72.オルディア様の力
私はキッとスウェンを睨みつけると、少しだけスウェンの目の色が変わる。人を見下すような冷たい目。その視線が一瞬注がれると、にこやかに笑ってみせた。
「ほう、どのように守ってくれるのでしょうか? 現に誰の事も守っていないじゃないですか」
「それは、私たちの祈りの力が弱いからよ。心からの祈りを捧げれば、オルディア様は守ってくださる」
「そんなこと、不可能だと思いますけどね。だったら、あなたがやってみてください。本当に祈りの力でオルディア様が守ってくれるのかを、この場で証明してみてください」
「望むところよ」
ここまで言われたら逃げる訳にはいかない。私は人々をかき分けて、礼拝堂に奥へと移動をした。その先には大きなオルディア様の像が立っており、祈るには丁度いい場所だ。
両膝を床につき、両手を胸元で組んで、目を瞑って祈りを捧げる。
オルディア様、いますか? オルディア様……。
『……ぐー。ムニャ、ムニャ……』
オルディア様!
『ハッ! し、仕事をサボっているんじゃなくて、これはれっきとした休憩なのですよ! 本当にそうなんです!』
大丈夫、分かっていますよ。
『えっ……ユナが私に優しい? あぁ、これは夢だったのね。だったら寝て……グー……』
夢じゃないですから、起きてください! 怒りますよ!
『えっ!? ユナに怒られるんだったら、起きるわ!』
……どんな感性しているんですか。ハッ、いけない。オルディア様の調子に乗ってしまった。今はこんな話をしている時間はないんです。
『……慌てているみたいですね。さぁ、その悩みを私に打ち明けなさい』
いや、急に神様らしくなられても……。
『てへっ!』
……調子が狂う! いや、本当にそんな暇はない! オルディア様、私がいる町を結界で守ったり出来ませんか!?
『町を結界で守る? 何かあったの?』
急に魔物が襲ってきたんです。それで、町の人が襲われて大変なんです。私の魔力で防ぐってことも出来そうですが、それだと魔物を討伐する人がいなくなるんです。私だけの力じゃ守れません。
『それは大変ね。でも、町を結界で守るなんて難しいわよ。その国の私の影響力は落ちているし、大きな町を守るために行使する力が足りないと思うの』
何が必要ですか!? 必要なものがあれば、なんでもします!
『……ゴクリッ。今、なんでもするって?』
碌に働かない駄女神の癖にご褒美を貰えると思っているのはおこがましいんじゃないんですか? 存在してるだけの負債ってこういう人の事をいうんですね。
『うっ!!』
そんな駄女神ですけど、お願いはちゃんと聞いてくれるし、ちゃんと守ってくれてます。そういうところ、しっかりしているところは本当に頼りになりますよね。
『ユナ……!』
……で、結界張れるんですか?
『ちょっと待って! 貶されて、褒められて、スンッとなられて、私の情緒が複雑に!』
もう! これだけしたのに、なんでそうなるんですか! この……ポンコツ駄女神!
『シャキン! ユナに様々な感情を向けられて困惑しましたが、もう大丈夫です!』
……。
『頑張って結界張るぞー! えいえいおー! ほら、ユナも!』
え、えいえいおー……。
『でも、結界を張るには祈りの力が必要です。出来るだけ沢山の人の祈りを届けてください。後の事は任せましたよ』
そう言って、オルディア様の気配が消えた。その途端、脱力して床に手をついてしまう。
「つ……疲れた……」
「ユナ、大丈夫か?」
「な、なんとか……」
なんとか今回もオルディア様の力を借りることが出来た。これで、祈りを捧げれば――そう思った時、礼拝堂の中がざわつく。
「見ろ! オルディア様の像が光っている!」
「な、なんということだ!」
「……綺麗」
ふと、顔を上げると――目の前の像から光が放たれていた。これはきっとオルディア様がちゃんと仕事をしてくれた証だろう。あとは祈りを捧げるだけ。
立ち上がり振り返ると、みんなが私に注目している。それもそうだ、私が祈りを捧げたからオルディア様の像が光ったのだから。だけど、今はそれを気にしている暇はない。
「沢山の祈りを捧げれば、オルディア様が町を守る結界を張ってくださるようです」
「そ、それは本当か?」
「はい。なので、人を集めてください! そして、みんなで祈りを捧げましょう」
「……像が光るなんて今までない事。分かった、あなたの言葉を信じる。みな、礼拝堂の像の前へ!」
初老の男性がそう声を掛けると、神官たちが慌てて動き出す。散らばっていた人たちを像の前に移動させ、次々入って来る人々もその輪に入れた。
礼拝堂はあっという間に人で埋め尽くされ、十分な人数が集まった。これなら、きっとオルディア様に祈りが届くはずだ。
「では、みんなで祈りを捧げましょう」
そう言うと全員手を胸で組み、目を瞑って祈りを捧げ始めた。始めは何も変わったことがなかったが、少しずつ像から放たれる光が強くなっていく。
みんなの祈りの力が集まっていく。光はどんどん大きくなり――そして、光が弾けた。強い光が礼拝堂を照らし、その光が外に向かって動いていった。
「こ、これは!?」
「結界が……張られた?」
「外、外を見に行こう!」
その光を見て、私たちは外に出てみた。顔を空に向けると、空には光のヴェールが見える。そして、そのヴェールの向こう側に沢山のワイバーンが飛んでいるのが見えた。
ワイバーンは光のヴェールを突破しようと体当たりをしたり、火を吹いたりしている。だが、そんな攻撃ではヴェールはびくともしなかった。
「やった! 祈りが通じたぞ!」
「オルディア様、感謝します!」
「た、助かった!」
町の外に追い出されたワイバーンを見て、人々は歓喜した。だけど、町には不気味に鐘の音が響いている。まるで、あのワイバーン以外にも危機があるように訴えかけるように……。
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