50.猿の魔物
狼は唸り声を上げながら、こちらを睨んでくる。その狼の影に先ほどの影がスッと入っていった。狼と猿の魔物は仲間って事?
でも、あの狼はランカかもしれないし……。一体、これはどういうことなの?
不可解な点が多すぎて少し混乱していると、クロネが口を開く。
「あの猿の魔物から、香の匂いがした」
「それって!」
「あぁ。町に出没した魔物はあの猿の魔物で間違いない」
町を騒がせていた魔物が猿の魔物で、その猿の魔物は狼の仲間かもしれないし、その狼はランカかもしれない。でも、ランカはどうして狼の姿になったのか、なぜ私たちに攻撃を仕掛けてきたのか。
なんだか、ごっちゃになってきた。
「とにかく、あの狼を黙らせよう。そして、猿の魔物は退治する」
「それがいい」
「今回は防御魔法をクロネにかけるよ。敵は強いみたいだし」
「……分かった。今回は甘んじて受けよう」
クロネに強い防御魔法をかけた。これで、並大抵の攻撃なら防げるはずだ。でも、二体の攻撃は強い。だから、油断せずにいかないと。
「ガァァァッ!」
その時、狼が吠えた。こちらを睨みつけ、今度はゆっくりと歩いてくる。その圧は凄まじく、恐怖で体が硬直しそうだ。
「来い!」
そんな雰囲気を払拭するクロネの声。双剣を構えて身構えると、狼はこちらに向かって突進してくる。あっという間に距離を詰められ、狼は鋭い爪でクロネを攻撃する。
「ふんっ!」
その爪を双剣で弾き飛ばす。それに気を悪くしたのか、狼は顔を顰めると怒涛の勢いで爪を振るってきた。
素早くも重い爪の一撃、それを連続で繰り出してくる。その攻撃を受け止めようと、クロネも負けじと双剣を力の限り振るい続けた。
「うおぉぉっ!」
「ガァァァッ!」
両者は一歩も引かない。渾身の連撃が繰り返され、辺りに衝撃の風圧が広がる。
その時、狼の影から黒い影が出てきた。その影はクロネに近づき、その影から爪が飛び出してくる。
「させない!」
その腕に向けて、私は火の矢を放った。伸びてきた腕に火の矢が当たり、小さな爆発を起こした。
「ギィィッ!」
黒い影から悲鳴が聞こえる。すると、腕は引っ込んで路地の影の中に消えていった。
あの猿の魔物……厄介だ。いつ、攻撃を仕掛けてくるか分からない。先にそちらを倒していくべきだろう。でも、相手は影の中に隠れる。いつ出てくるか分からない魔物を相手にするのは大変。
何かいい手段は……。そうだ、相手は出てこないと攻撃が出来ない。じゃあ、出てきた瞬間に攻撃が当たるようにすればいいんだ。
私の魔力ならそれが可能だ。路地の影に注意をして見渡す。どこから来ても良いように、手には魔力を籠めておく。
黙って待っていると、後ろから気配がした。振り向くと、影から全身を出して飛び掛かって来る猿の魔物の姿があった。
すかさず、その猿の魔物に魔力をぶつける。魔力はその猿の体に吸いついて離れない。
猿の魔物は私の一撃を食らわせると、また影になって消えていった。また、どこから攻撃を仕掛けてくるか分からなくなった。
だけど、あの猿の魔物には私の魔力でマーキングをしておいた。あとは、攻撃手段だ。
頭上に魔力の塊を作ると、その魔力の塊に私の意思を乗せる。猿に付けた私の魔力に反応するように、システムを組み込む。
その組み込んだシステムがあれば、猿の魔物が影から出てきた時に魔力の塊から自動的に魔法が放たれるようになる。
これだと、神出鬼没な猿の魔物相手に先制攻撃を仕掛ける事が出来る。魔力の塊に十分な魔力を放出し、猿の魔物が出てくるのを待つ。
しばらくはクロネと狼の猛攻の声しか聞こえなかった。だけど、突然頭上の魔力の塊から魔法が放たれた。そして、小さな爆発音がした後、猿の魔物の悲鳴が聞こえる。
「ギギッ!」
爆発で吹き飛ばされた猿の魔物は路地の壁にその体を打ち付けた。これは、チャンス!
私はすぐに魔力を練り上げ、速い風の弾を放った。鋭い風の弾は猿の魔物の肩を貫通し、短い悲鳴を上げる。そして、猿の魔物はまた影の中に消えていった。
もう、影の中に消えたって怖くない。こちらには自動迎撃をしてくれる魔力がある。これさえあれば、どんなところから出て来ても先制攻撃を仕掛けられる。
私は手で魔力を高めながら、次出てくる時を待った。猿の魔物はタイミングを見計らっているのか、中々出てこない。
いっそ、隙を見せる? いや、そんな事よりも先制攻撃を仕掛けた後にトドメを刺す事の方が先決だ。私は意識を集中したまま、猿の魔物が出てくるのを待った。
そして――魔力の塊から魔法が放たれた。
ボォンッ!
「ギィィッ!」
右後方から音と声! 勢いよく振り向き、私は練り上げた魔法を放った。鋭い風の刃が無数に飛んでいく。爆発で壁に叩きつけられた猿の魔物目掛けて飛んでいき、風の刃は猿の魔物を切り刻む。
「ギーーッ!!」
猿の魔物は断末魔を上げ、脱力して地面に横たわった。これで、厄介な猿の魔物は退治した。残りはランカかもしれない狼だけ。
ふと、視線をそちらに向けてみると、激しい攻防が繰り返されていた。
「こっちだ!」
すると、その手を止めてクロネが壁を蹴り上げて、高く登っていく。
「ガァァァッ!」
その後を狼も追って行き、二人はあっという間に建物の屋根まで登って行ってしまった。後を追わなくちゃ! 空中に私の魔力を放つと、その魔力を追って転移していき、屋根まで昇っていった。
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