54.これから、どうする?
教会へ潜入した後、宿屋に戻ってきた。
ランカが黒い影と触手に捕まって消えた後、スウェンという司教のところに連れていかれたのは間違いない。
女性神官の話から考えると、獣化したランカは人間に戻っていた。それは、良かったと思う。だが、その後が不可解だった。
あんな事があったのに、ランカはスウェン司教と共にリーネラ子爵領に行ったという。一体、どんなやり取りがあってそうなったのか分からない。
それにスウェン司教は猿の魔物と通じていたし、黒い影と触手の力を利用していた可能性も高い。正直、スウェン司教がとても怪しい人物にしか思えなかった。
スウェン司教自体がおかしいのか、それともカリューネ教がおかしいのか……全く見当がつかない。もし、カリューネ教がおかしいのであれば……ただ事では済まされない。
一体、私たちはどうすればいいのか。その事で、私とクロネは悩んでいた。
「なぁ、もしランカが自分の意思でスウェンという人に付いていったとしたら……どうする?」
「どうしよう……。猿の魔物の事も知っていたのかな? だって、司教と呼ばれていた人物が魔物と繋がりがあったなんて、こんなのおかしいよ。そしたら、ランカもそれを認めていたことになるかも」
「ランカは全ての事情を知らなかったかもしれない。一部だけ知らされてて、重要な部分は嘘をつかれている可能性も」
「もし、そうだとしたら、放っておけない」
ランカが騙されたっていう可能性もある。もし、そうだとしたら、ランカを助けたい。
「どんな事情があるかは分からない。だけど、あの時ランカは私に助けを求めていた。私はその言葉を信じたいの」
「……そうだよな。ここまで関わって、無関係じゃ終われない」
「いいの? クロネはやることが他にあるんでしょ?」
クロネには勝ちたい相手がいる。その為に強さを求めていたはずだ。私に付き合っていたら、その修行も出来ないのではないだろうか?
「あそこまで首を突っ込んでおいて、自分にはやる事があるから無関係だって薄情な奴にはなりたくないしな」
「……そっか。クロネ、ありがとう。一人じゃ心細かったところだよ」
「なんだ? 一人で行こうとしていたのか? ユナは薄情な奴だな」
「そ、それは……その……」
私はクロネの顔をまともに見られずに、視線を泳がせた。けれど、そんな私をクロネはふっと優しい目で見つめてくる。
「ま、ユナらしいけどな。ちゃんと誰かを思って動ける。だから、放っておけないんだ」
その言葉は、胸の奥にそっと触れるような温かさだった。
クロネは何気ないように言ったのかもしれない。でも、私は思わず、胸がぎゅっとなってしまって、言葉が出なかった。
「そういうクロネだって、周りの事を考えて動いてくれる。そういうところ、凄く尊敬しちゃう」
「そうか? あんまり意識してないから分からない」
「自然とそういう事が出来るってカッコいいよね!」
「……別に、普通だし」
正面からクロネを褒めると、やっぱり照れ臭いのかマントに顔を隠してしまう。だけど、しっぽは嬉しそうに振れている。
「……ふふ、クロネって分かりやすいね」
「そういうユナだって分かりやすい匂いがする」
マントで顔を隠したままのクロネが対抗するようにむすっとした声を漏らす。けれど、その様子が可愛くて、私はつい笑ってしまった。
「じゃあ、お互いの事をちゃんと分かっている感じだね。えへへ、仲良くなったみたいで嬉しい」
「……ほんと、ユナはずるい」
「どんなところが?」
「……なんでも口に出すところ」
クロネは本心を隠しちゃうことがあるからね。だけど、それも少しずつ仲良くなっていけば、良くなっていくんじゃないかなって思っているよ。
「じゃあ、クロネが正直な気持ちを言えるように私が協力してあげるね!」
その距離を縮めるためにも……もふもふは必要!
クロネの後頭部に抱き着き、もふもふの耳を撫でたり、髪の毛をわしゃわしゃしたり。やっぱり、もふもふはいい! 癒される!
「……はぁ。それのどこが、正直な気持ちを言えるようになるんだ。ただ、ユナが触りたいだけだろ」
「だってぇ、もふもふが~……。クロネは触られて、気持ちよくない?」
「……別に」
しっぽがちょっと動いている……。少しは気持ちいいのかな?
「ユナはランカにもこういうことをしそうだよな」
「いいね、それ! ランカも一緒にもふもふしたいー」
「ふーん。浮気するんだな」
「えっ、いや、それは!」
プイッとクロネがそっぽを向いてしまった。つい、正直に言ってしまったから、クロネが拗ねちゃった?
……待てよ、拗ねた? もしかして、嫉妬? 他の子をよしよしするのが嫌ってこと? それって、結構好かれているってことじゃない?
「えへへー」
「……なんで、冷たくしたのに嬉しそうなんだ」
ちょっとクロネが引いちゃったけど、嬉しいから気にならない。この調子でこれからも一緒にいられたらいいな。
第一章、完。
第二章から一日一話十二時すぎの更新になります。
(すごい勢いで書いていたら、手首が腱鞘炎になってしまい、更新頻度を下げざる負えなく……軟弱で申し訳ありません!)
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