6.猫耳獣人クロネ(1)
茂みから現れたのは、私と同じ年に見える猫獣人だった。よく見ると、大きな二本の剣を背中に背負っている。
一体、何が目的で現れたんだろうか? 不安に思いながら見ていると、その猫獣人が話し始める。
「お前、強いな」
「えっ?」
「そいつの名前はヴォルグレイ。Aランクの魔物だ」
「Aランク? それって凄いの?」
「並みの冒険者が束になっても勝てないような相手だ」
私、そんな魔物と戦っていたの!? 今になって、恐怖がまたこみ上げてきた!
「そんな相手に無傷で勝つのは、普通じゃありえない。それも、こんなに小さな子供がな」
「何よ! 偶然だっていいたいの?」
私だって頑張って考えて戦ったんだから。ありえないって言われると、傷つくよ。
ムッとした表情で睨むが、その猫獣人は全くそ知らぬ顔だ。
「戦い方を見ていた。お前、不思議な魔法を使うな」
「えっ。まぁ……普通とはちょっと違うけど」
「ちょっと? 大分違うように見えた。第一に詠唱を唱えていない。詠唱を唱えないと魔法は発動しないはずだ。どうして、詠唱無しで魔法が使えた?」
この子の目的ってそれ? 魔法の事が知りたくて出てきたのかな?
「私、詠唱を使った魔法が使えないんだよね。だから、直接魔力を変異させたの」
「直接魔力を変異? そんなこと、聞いたことがない。どうして、そうなった?」
「どうしてって……どうしてだろう? 私も分かんないや」
「分からないのに使っていたのか。……お前はアホだな」
「アホって何よ! それに、私にはねユナっていう名前があるのよ!」
「ふーん」
ふーんって!
「私も名乗ったんだから、あなたも名乗りなさいよ」
「どうしてあたしが……」
「いいから、名乗りなさい!」
「……クロネ」
どうやら、この猫獣人はクロネというらしい。中々可愛い名前じゃない?
「それで、クロネは私に何か用なの?」
「用ならある。あたしが狙っていた獲物を倒したな」
「狙っていたって……クロネはあの魔物を倒したかったの?」
「自分の実力を計るためには絶好の相手だった。だけど、ユナが現われて魔物の意識がそっちに向かった。無防備に歩いたせいだ」
そっか、クロネはあの魔物と戦いたかったんだね。
「その魔物を倒した私に文句を言いに来たの?」
「そうじゃない。ユナ……私と戦え」
「戦えって……どうしてそうなるの?」
「あたしは強くなりたい。誰よりも強くなる必要がある。だから、自分よりも強そうな相手と戦いたい」
そういうとクロネは背中に差した剣を引き抜いた。
「さぁ、あたしと戦え」
「そ、そんなこと急に言われても困るよ! それに戦ったら怪我だってしちゃうし、とっても痛いよ?」
「怪我が怖くて戦ってなんかいられない。私は強くなるんだ。その為に、ユナ……あたしと戦え」
鋭い眼光が私を射抜く。この雰囲気……逃げられない。だけど、私と同じ年みたいな子と戦うなんて無理だよ!
「私、戦わないよ!」
「だったら……戦わせるだけだ!」
クロネは地面を蹴ると、私との距離を一気に詰めてきた。これは……危ない!
咄嗟に全身を魔力の膜で覆って、防御魔法に変異させた。その瞬間、クロネの大きな双剣が私に振り下ろされる。
ガキンッ!
双剣は私の体を傷つける事はなかった。防御魔法がしっかりと働いてくれたお陰だ。
「それが、ヴォルグレイの爪を防いだ魔法だな。その魔法……打ち破ってやる!」
クロネはこの防御魔法が目当てだったらしい。身構える私に向かって、目にも止まらぬ速さで双剣を振るってきた。
その一撃はとても重く、とてもじゃないが同じ年くらいの子とは思えない。
「なるほど、普通の攻撃じゃびくともしないのか。だったら、スキル技はどうだ!」
クロネの瞳が鋭く細められ、次の瞬間、双剣に青白い光が走った。
「《迅雷双刃》!」
まるで雷鳴が走ったような音とともに、クロネの体が視界から消えた。そう感じた刹那、私の目の前に現れたクロネの姿に、背筋がぞっとした。
双剣が光を纏ってうなりを上げ、一直線に私の防御魔法を斬り裂こうと襲いかかってきた。
ドガァンッ!!
衝撃で地面が抉れ、私の身体が軽く浮いた。
「嘘!」
防御魔法は耐えたけど、衝撃で立っていられなくなった。今の一撃、ヴォルグレイの攻撃よりも重い! クロネ……強い!
「さすがに壊れないか。だけど、あと数発食らったらどうかな!」
クロネは目を輝かせていた。まるで楽しんでいるように……いや、真剣そのものだった。
「ちょ、ちょっと待ってってば! 私、本気で戦いたいわけじゃないの!」
「なら、本気を出せ! でないと、私が斬る!」
叫ぶ間もなく、クロネが再び跳びかかってくる。仕方がない、ここはクロネを気絶させてこの戦闘を終わらせよう。
私が手を構えると、嬉しそうなクロネの声が聞こえてくる。
「ようやく、やる気になったな! どっちが強いか、勝負だ!」
クロネの姿がまた消える。一体、どこから……!
「《迅雷双刃》!」
背後から聞こえてきた声に私は勢いよく振り向いた。クロネが剣を振るタイミングに合わせ、手に魔力を集中させて、風の弾を解き放つ。
ドガァンッ!
二つの攻撃が重なりあい、轟音と衝撃が辺りに広がった。
「ぐっ!」
次の瞬間、クロネの体がグラリと傾き、地面の上に倒れた。良かった、私の風の弾が勝ったみたい。
戦闘を終え、緊張から解きほぐされた。一息つくと、倒れたクロネを見る。唸り声を上げて、立てないみたいだ。
このまま去る事は出来るけど、クロネの事が気になって見捨ててはおけなくなった。結局、クロネを介抱することにした。
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