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【書籍化決定】転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした  作者: 鳥助
第二章 クロネの事情

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70.話し合い

 その名前、聞き覚えがある。教会に潜入した時に知った名前だ。この人が……魔物を従え、ランカを奪った人。


 じゃあ、ランカはどこにいるの? そう思って、神官たちに視線を向けてその姿を探す。だけど、ランカの姿はどこにも見当たらなかった。


 そんな……ランカはこのスウェンが攫って行ったんじゃないの? まさか、どこかに監禁されているとかじゃ……。


 悪い事が浮かんでは消えていく。スウェンがここにいるってことは、きっとランカもこの町にいるはずだ。でも、そのランカはどこに……。


 そんな事を考えていると、エリシアが礼をした。


「ルベリオン帝国第一皇女のエリシア・ルベリオンと申します」

「ご丁寧にありがとう。今日はよろしくお願いします」

「はい。では、集まったところですから、司祭の所へ行きましょう」


 私が考えている間にも話は進んでいく。エリシアとカリューネ教の一団が合流すると、すぐにオルディア教の神官が近寄ってきて案内を始めた。


 一団がぞろぞろと移動をする光景を見て、ようやく我に返った私はその後を追う。だけど、クロネは今にも飛び掛かっていきそうな形相だ。


「クロネ、落ち着いて。今は問い詰める時じゃないよ」

「だけど、アイツなんだ! アイツから今もランカの匂いがする」

「でも、ここにランカはいない。下手なことをしてランカの身に何かがあったら大変。だから、ここは落ち着いて」


 ランカはこの場にいないのは痛い。もし、ここでランカがいれば助けることが出来ただろう。だけど、いないからどうすることもできない。


「あの人がいるって事は、ランカもこの町にいると思う。今回の話し合いが終わったら、あの人の後を追おう。そして、ランカの居場所を突き止めるんだよ」

「そんなことをしなくても、あたしの鼻で……」

「町の中をランカの匂いだけで探すのは困難だよ。確実なのは、あの人がどこにいるか知ること。あの人がいるところにランカも絶対にいるはず」


 クロネの気持ちを抑えるために精一杯の言葉で説得をする。クロネは悔しそうに顔を歪めるも、最後は分かったように頷いてくれた。


「……分かった。話が終わるまで我慢する」

「ありがとう」


 なんとかクロネの感情を抑えることが出来た。これで、相手には怪しまれずに済む。先に行った一団を追っていき、私たちは教会の内部へと入っていった。


 廊下を進んでいくと、一つの部屋に通された。そこは広い応接間で、部屋の中央のソファーには一人の初老の男性が座り、その周囲には神官と思われる人達が控えていた。


 エリシアと初老の男性は軽く言葉を交わし、その後にスウェンの紹介をした。スウェンは表面上にこやかな表情を崩さず、穏やかに言葉をかわす。


 そして、ソファーに初老の男性、エリシア、スウェンが座り、話が始まった。初めに口を開くのはスウェンだ。スウェンはカリューネ教の事を事細かく説明した。


 その説明を初老の男性がにこやかに聞いている。一見、好感触のように思えたのだが――。


「我々が信仰するのはオルディア様、ただ一人でございます」


 にこやかな表情を崩さずに断言した。その頑なな雰囲気にエリシアとスウェンは表情を固くする。良い感じに話が出来ると思ったのに、それを挫かれた感じだ。


 その後もエリシアとスウェンが出来るだけ穏やかにカリューネ教に変えるように進言するが、初老の男性は絶対に首を縦には振らなかった。


 頑なな初老の男性にだんだんとカリューネ教の人達がイライラし始めてきた。この様子だと爆発しそうだ。そう思っていると――。


「どうして、カリューネ教に変えようとしないんですか!」


 耐え切れず一人のカリューネ教の神官が声を張り上げた。その様子を受けても、初老の男性は落ち着いた様子を崩さない。


 深く、静かに一息をついた初老の男性は穏やかな笑みを保ったまま、ゆっくりと口を開いた。


「私たちはこの地で数百年もの間、オルディア様を信じ、祈り、導かれて生きてきました。飢饉も、疫病も、戦乱も――幾多の困難を乗り越えられたのは、オルディア様の加護あってこそと、我々は信じております」


 その声に怒りはなかった。ただ、静かで、澄んでいて、芯があった。


「信仰とは、一朝一夕に変えるものではありません。ましてや、民の心の拠り所を、政治の都合で塗り替えるような真似は、私にはできません」


 その一言に、スウェンもエリシアも言葉を失う。初老の男性の目は、まっすぐ彼らを見据えていた。


「私は、オルディア教をやめるつもりはございません。それが、私の、そしてこの教会の意思です」


 静かな宣言。しかし、そこにはどんな圧力にも屈しない揺るぎなさがあった。カリューネ教の神官たちの間に、さざ波のような動揺が広がる。


 その中でスウェンは落ち着いた口調で口を開く。


「その意思で本当に危険が防げると思っているのですか? きっと、災いが降りかかるでしょう」

「その災いはオルディア様の加護により防げると思っています」

「――果たして、そう簡単にいくでしょうか」


 意味深な言葉を残し、笑みを浮かべたスウェン。その独特な雰囲気に言いようもない恐怖を感じてしまう。何か良くないことを考えている?


 そう思った時――外からけたたましい鐘の音が響いた。

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