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【書籍化決定】転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした  作者: 鳥助
第二章 クロネの事情

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61.リーネラ子爵領

「B、Bランクの冒険者のタグ、だとっ」

「ほ、本物か?」


 門番に冒険者のタグを見せると、私たちの顔と冒険者タグを見比べてとても驚いているようだ。それもそうだ、十歳の子供がBランクの冒険者のタグを持っているんだから。


「……疑うなら、証明するか?」

「い、いや……すまんな。ちょっと、驚いただけだ」

「気を悪くしたら、すまん。問題ない、通ってもよし」

「……そう?」


 どうやら、普通に町に入れるみたいだ。とにかく、何事もなくてよかった。私たちはそのまま門を潜り、町の中に入っていく。


 町に入ると、賑やかな様子が目に入ってきた。


 石畳の道の両側には店が並び、色とりどりの布を張った屋台が連なっている。焼きたてのパンの香ばしい匂い、スパイスの効いた煮込み料理の湯気が立ち上り、人々の活気とともに町全体が生きているように感じた。


「なんだか、ずいぶんにぎやかだね」

「……今日は市か何かか?」


 クロネが鼻をひくひくさせながら、屋台を一つずつ見ている。普段クールな彼女が、ちょっとだけ楽しそうにしているのが目に見えて分かった。


 果物を並べた露店では、赤く熟したリンゴや、異国風の紫色の果実が山のように積まれていた。道ばたの大道芸人が火の玉を操るたびに、子どもたちが歓声を上げている。


 とても楽しい光景に心が躍る。こんな町は初めてで、色んな所に目移りしてしまう。そんな時に、露店の商店の前に獣人を見かけた。


 身長は私たちより小さくて、獣タイプの獣人だ。


「ねえクロネ、あれ見て。あの獣タイプの猫の獣人がいる!」

「ほんとだ……。小さいからぬいぐるみかと思った」

「生きてるよ。しっぽ、ちゃんと動いてる」


 帽子をかぶった猫は、どうやら商人のマスコットらしく、首元に値札を下げてちょこんと立っていた。その可愛らしい風貌に思わず近づいてしまう。


「ニャー、いらっしゃい!」


 すると、満面の笑みで迎い入れてくれた。か、可愛い! 普通の猫が二本足で立って、喋っているだけなのに、どうしてこんなに可愛いの!


「おじさんのお店は冷たいアイスを売っているニャ! とっても、とっても美味しいんだニャ!」


 精一杯紹介をするその様子も可愛くて……! 語尾にニャがつくのはデフォなの!? 獣タイプの獣人のデフォの属性なの!?


「味はミルクとフルーツがあるニャ。ミルクはまろやかな甘味があって美味しいし、フルーツはさわやかな感じで色んなフルーツが入っているからお得感があるニャ」

「買う! だから、手に触ってもいい?」

「ニャ? お客さん、獣人のもふもふが好きなのかニャ?」

「うん、好きー!」

「私ももふもふされるのが好きニャ! 買ってくれるなら、いくらでももふもふしてってにゃ!」


 わー、いくらでももふもふ!? 差し出された手を恐る恐る掴むと、その毛の感触を楽しむ。撫でたり、押したり、やっぱり撫でたり。この毛の感触……堪らない!


 その時、鋭い視線を感じた。


「……ユナはそういうのがいいのか?」

「はっ! いや、これは決して浮気じゃなくて!」

「ふーん、散々あたしをもふもふしていたのに……そっちの方が」


 ジト目でクロネに見つめられると、心が痛い! だって、そこにもふもふがあるんだから、触りたくなるのが自然なんだよ!


「もう、触らないのかニャ?」

「ふーん」


 目の前で可愛らしく首を傾げる子とジト目で見てくるクロネ。この状況……辛い! こういう時は――!


「おじさん! アイスを二本!」


 ◇


「わー、美味しそうなアイスだね」

「……なんか、ごまかされているような」

「き、気のせいだよ! さっ、食べてみよう」


 近くにあったベンチに腰かけると、買ったばかりのアイスを食べる。


 ミルク味のアイスは、濃厚だけどさっぱりしていて、口の中にやさしい甘さが広がっていく。クロネのほうはフルーツ味。いちごやオレンジの果肉が入っていて、見た目もカラフルでおいしそうだった。


「んー、やっぱりミルク味にして正解だったなぁ」


 とろけるような甘さにうっとりしていると、隣から視線を感じた。やっぱり、まださっきの事を気にしている? そう思ってチラッと見ると、私のアイスを見ていた。


「……もしかして、食べたい?」

「いや……別に……」


 いやいや、とても欲しそうに見てたでしょ。時々、素直にならないのは一体なぜなのか? ここは、私が一肌脱ぎますか!


「クロネのフルーツのアイス、美味しそうだね。そっちも食べたくなっちゃった。お互いに交換しない?」

「交換? ま、まぁ……それなら」

「やった! ありがとう!」


 お互いのアイスを交換した。受け取ったアイスに齧りつくと、先ほどとはちがうさわやかな味が口いっぱいに広がる。


「こっちも美味しい! クロネはそっちのアイスはどう?」

「ん、美味しい」


 そう言って、クロネはちょっとだけ顔をほころばせた。表情の起伏が弱い彼女が、こうして自然に笑ってくれると、なんだか胸がきゅんとする。


 さっきまでジト目で怒ってたくせに、アイス一つで機嫌が直るなんて、ちょっと可愛いじゃないか……なんて思ってたら、今度はじっと私を見つめ返してきた。


「な、なに?」

「……ユナと食べると、何でもちょっと美味しく感じる。不思議だな」

「そ、そう?」


 その言葉に心の奥がぽかぽかして、アイスの冷たさなんてすっかり忘れてしまいそうになる。


「私も、クロネと一緒だと楽しいよ。さっきは、ちょっと浮気っぽく見えたかもしれないけど、あれは違うからね?」

「ふっ……許す。今日だけ、特別に」


 クロネはそう言って、小さくアイスを舐める。その仕草が妙に可愛らしくて、私は思わず笑ってしまった。


 ベンチの横では、通り過ぎる人々の賑やかな声が響いている。空にはふわふわと雲が流れ、暖かい日差しが私たちを包み込む。


 町の喧騒の中で、アイスを食べるたった二人の時間はとても楽しい。

お読みいただきありがとうございます!

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わりと急ぐ旅だったような? ところで猫獣人ょぅι゛ょはおいくらですか?
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