5.魔力魔法の実戦
その日は一日中魔法の練習をした。お陰で魔法の扱い方は分かったし、魔力を魔法に変異させるイメージもバッチリだ。
それに頭の中で魔物と戦うイメージも出来た。これなら、魔物が現れたって大丈夫!
だけど、時間をかけたせいで辺りが夕日に包まれてきた。今日は移動は諦めて、ここで野宿することにしよう。
焚火を作り、明かりを灯す。テーブルとイスを作り、いつも食べていたディナーを魔力で作り、一人寂しい夜の食事タイムだ。
食事をしていると、森のあちらこちらから魔物の声が木霊してきていた。やっぱり、この森には沢山の魔物がいる。
魔物の事を考えると怖くて堪らない。震える手で食事を終わらせると、今度は寝る事を考える。
どんなものでも作れるのであれば、一人用の小屋もベッドも作れるはずだ。私は魔力を漲らせて、一人用の小屋を作り、その中にベッドを作った。
こんな物まで魔力で作れるなんて凄い。だけど、魔力は殆どなくなってしまった。もう、体がフラフラだ。
魔力の無限の可能性に感謝をしつつ、その日はベッドに倒れ込んで眠った。
◇
「んー! 気持ちいい朝! よし、今日こそこの森を抜けるぞ!」
小屋を出て、気持ちのいい朝日を浴びる。昨日は色んな事があって疲れたけど、一晩眠ると元気一杯!
お腹いっぱい朝食を食べた後、作り出した物を見る。これをここに放置するのは、森に失礼だよね。なんとか処分出来ないかな?
魔力で作ったんだから、魔力に戻すことは出来ないかな? そうとなれば、実験だ!
まず、テーブルとイスに手をかける。そして、意識を集中させる。私の魔力で出来たんだよね? だったら、また魔力になって私に戻ることは出来る?
そう訴えかけると、テーブルとイスに変化が現れた。無色透明になると、その形を変えて、私の手の中に入って来る。この感覚……魔力に戻っている!
テーブルとイスは跡形もなくなり、私の体は魔力で満たされた。
「凄い、凄い! 本当に出来ちゃった! だったら、小屋とベッドも?」
小屋に手をかけて、同じように集中すると、無色透明になり魔力に変化して私の体に戻ってきた。作った物を戻せるなんて、なんて便利なの!
これだったら、失敗を恐れずにどんどん作っていけるわね。次、何を作ろうか迷っちゃうわね。
「あっ、いけない! 森から出るんだったわ!」
つい、色々と考え込んでしまった。今、重要なのは森を抜ける事。
我に返ると、私は意気揚々と歩き出した。
◇
森の進むにつれ、空気が少しずつ重たくなっていく。穏やかだった森の様変わりに、怖くなって身構えてしまう。
恐る恐る足を進めていくと、何かの気配を感じた。
「……なにか、いる」
直感だった。でも、間違いなく魔物の気配がする。嫌な視線が私を狙っている。これはどうやっても逃げられない。ということは、戦わなくてはいけない。
気をしっかりと持って、私は身構えた。
すると茂みから、四つ足の獣がぬるりと姿を現した。毛並みは暗い灰色。牙が長く、目は赤く光っている。狼のようだけど、明らかに普通の動物ではない。
「魔物……!」
心臓が緊張で高鳴る。逃げ出したいけど、逃げちゃだめだ! 立ち向かう力が今の私には必要だ。
「よし……やるしかない!」
姿を現した魔物に向かって手を構える。まずは風の刃。頭の中で素早くイメージを組み立てる。
鋭い、速い、斬れる、音すら切る風!
魔力が一気に集まり、魔力が形を帯びて風の刃となった。その風の刃が目にも止まらぬ速さで魔物に向かっていく。。
シュン!
飛んでいった風の刃は、魔物の体を捉えた! と、思ったのに魔物は一歩後ろに下がり、ぎりぎりで避けた。
「素早い!」
距離を詰められる前に、もう一撃!
「次は三枚刃よ!」
両手に魔力を集中し、三方向に風の刃を放つ。今回は左右と正面、逃げ場を塞ぐ構成だ。
しかし、魔物は予想外の動きをした。なんと、跳び上がって真ん中の刃を飛び越えたのだ。
「嘘っ!? 上に避けるなんて!」
慌てて防御魔法を発動。体全体を包み込む透明な膜を展開する。
「ガァァッ!」
ザシュッ!
魔物が爪で攻撃するが、防御魔法が衝撃を吸収してくれた。けれど、ものすごい勢いだった。あと一歩遅れていたら、切り裂かれていたかもしれない。
「強い! でも、負けない!」
このままじゃ埒があかない。風の魔法は速さについてこれるなら、次は火だ!
火の魔法はまだ練習段階だけど、攻撃力なら風より高いはず。
「いっけぇぇっ!」
手のひらに火種を作り、魔力を注いで大きく膨らませていく。火の玉が膨らんで輝きを増す。
でも、魔物も動きを止めてくれない。今にも突進してきそうな低い姿勢を取っている。
「間に合えっ!」
火の玉を一気に前方に投げ出す。魔物もそのタイミングで突進してきた。
ドゴォンッ!
小爆発のような音とともに火の玉が弾け、赤い炎が地面を焦がす。魔物はその中を無理やり突っ切ろうとしていたが、毛並みの一部が燃え上がっていた。
「やった!」
火に驚いたのか、魔物は距離を取って唸っている。攻撃が効いたのは間違いない。けど、まだ終わっていない。
「……次で決める!」
魔力を限界まで高める。今度は複合魔法! 風と火を組み合わせた魔法。風で加速した火の矢を打ち出すような魔法だ。
「風に乗せて……炎よ、貫け!」
手のひらから真っすぐ伸びる炎の矢が生まれる。風がそれを後押しし、鋭く、速く、まるで閃光のように魔物へ放たれた。
ズバァンッ!!
炎の矢は魔物の顔面に直撃し、大きく吹き飛ばした。地面に叩きつけられた魔物は、呻き声を上げながら起き上がろうとしたが……立ち上がれなかった。
「やった、勝った!」
体から一気に力が抜け、地面に座り込む。呼吸が荒い。けれど、どこにも怪我はない。勝ったのだ、ちゃんと自分の力で!
「魔力だけでも……ちゃんと戦えるんだ」
涙が滲みそうになるのをこらえて、深呼吸する。その時、また嫌な視線を感じた。嘘……まだいるの!?
慌てて周囲を見渡すと、茂みがガサガサと揺れた。あそこから、来る!
手を構え、いつでも魔法が放てるようにした。ドキドキしながら見ていると、茂みを揺らした生き物が現れる。
それはボロボロのマントを羽織った、黒髪に黒い耳が付いた獣人の女の子だった。
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