60.強くなるには
私が作ったオルディア様の像は、村の広場にしっかりと根を下ろした。
石造りの像は両手を広げて優しく微笑み、祈る者を迎え入れているような姿。屋根付きの小さな祠も併せて作ったので、雨の日でも祈れるようになっている。
像が完成した時、村の人たちが次々に駆けつけて、自然と祈りの声が響いた。中には涙ぐんでいる人もいたくらいだ。
「これで……また安心して暮らせる……」
「本当に、ありがとうございます……!」
口々に礼を言われて、なんだかくすぐったい気持ちになる。
男爵も深々と頭を下げてきた。
「君たちには、どれだけ感謝しても足りない。君たちが来てくれて、この村は本当に救われたよ」
その言葉に心が温かくなった。これで安心して旅立てる。
村を発つ時、村人たちが総出で見送りに来てくれた。
「気をつけてなー!」
「オルディア様の像、大切にします!」
「お姉ちゃんたちにこれあげる!」
その時、小さな子が花で作った冠を私とクロネに被せてくれた。とても可愛く綺麗な花冠を貰った私たちは嬉しくて笑い合ってしまった。
「じゃあ、さようなら!」
「また」
私たちは見送りに来た村人たちに手を振って、その場を離れた。
◇
村を離れたところで、ホバーバイクを出して、それに乗り込む。私が座席に座ると、クロネが後ろの座席に後ろ向きで座ってきた。
「あれ、珍しいね」
「今日はちょっとな」
なんでだろうっと思っていると、後ろ向きのクロネのしっぽが嬉しそうに揺れていた。何がそんなに……そこまで考えるとハッとした。
花冠が嬉しかったんだ。走ると花冠が落ちるかもしれないから、今日は素直にホバーバイクに座ったみたい。
「へー、可愛い所あるね」
「ムッ、可愛いとはなんだ」
「ふふっ、別に」
クロネは可愛いと言われるのが好きじゃないみたい。それでも、ついに言いたくなる。
頭にちょこんと乗った花冠はクロネを可愛く見せてくれて、これは新感覚だ。その後姿をずっと見ていたいけれど、ホバーバイクを運転しなくちゃいけないから前を向く。
そして、ゆっくりとホバーバイクを浮かして動かした。速いと花冠が落ちてしまうので、そこまで速度は上げない。
草原の風が、バイクに乗る私たちの頬をやさしく撫でていく。浮かんでいるホバーバイクは、まるで空中を泳ぐかのように滑らかに進んでいた。速度は控えめ。
「……」
「……」
その気持ちのいい空気を堪能していると、ぽつりとクロネが呟いた。
「……なんだか、少しだけ不思議な気持ちだ」
「不思議って?」
「誰かに見送られるって、あまりなかったから。……今まであまり人と関わらないで旅をしていたから」
その言葉に、私は思わず振り返りたくなるのを我慢して、前を見たまま口を開く。
「そっか……。でも、見送られるのって、悪くないでしょ? しかも、感謝をされながら」
「うん。……少しくすぐったいけど、悪くない」
クロネの旅はきっと孤独だったに違いない。強くなりたい、という事だけを求めて旅をしてきたから、人との関わりを最低限にしていたみたいだ。
だけど、強くなるには人との関わりは必要不可欠なんじゃないかって思ってしまう。
「一人で強くなるっていうよりも、何かを守りたいっていう気持ちが強くすると思うよ」
「何かを守りたい?」
「自分が強くなりたいっていうより、誰かを守れるようになりたいって思ったときに、一番力が湧いてくると思うんだ」
「誰かを守る……」
そう、ランカにクロネがやられた時……一番力が出た。あれは、守りたいという気持ちがあったからだ。
「怖くても、逃げたくても、それでも踏み出せるのって、守りたいって思った時。だから、守りたい誰かがいる限り、もっともっと強くなれる気がするんだ」
「それが、強くなれる秘訣……。そうか、あたしは一人だったから……」
クロネの言葉に力がこもった。
「だったら、あたしはユナを守る」
「私を?」
「守る気持ちが強くなる秘訣なら、あたしはユナを守る」
クロネって戸惑っちゃうほど正直だね。だから、ちょっと意地悪したくなる。
「守るだけじゃ、ダメだよ。ちゃんと、大切に思うからこそ力が出るってものだよ。私のこと、大切に思わなきゃ」
「ユナはちゃんと大切」
どこまでも真っすぐな言葉が耳に届いた。
「ユナは、あたしにとって特別な存在だ。出会ってからずっと、一緒にいるのが当たり前。すごく安心する」
風の音に紛れそうなほどの、でも確かな声だった。
「ユナと一緒にいる時間……全部が、あたしにとってすごく大事。だから、ユナが傷ついたり悲しんだりするのは、嫌だ。絶対、守りたいって思う」
真っすぐな言葉に、心が一気に熱くなってくる。だけど、背中にいるクロネの顔が見えないのが、今は逆にありがたかった。
「……な、なにそれ。そんなの、ズルいじゃん……」
顔が熱くなるのをどうにもできなくて、私は視線を逸らすように、遠くの空を見つめた。
でも、自然と頬が緩んでしまうのは止められなかった。
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