表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした  作者: 鳥助
第二章 クロネの事情

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/141

68.アクセサリー

「ふふっ、クロネお姉様とのお出かけ……楽しみ!」


 屋敷の玄関先でエリシアが嬉しそうな顔を見せる。その様子を私とクロネはにこやかに見守り、エリシアを守る騎士たちはとても心配そうに見つめている。


「エリシア様、くれぐれもクロネ様とは離れないでいてくださいね。我々も少し離れたところで警備しますが、くれぐれも!」

「分かっているわ。強い二人が傍にいてくれるんだもの、危ない事になんてならないわ」


 隊長の言葉にエリシアは真剣な言葉を返す。お出かけの時間を作るために、騎士たちには私たちの強さを実戦形式で確認してもらった。その結果、私たち二人が傍にいて離れないという約束だったら、お出かけをしてもいいと言う事になった。


 その隊長が私たちに向き直り、真剣な顔で訴えかけてくる。


「クロネ様、ユナ様……エリシア様の事、よろしくお願いします」

「大丈夫。必ず守る」

「絶対に手出しさせないよ」


 心配している隊長を安心させるように伝えた。公務を頑張っているエリシアのための作った、クロネとの交流の時間。この時間で楽しい思いをして、寂しい思いを消すのが目的だ。


「さぁ、行くわよ!」


 元気のいいエリシアの声が響いた。



 馬車から降りて石畳の道に出ると、朝の陽射しが町を黄金色に照らしていた。


「うわぁ……!」


 思わず感嘆の声を漏らしたのはエリシアだ。彼女の目の前に広がるのは、賑やかな市の光景だった。通りの両側には出店が立ち並び、湯気の立ち昇る屋台や、色とりどりの布地を広げた露店が人々の注目を集めている。


「焼きたてのパイだよ! ベリーもたっぷり!」

「香辛料、香辛料! この地から遠い領から届いたばかりの逸品だよ!」


 威勢のいい声があちこちから響き渡り、町中に活気を与えていた。パン屋の前では長い行列ができており、香ばしい匂いが風に乗って鼻をくすぐる。隣の果物屋では、異国の果物が山のように積まれ、小さな子どもたちが手を伸ばしていた。


 エリシアは目を輝かせながら周囲を見渡し、嬉しそうにクロネの手をぎゅっと握る。


「今日はお祭りか何かなの?」

「いや、これが普通の朝の光景なんだ」

「これが毎朝ってこと!? こんなに賑やかだと疲れちゃわない?」

「いいや。毎日元気が貰える」


 クロネの言葉にエリシアは首を傾げた。いつもいる皇宮と様子が違うから、良く分からないらしい。


「こんなに賑やかだとワクワクしない?」

「するわ! なんか、走り回りたい気分よ!」

「流石に走り回るのはダメだけど、色々見て回ろう。何か興味があるものはある?」

「えーっと、えーっと……あ、あそこなんてどう?」


 エリシアが指差したのは、小さなテントの下で煌びやかな品々を並べているアクセサリー屋だった。


 日差しを受けてカラフルな石のついた髪飾りや、繊細な細工のペンダントがきらきらと輝いている。木箱の上にはリングやイヤーカフが整然と並び、見るからに女の子心をくすぐるものばかりだった。


「ふふっ、エリシア様もあーいうのやっぱり気になるんだ」

「うんっ。いつも見ている物と違って、なんか可愛い!」

「じゃあ、あそこを見ようか」


 エリシアはクロネの手を引っ張って、嬉しそうに店先へと駆け寄った。私も後ろからゆっくりとついていき、周囲に目を配る。露店の周囲は比較的すいていて、近くには警備の騎士の姿も見える。これなら大丈夫そうだ。


「いらっしゃい、お嬢さんたち。自由に見ていってね」


 店番の女性は、獣人の耳をぴょこんと揺らしながら笑顔で迎えてくれた。この市は獣人が多くて、癒しがいっぱい……。はっ、いけない。しっかりしなくっちゃ!


