」
「無理はしないほうがいいと思うけど……」
「……この町には大事な人がいる。だから、引き下がれない」
「他にも沢山の人がいるし、私は私の出来ることをしたい」
「……そうか。見た目に寄らず勇敢なんだな。もしもの時は守ってやるからな!」
こんな時に気遣いをしてくれるなんて、良い人だ。だからこそ、引き下がれない気持ちが強くなってくる。
「冒険者の皆様、これより移動を開始します!」
すると、冒険者ギルドの職員が声を上げた。いよいよ、万に近い魔物と戦う時が来た。経験したことのない数の魔物との戦い、無事に生き残れることが出来るのだろうか?
その時、手を握られた。俯いた顔を上げると、心配そうなクロネがいた。
「……ユナ、不安?」
「えっ?」
「不安そうな匂いがした。大丈夫か?」
「ごめん、ちょっと弱気になってた。でも、クロネがいるから大丈夫だよ」
そう、戦うのは私だけじゃない。頼りになるクロネが傍にいてくれるから。クロネの事を考えると、自然と力が湧いてくる。ううん、前よりも心強くなっている。
「いざという時は、絶対に守るからね」
「それはこっちの台詞。二人で力を合わせよう」
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