64.クロネの事情
エリシアに連れていかれたところは、なんとこの領の領主の屋敷だった。もしかして、この屋敷の主の娘? と、思ったけれどそうじゃないみたい。
屋敷で働く者たちはエリシアを領主以上に丁重に扱っていて、ここの領主らしき人は目上の人と会っているような対応をする。
一体、この子は何者? そんな子にお姉様と言われるクロネは? 私の中でどんどん疑問が膨らんでいく。
あれから、二人はあまり話さないし……。もう逃げないって分かったから、落ち着ける場所で話すつもりなのだろう。
そんな事を考えていると、広くて豪華な応接間に連れてこられた。エリシアはまるで自分の部屋のようにくつろぎ、フカフカのソファーに座る。
「さぁ、クロネお姉様。事情を聞きましょうか」
ふんす、と鼻息を荒くしてエリシアは腕組をしてそう言った。私たちもソファーに座り、クロネを見た。クロネは少し困っているようで、耳が少しだけ伏せているし、しっぽも元気がない。
「事情は伝えたはずだが……」
「『強くなって戻って来る』って、あんな手紙で誰が納得すると思っているの!? なんとなく、やりたいことは分かるけれど……。突然、いなくなるのはやめて」
「……ごめん」
エリシアの強い口調にクロネがしゅんとした。どうやら、クロネは突然いなくなったらしい。それだと、心配して怒っているこの状況も頷ける。
「クロネは妹を残して、家を出たの?」
「いや……エリシアは妹ではない」
「実質、妹よ!」
えっ、どっちが言っている事が正しいの? 二人の関係が分からな過ぎて混乱する。すると、エリシアが私をじっと見てくる。
「……あなた、何も知らないの?」
「クロネが勝ちたい相手がいるから強くなりたいっていう事くらいしか」
「クロネお姉様ったら一緒にいてくれる人に何も喋ってないの!? それは、ちょっと失礼じゃない!?」
「いや、あたしはあまりそういうことを言いたくなくて……」
「それだと、この方に迷惑がかかるかもしれないじゃない! それは不誠実っていうものよ!」
エリシアは強い口調で訴えると、クロネの体が小さくなる。どうやら、その自覚はあったらしい。チラッとクロネが私の様子を見てくる。その姿はとても申し訳なさそうな様子だ。
すると、エリシアがソファーから降りて、可愛らしくドレスを摘まんでお辞儀をした。
「申し遅れました。わたくし、ルベリオン帝国第一皇女のエリシア・ルベリオンと申します」
「えっ……王女様っ!?」
嘘っ、こんなところに皇女様が!?
「そして、事情を話さなかった不誠実なお姉様はルクレシオン公爵家の息女です」
えっ、クロネが公爵家の息女!? ど、どうしてクロネが……。いや、でも……所作は綺麗だし、もしかして良いところの子なのかなっと思っていたけれど……。
驚いてクロネを見て見ると、クロネは顔を片手で覆って天を仰いでいた。とうとう、バレてしまった。そんな風に言っているようだ。
「あ、あの……私、馴れ馴れしいことを!」
「いいのよ、気にしてないわ。ただ、私たちの立場を知らないのは不誠実だと思ったからだから」
なんか、凄い気の強い子だなって思っていたけれど、王女様だからだったのか。だったら、色んな疑問が晴れる。
「まぁ、私がお姉様って呼んでいるのは、父親同士が義兄弟の契りをかわしているせいね。わたくしの父を義兄として、クロネのお父様を義弟としてね」
「そ、そういう訳なんですね」
ということは、国王と公爵が義兄弟っていうことになるよね。なんだか、凄い組み合わせだなぁ。
ん、待って。そんな凄い人なのに、クロネはお父さんは下僕になったって言っていた。公爵が……下僕?
「あの……クロネのお父さんは下僕って聞いたんですけれど」
「あぁ、その事情ね。それは――」
「それは自分から話す」
エリシアの言葉を遮って、クロネが発言した。クロネはこっちを見たが、すぐに申し訳なさそうに目を逸らす。
「以前、この国で政変があったって言ってたよな。その政変で国の二位と三位が入れ替わったんだ」
「う、うん……」
「二位は教皇、三位は騎士団長。そして、あたしの父上は……騎士団長だったんだ」
クロネのお父さんがこの国の三位で騎士団長、だった?
「騎士団長の座を実力で奪われたばかりじゃなくて、家をその人に乗っ取られた」
「そ、そんな簡単に家が乗っ取られるの?」
「騎士団長という座を命がけで奪い合った結果だ。命だけは助かったけれど、他の物を捧げなくちゃいけなかったんだ」
「それで家を……」
命がけの決戦の果てが下僕と公爵家の乗っ取りだったってこと? 命が助かったのはいいけれど、払う代償はとてつもなく大きく感じる。
ん、じゃあ……クロネの勝ちたい相手って――。
「クロネは今の騎士団長に勝とうと思っているの?」
「あぁ、そうだ。私の目標は――バルガに勝つこと。そして、奪われたものを取り返す」
バルガ……その人がクロネの勝ちたい相手。クロネの目標はとても大きそうだ。
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