「わぁ、どれも見たことない! とっても可愛い!」

「皇宮では売られていないものだからな。市井に合うように作られているんだ」

「クロネお姉様、そんな事も知っているの? ふふっ、以前は鍛錬の事ばかりだったのに」

「家から離れて、色々と見て回ることが出来たからな。それが結構楽しかった」

「へー、クロネお姉様も変わったのね」


 以前はそんな感じだったんだ。でも、なんとなく想像がつく。


「うー、どれにしよう。悩むなぁ……」

「手伝おうか?」

「ううん! 自分で気に入った物を選びたいの!」


 それからエリシアは真剣にアクセサリーを選び始めた。その間、周囲に危険がないか確認する。近くにいた警備の騎士と目が合うと、大丈夫だと頷いてくれた。


なら、アクセサリー選びに集中しよう。せっかくの機会だし、私も何か気に入ったものを――そう思った瞬間、ふと視線の端に留まった一つの小さなアクセサリーがあった。


 それはネクタイピンのような形をした、控えめな金具。中央には夜明けの空のような、深い青の石がはめ込まれていた。澄んだ色なのに、どこか静かな力強さを感じさせるその青に、私は思わず手を伸ばしていた。


 手のひらに乗せて光に当てると青い石はほんのわずかに輝き、まるで本物の空を封じ込めたみたいだった。


(……これ、クロネに似合うかも)


 ふと、そんな考えが胸に浮かんだ。あの人のマントに、きっとこの青はよく映える。戦う姿のクロネはいつも凛としていて、美しくて――でもどこか寂しげな横顔に、この小さな光を添えたら、ほんの少しだけ柔らかく見えるかもしれない。


 気づけば、私はクロネの方へと近づいていた。無意識のまま、手の中のアクセサリーをそっと持ち上げて、クロネの胸元にかざしてみる。


 やっぱり、ぴったりだ。静かな青が重なり合って、まるで最初から彼女のために作られたみたい。これは、絶対に買いだよね。心から、そう思った。


「決まったわ、これにする!」

「じゃあ、あたしはこれ」

「私も!」


 それぞれが欲しい物を決めると、それを店主の女性に渡した。それからクロネが精算を済ませると、エリシアはすぐに自分の髪にアクセサリーを付けた。


「どう、似合う?」

「似合っている」

「うん、可愛いよ」

「本当!? 騎士たちにも見て貰うわ!」


 可愛い動物の形をしたアクセサリーを付けてエリシアは嬉しそうに騎士たちに近寄っていった。あんなに無邪気になって可愛いなぁ。


 その後姿を微笑ましく見ていると、肩を叩かれた。振り返ると、クロネが先ほどのアクセサリーを差し出している。


「えっ?」

「これ……ユナに似合うと思って」


 そう言って差し出してきたのは、白く輝くパールの髪飾りだった。淡い光を放つ小粒の真珠が、花のように円を描いて並び、中央には小さな銀色の葉が添えられている。可憐で、でもどこか芯の強さも感じさせる、そんなデザインだった。


「わっ、可愛い! クロネが選んでくれたの?」

「……うん」

「なら、私も! これ、クロネのマントに付けたら似合うと思って」

「あたしに?」


 そう言って、先ほどのピンを差し出す。お互いにアクセサリーを交換すると、それぞれに付けてみる。私は髪に、クロネはマントに。


 そのお互いの姿を見て、私たちは笑い合った。


「クロネ、似合ってるよ!」

「そういうユナこそ。……なんか、こういうの友達みたいだな」

「何言っているの。もう友達でしょ!」


 私がそう言うと、クロネはほんの一瞬、目を見開いた。けれど、すぐにふっと視線を落とし、マントに付けたアクセサリーを指先でそっとなぞるように触れた。


 そして――


「……あぁ!」


 その顔を上げたクロネは、これまでに見たことがないほど柔らかな表情をしていた。どこか子どものような、でも心から嬉しそうな――そんな、満面の笑みだった。


 まるで心の奥から湧き上がってきたものが、そのまま顔に現れたみたい。飾り気のない、自然な笑顔。


 その笑顔に私の胸が温かくなって、私も自然と笑っていた。

お読みいただきありがとうございます!

面白い!続きが気になる!応援したい!と少しでも思われましたら

ブックマークと評価★★★★★をぜひよろしくお願いします!

読者さまのその反応が作者の糧になって、執筆&更新意欲に繋がります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