55.襲われた村
「もう……こんなにヘトヘトになるまで走らなくても良かったのに」
「ハァッハァッ……修行、が」
「ホバーバイクに乗りたくなったからでしょ?」
「そ、それは……」
どこまでも続く道をホバーバイクで移動する。後部座席には、クロネが後ろ向きで座って息を切らしていた。
この不思議な乗り物が怖くて、乗りたくなかったクロネはずっと走ってきた。だけど、とうとう体力が切れてしまい、渋々後部座席に乗らせた。
「こんな宙に浮く乗り物……いつ暴走するか分からない」
「暴走ってこんな風に?」
バイクの速度を上げると、後ろに乗っていたクロネが私の腰にしがみ付いてくる。
「速い、速い!」
「いやいや、クロネはこれ以上の速さで移動出来るでしょ」
「自分の足で移動するのと、乗り物で移動するのは、別だ!」
そうなのか? 不思議に思うけれど、そうなのかもしれない……と無理やり納得させた。
速度を落として道を進んでいくと、畑が見えてきた。どうやら、近くに村があるらしい。
「ねぇ、近くに村があるらしいよ」
「そうか。今日はそこで一晩泊まるか?」
「そうだね。大分走ってきたし、そろそろ休憩したいよ」
そんな事を話していた時――目に入ってきた光景に目を見開いた。畑が荒らされていて、作物がダメになっていた。
「畑が……。一体、何があったんだろう?」
「これは酷いな。あそこに人がいる、聞いてみよう」
荒らされた畑には村人と思われる姿がいて、呆然としているように見える。私たちはその畑に近づき、ホバーバイクをマジックバッグにしまって、村人に話しかけた。
「すいません。畑はどうしたんですか?」
「えっ? あ、あぁ……いきなりワイバーンの群れがやってきて、畑も家も無茶苦茶にしたんだよ」
「こんな所にワイバーンが?」
クロネは周囲を見渡して何かを確認していた。
「近くにワイバーンが住む山や崖がない。一体どこから現れたんだ?」
「分からない……。突然現れたんだ……」
「もしかして、最近噂の魔物が増えたっていう話が影響している?」
「可能性は高いな。魔物が増えて、居場所を失ったワイバーンが新しい居場所を求めてここまできたかも」
魔物が増えるとそんな事が起こるなんて……。
「そのワイバーンはどこに?」
「村の方に行った。だから、怖くて村に行けなくて……」
「そうか、分かった。後の事は任せろ」
「任せろ? 君たちは子供だろう?」
私たちの姿を見て、不思議そうにする村人。その村人に冒険者のタグを見せつけた。
「それは、Bランクの!」
「そういうことだ。あとはあたしたちで片づける」
クロネがそういうと、私たちは村へと向かっていった。
◇
村へと足を踏み入れた瞬間、私たちは息を呑んだ。
瓦礫と化した建物の残骸が無残に広がり、辺り一面に破片が散乱している。家々の屋根は根こそぎ吹き飛ばされ、壁は鋭利な爪で切り裂かれたように裂けていた。まるで巨大な猛獣が暴れまわったかのような――いや、それ以上の破壊力だった。
焦げたような黒い跡もあった。恐らく、ワイバーンの吐いた火炎の痕だ。まだ煙が立ち上っている家屋もあり、村全体が悲鳴を上げているように感じられた。
風が吹くたびに、割れた窓ガラスの欠片がカラカラと音を立て、破れた布が揺れていた。辺りには村人たちが呆然と立っている。怪我もしているようで、苦しむ声が聞こえていた。
「……ひどいな、これは」
クロネが低く呟いた。その声には怒りと、どうしようもない無力感が混じっていた。
「こんなことを……」
私は拳を握りしめた。これほどの惨状を見せつけられて、黙っていられるはずがない。
この村を襲ったワイバーンたちはまだ近くにいるのか。でも、ワイバーンの姿はどこにもない。もしかして、もう村から去って行ってしまったのだろうか?
「あっちから、ワイバーンの匂いがする」
どうやら、ワイバーンはまだこの村に留まっているみたいだ。
「行ってみよう。もしかしたら、誰かが襲われているかもしれない」
「うん、早く行こう」
私たちはワイバーンがいるかもしれない方向に走って行った。
◇
村の中を走って行くと、大きな塀が見えてきた。その塀に付けられた門の近くには数名の人がいて、恐る恐る塀の中を見ているようだった。
「何があった?」
「屋敷にワイバーンが取り付いているのよ」
「屋敷に?」
メイド姿の人に話しかけると、メイドは屋敷を指差した。門から屋敷を見て見ると、大きな屋敷にワイバーンが張り付いている様子が見れた。
ワイバーンは屋敷の中を気にしているのか、窓に顔を突っ込んだり、壁を壊したりしている。その数は十以上。
「あぁ、中に妻と子供がいるのに……! やっぱり、私が行って追い払わなければ!」
「旦那様、お気を確かに!」
どうやら、この屋敷の主がここにいるみたいだ。とても心配そうに屋敷を見た後、無謀にも屋敷に近づこうとする。だが、すぐにメイドによって制止させられた。
すると、主は悔しそうに呟く。
「誰か、助けてくれっ! 中に、妻と子供がっ!」
その悲痛な叫びを聞いて、私たちは頷き合った。そして、冒険者タグを見せつける。
「私たちに任せて」
「あのワイバーンはあたしたちで倒す」
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