62.ランカの捜索
町を堪能した翌日、私たちはこの町にいるであろうランカの捜索に乗り出した。頼りはクロネの鼻と聞き込みだ。
「町から町へ移動しているから、宿屋に泊っている可能性があるよね」
「司教なんだから、教会じゃないのか?」
「ほら、あの話覚えてない? この町はまだオルディア様を信仰しているって。そのオルディア様を信仰している教会が、他教の司教を泊らせたりする?」
「……確かに」
私たちは町の宿屋を順番に回っていくことにした。大通り沿いから奥の方へと、効率よく見ていけるルートを決める。
そのルートを歩いていると、早速一軒目の宿屋を見つけた。
「まずはここから行ってみよう」
見た目はこぢんまりとした二階建て。けれど、入り口の看板は丁寧に磨かれていて、経営者の几帳面さが伝わってくる。
カラン、と扉を開けて入ると、目の前がカウンターだった。宿の主らしき年配の女性が、帳簿をつけている手を止めて顔を上げる。
「いらっしゃい。お泊まりかい?」
「いえ、ちょっとお尋ねしたいことがあって」
私は少しだけ声を落として聞いた。
「最近、この町に獣人の女の子が来ていませんでしたか? 灰色の髪の毛をしていて、狼耳の獣人の女の子なんですけど」
女性は少しだけ首をかしげ、記憶をたぐるように視線を泳がせる。
「んー……狼耳の獣人の女の子は来てないねえ。ここ数日は商人と冒険者ばっかりだよ」
「そうですか、ありがとうございます」
私はお礼を言って、また扉を開けて外へ出た。クロネがすぐ後ろに続く。
「クロネ、匂いはどうだった?」
「ランカの匂いはしなかった。だから、ここにはいない」
「じゃあ、一軒目は無しね」
いなかった宿屋の名前を記憶して、すぐに違うところに向かう。ここからは根気の勝負だ。
◇
それから、通りにあった宿屋に聞き込みを続けた。だけど、その宿屋も首を横に振るだけで、ランカの情報は手に入らなかった。
クロネの鼻にもランカの匂いは引っかからず、手がかりはない。そう簡単に諦めきれないので、徹底的に宿屋に聞き込みを続けていった。
そして、聞き込みを続けて言った私たちは――教会の前で座り込んでしまう。
「はぁ……どこにもいないね」
「宿屋の当てが外れたな」
「うん。もしかしたら、個別に屋敷を持っているかもしれないね」
宿屋にいると思ったけど、いなかった。これは考えを改める必要がある。後ろをチラッと見て見ると、教会の扉が見えた。
「国教となっているカリューネ教がまだオルディア様を信仰している場所に来る理由は一つだよね」
「何があるんだ?」
「そりゃあ、国教となっているんだから、信仰する神を変えて貰いたいからじゃない。だから、ここに来る可能性がある」
「そういう理由か。あのカリューネ教の事だ、強引にでも信仰する神を変えようとしてくる」
なぜ、ここに来たのか。その理由を考えると、オルディア様を信仰している考えを改めてもらうためだろう。
カリューネ教が国教となっても、オルディア様を信仰する気持ちがすぐに変わることはない。だから、司教ともある人が各地を周って、改心するように説得をしているのだろう。
「ちょっと、教会の中を見て見よう。もしかしたら、いるかもしれないし」
「そうだな、入ってみるか」
私たちは立ち上がると、階段を昇って教会の扉を開けた。
すると、静謐な空気がふわりと流れてきた。
中は広く、天井の高い造りになっていて、光の差し込むステンドグラスが色とりどりの光を床に落としていた。
奥には祭壇があり、その前に数人の信者たちが静かに祈りを捧げていた。老齢の女性、若い母親、旅の途中らしき男。どの顔にも穏やかで澄んだ表情が浮かび、ここが人々にとって大切な心の拠り所なのだと感じさせる。
この間みた、カリューネ教とは様子が違う。ゆっくりと進むと、横からふわりとした声が聞こえてきた。
「こんにちは。旅のお方ですか?」
声の方を振り向くと、ローブ姿の神官がにこやかに立っていた。まるで迷子を見つけた母鳥のように、どこか安心を与えてくれる佇まいをしている。
「はい、旅の途中で……少し、尋ねたいことがありまして」
「ええ、もちろん。どうぞ、何でもお聞きください」
クロネと顔を見合わせてから、私は少し声を落として切り出す。
「この町に来た、狼耳の獣人の女の子をご存知ありませんか? 灰色の髪で、狼耳があって、背は私と同じくらい……」
神官はしばらく考えるように目を伏せ、首を軽く横に振った。
「申し訳ありません。そのような方を、この教会では見かけておりません」
「そうですか……」
どうやら、この教会にも来ていないらしい。一体、ランカはどこに行ったのか? もう、ここにはいないのか? そんな事を考えていると、奥の扉が開いた。
「全く、何を考えているんだ! あの司祭は!」
怒鳴りながら誰かが出てきた。気になってそちらを見て見ると、見おぼえのある服装を見かけた。あれは、カリューネ教の神官が着ていた服装だ。
オルディア様の教会にカリューネ教の神官がいた。もしかしたら、ランカがいるかもしれない。私はクロネの手を引っ張って、その集団に近寄っていった。
先頭をカリューネの神官が歩いていて、その後ろに鎧を着た人達がいる。ランカはどこかな?
――その時、クロネの手が引っ張られた。
「この匂い……」
「えっ?」
目を見開いて驚いているクロネ。一体、なんの匂いを嗅ぎ取ったんだろう?
私はもう一度集団を見ると、その集団の下の方に子供の姿が見える。金髪の長髪でウェーブのかかっている。綺麗なドレスを着ていて、まるでお姫様みたい。
私たちよりも年下の子みたいだけど……。そう思っていると、その子がこちらを見て、クロネみたいに目を見開いて驚く。
そして、その子がいきなり走り出し――クロネに抱き着いた。
「クロネお姉様!」
……クロネお姉様?
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