53.教会に潜入
「ほら、これで教会に入れるでしょ?」
「なるほど……これはどう見ても神官見習い」
私たちはランカが着ていた神官見習いの服を着ていた。この神官見習いの服、私の魔力で作り出したもの。この服があれば、神官見習いのフリをして教会の中に潜入出来るはずだ。
「あとは極力顔を合わせないようにすること」
「どうしてだ?」
「神官見習いの顔を覚えている人がいるかもしれないでしょ? 指摘されたら、まずいと思うんだよね」
「それは危ないな。分かった、あまり顔を見せない」
私の話を良く聞いたクロネは強く頷いた。そして、なんでもない顔をして双剣を装備しようとする。
「ちょっ、クロネ! 双剣を持っていくの!?」
「もし、敵がいたら手ぶらじゃ危ない」
「そうだけど……。それだと目立つよ。持っていくんだったら、どうにかして隠さなきゃ……」
クロネの双剣を隠すためには……。そうだ! あの手を使おう!
◇
教会の正門を信徒と一緒に通る。礼拝堂に入れば神官が沢山立っており、信徒に礼拝を求める声を掛けていた。
その中を、出来るだけ顔を下に向けて通っていく。神官の近くには近寄らないように、挙動不審にならないように、礼拝堂の外側を進んでいく。
礼拝堂の外側の通路の先に扉があった。きっと、ここが教会の内部に繋がる扉だ。
なんでもない顔をしてドアノブに手をかけて、開いて中に入る。神官に姿を見られたはずなのに、呼び止められなかった。この調子で教会の内部を捜索しよう。
教会の内部は廊下が続いていて、その廊下には部屋が幾つもある。この中から、ランカがいる場所を特定しなければいけない。
「クロネ、お願い」
「任せろ」
クロネを先頭に廊下を進んでいく。クロネは鼻をヒクヒクと動かして、ランカの匂いがするか確認しながら進んでいった。
すると、廊下の角を曲がって神官が姿を現した。まずい! 私たちは廊下の端によって、頭を下げて、通り過ぎるのを待った。
ドキドキしながら待っていると、その神官が私たちの前で立ち止まった。
「こんなところで何をしている?」
……怪しまれた? いや、まだ大丈夫なはずだ。
「部屋の掃除を頼まれたのですが、どこに掃除用具があったのか忘れてしまいまして……」
「……新人か? だったら、そこの角を曲がった先に倉庫がある。そこから道具をとって使いなさい」
「ありがとうございます」
咄嗟に出た嘘だけど、これはいい流れ。その神官がいなくなると、私たちは倉庫に向かい、中に入っていた掃除道具を持った。
これで、掃除を理由に部屋に入っていける。クロネと頷き合うと、色んな部屋を見て回ることになった。
手当たり次第に部屋を開け、中の匂いを嗅ぐ。もし、人がいたら「お邪魔になるので、また後で掃除に来ます」と言いながら、やりすごす。
そうやって、次々と部屋を回っていった時――ある扉の近くに行くとクロネの動きが止まった。
「あの部屋から、薄っすらとランカの匂いがする」
「本当!? じゃあ、入ってみよう」
とうとう、ランカの匂いを見つけた。飛びつきたい衝動を抑え、その部屋を開けると――そこには誰もいなかった。
「誰もいない……」
「だけど、この部屋に獣化したランカの匂いが残っている。それにこの香の匂い……ランカと猿の魔物についていた匂いと同じ」
「じゃあ……ランカも猿の魔物もこの部屋に居たってこと?」
二人の接点はこの部屋にあった。だったら、ランカは猿の魔物の事を知っていた? でも、そんな様子はなかったし……。
やっぱり、例の神官がランカと猿の魔物と接点があったと考える方が自然だ。
「ねぇ、他に人の匂いはする?」
「……する、男性の匂い」
「じゃあ、それが神官の匂い。でも、当人たちはいない……。ランカはどこに行ったの?」
ここから匂いを辿ってみる? でも、匂いがどこまで残っているか分からないし……。とにかく、ランカを探さなくっちゃ。
そう思った時――部屋の扉が開いた。驚いて後ろを振り向くと、女性の神官が中に入ってきた。
「あなたたち、ここで何をしているの?」
「あの、掃除を……」
「掃除? そんなの頼んだ覚えは……。あなたたち、一体誰? 神官見習いの服を着ているけれど、その顔は見たことがないわ」
しまった! 神官見習いの顔を知っている人と出会ってしまった。
その時、クロネが瞬時にポケットに手を突っ込み、そこから双剣を取り出す。そして、双剣をその女性神官に突きつけた。
「きゃっ!」
「……言え。ここにいた、神官とランカはどこに行った?」
「ど、どうしてそんなことを!?」
「いいから、言え。言わないと……」
クロネが双剣を付きつける、女性神官は怯えた表情で口を開く。
「ここにいたスウェン司教様は視察を終えられて、この教会を去って行ったわ。その時、神官見習いの服を着た狼耳の獣人の子を連れて行ったわよ」
それって、獣化が解けて普通に戻ったっていう事?
「ランカを無理やり連れ去ったのか?」
「無理やり? いいえ、ちゃんと話を聞いて従っていたわ」
あんな事があったのに、ランカはその人の話を聞いて従っていた? じゃあ、ランカは全てを知っていたの?
「スウェン司教はどこに行った」
「えーっと、リーネラ子爵領に行ったわ。あそこはまだオルディア教を名乗っているから、その信仰する神を変えるように説得しに」
「分かった。ユナ、何か他に聞きたいことは?」
「大丈夫だよ」
そういうと、クロネは双剣をポケットにしまった。その瞬間、女性神官は緊張が解けたのかその場に座り込んでしまう。
もう、ここには用はない。私たちは急いで、教会を出て行った。
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