7.猫耳獣人クロネ(2)
道の脇の木の陰でクロネを膝枕して起きるのを待った。考える事は、どうしてクロネが強さにこだわっていたのか、だ。
年齢は私と変わらないくらいなのに、どうして戦闘を好んで行うんだろう。きっと、私には知らない何かを背負っているに違いない。
次、起きた時はどんな話をしよう。どこから来たの? 趣味は? 何か目標がある? 考えると色んな事が浮かんでくる。
……浮かんでくるが。
「くっ……猫耳、触りたい。あと、しっぽも!」
異世界転生を果たして、初めて出会った獣人の子供。夢にまで見た猫耳としっぽがそこにある。意識を他に持っていこうと思ったが、やっぱり気になって仕方がない。
猫耳もしっぽも脱力していて、触り心地が良さそう。す、少しだけなら触ってもいいよね。寝ているし、気づかれないよね?
ドキドキしながら、震える手で猫耳の裏を触る。
「わー、フカフカ! つるつる!」
猫耳の裏は毛が生えていてフカフカしているのに、撫でるとつるつるしている。そのもふもふ加減に夢中になって猫耳の裏を擦ってしまった。
今度は指先で猫耳を摘まんでみる。人間の耳と変わらない硬さとやわらかさ。だけど、その耳が毛で覆われるだけで、どうしてこんなに気持ちがいいんだろう。
「もふもふ、もふもふ」
両手で両耳をもふもふする。なんか、今まで満たされなかった心が満たされていくような、そんな快感を覚えた。
耳も堪能したし、次はしっぽでも……。
「何をしている」
「はっ!」
気づいてしまったのか!
「ち、違うのこれは! その! 猫耳があまりにも可愛かったから! だから! その! 負けました!」
「……何を言っている?」
「……えっ? そんなに気にしていない?」
「いや、気にするだろ。一心不乱に耳を触っていたからな」
「そ、そうだよね! 気持ち悪かったよね! ごめんね!」
「……別にいいけど」
気持ち悪いって思われたらどうしよう、って思ったけれどクロネはそんなに気にしてないみたい。よ、良かった……怪しい人に思われて成敗されるところだった。
クロネは私の膝から起き上がると、地面に置いた剣を掴んだ。もしかして、また戦うの?
咄嗟に身構えるが、クロネは剣を触っただけで、それ以上の事はしてこなかった。
「私はどうしていた?」
「気絶していたよ。私の風の弾の欠片が当たったみたい」
「そうか。あたしは負けたのか……」
正直に言うと、クロネの耳が残念そうに傾いた。あの動き……いい!
いやいや、今はそっちに集中している場合じゃないんだって!
少し俯いていたクロネだったけど、すぐに気を取り戻して顔を上げた。
「お前、強いな」
「お前じゃなくてユナだよ」
「ユナは強い」
顔を向けたクロネの目がキラキラ光っているように見えた。もしかして、尊敬されている?
でも、勝ったのなんて偶然だし、私の実力のお陰じゃないような気がする。風の弾がクロネのスキル技と衝突して、欠片になって飛んで偶然クロネの頭に当たっただけだもんね。うん、私の実力じゃないな。
「クロネも強かったよ」
「本当か? あたし、強い?」
「うん、強いよ」
「……そうか」
クロネの顔はマントで隠れているけれど、目が嬉しそうに細くなり、しっぽがゆらゆらと揺れている。くっ……猫耳獣人、可愛い!
「でも、強さが足りない。ユナに勝てるほどの力が欲しい」
「どうして、そこまで強くなりたいの?」
「……勝ちたい相手がいる」
クロネに勝ちたい相手?
「それって凄く強い人なの?」
「強い。父上も母上も敵わなかった」
「もしかして、クロネの両親はその人に……」
「大丈夫、殺されていない。でも、下僕になった」
「そうなんだ……」
ある人にクロネのお父さんとお母さんは負けた。そして、下僕になったってこと?
「じゃあ、クロネは両親を助けたいの?」
「それもある。だけど、一番は……勝ちたい。それだけだ」
負けたのが相当悔しかったらしい。ということは、クロネって戦闘狂ってこと? いやいや、戦闘狂は失礼だよね。負けず嫌いってことだよね。
「だから、あたしはユナについていく」
……んん?
「強いユナと一緒にいると、自然と強い敵が集まって来る。それと戦いたい。あと、ユナと一緒に修行したい」
……なんか、唐突に話の流れが変わってない?
「ちょ、ちょっと待って。なんで、そんな思考になるか分からないんだけど……。私はそんなに戦闘しないと思うよ」
「嘘だ。戦っている時の目は戦闘が好きな目をしていた。だから、ユナの傍にいると自然と戦いが発生する」
私を何だと思っているの!? 私がいるだけで、自然と戦が発生するわけないじゃない!
「私はこう見えても平和主義者で……」
「嘘だ。あんな戦闘をする人が平和主義者な訳ない」
「えぇ……」
私っていつのまにかクロネと同じ戦闘狂になったのかな?
「とにかく、あたしはユナについていく」
真剣なまなざしを向けてそう言われた。その真剣さに心が揺らぐ。
見捨てられて孤独だった私に突然現れた同行者。しかも、同じ年くらいの女の子。友達になれそうな人の登場に嬉しくない訳がない。
「じゃあ、これからよろしくね。クロネ」
「あぁ、よろしく頼む」
手を差し伸べると、クロネがしっかりと握手してくれた。これからは賑やかになりそう!
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