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【書籍化決定】転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした  作者: 鳥助
第一章 捨てられたけど、万能な魔力があるお陰でなんとかなりそう!

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49/140

49.獣

 悲鳴が聞こえた方向に私たちは走って行った。路地を駆け抜け、現場へと急ぐ。もしかしたら、噂の魔物が出現したかもしれない。誰かが犠牲になる前に、どうにかしないと。


 何度目かの路地を曲がると――その路地には惨劇が広がっていた。


 石畳の地面には複数の人が血に染まり、崩れ落ちていた。胸元を切り刻まれた男、顔を八つ裂きにされた女、壁際にめり込んで動かない者もいる。


 地面や壁一面に鮮やかな赤が飛び散り、どす黒く滲んでいた。濡れたように見えるのは血だ。鉄臭い、濃密なにおいが鼻をついた。


 その中心に――それは立っていた。


 二メートルを優に超える、獣の姿。だが、四つ足ではない。人間のように直立し、強靭な筋肉をまとった狼の化け物だった。


 灰色の粗い毛並みが全身を覆い、太い腕には鋭く伸びた爪がつき、先端にはまだ血が滴っている。背筋を丸めて立つその姿は、まるで人間のようで、だが明らかに人ならざるものだった。


 金色に輝く獣の目が、こちらに気づいて動く。ひとつ、鼻を鳴らした。鋭い牙を並べた口元が開き、低く喉を鳴らす。


「っ!!」


 その鋭い眼光に体が一瞬動かせなくなった。それでも、勇気を振り絞って一歩踏み出す。だけど、クロネがそれを制した。


「待て、近寄るな!」


 慌てて声を上げ、私の前にクロネが立った。その目は鋭く細められ、目の前の狼を警戒していた。


 そのクロネの鼻がヒクヒクと動くと、驚愕した顔に変化する。


「そんな……まさかっ」

「ど、どうしたの?」

「あの狼から……ランカの匂いがする」

「えっ、それってどういう……」


 その意味を訪ねようとして、瞬きした時――クロネの前に狼が立っていた。


「――なっ!?」


 咄嗟にクロネが身構えると、その狼は大きな手を豪快に振るってきた。その手に当たったクロネが吹き飛ばされ、路地の壁に強く叩きつけられる。


 ――これは危険。その一瞬でそう判断した私はすぐに防御魔法を展開した。と、次の瞬間――その狼は私にも手を振るってくる。


 強烈な一撃が私の頭部目掛けて振り下ろされた。だが、防御魔法がそれを弾く。


 目の前の狼はその手を不思議そうに見つめた。なぜ、私が攻撃を受けても倒れないのか不思議に感じているようだ。


 だが、すぐに豹変する。その顔が歪み、牙をむき出しにした。


「ガァァッ!!」


 両腕を振り上げ、目にも止まらぬ速さで爪で攻撃をしてきた。何度も強い攻撃が加えられ、防御魔法が削られていく。


 防御魔法の魔力を上げて、なんとか耐える。だが、狼の攻撃は速い。このままだと危ない。


 その時――。


「《迅雷双刃》!」


 私の頭上からクロネの声が響く。強烈な一撃が狼に当たり、狼の体が吹き飛び、路地の壁にめり込んだ。


「クロネ、無事!?」

「なんとか……」


 私の前にクロネが着地した。狼は壁際にめり込んで、まだ動かない。


「手ごたえはあったんだが……。体はあまり傷ついていないみたいだな」

「そんな……。クロネの必殺技が……」


 クロネのあの必殺技がほぼ無傷だなんて。どれだけ、強い魔物なの?


「でも、それよりも気になる事がある。あの狼からランカの匂いがする」

「じゃあ、ランカがあの魔物の近くにいたってこと?」

「いや、近くにいたというより……ランカそのものの匂いだ」

「えっ?」


 ランカ、そのもの? じゃあ、クロネはあの狼がランカだって言いたいの? なんで、ランカはあんな大きな狼に変身出来たの?


 クロネの言葉が意味不明すぎて頭が混乱してきた。すぐにクロネの言葉を信じることが出来ない。


「ランカはもしかしたら――っ」


 何かを言いかけたクロネの体に衝撃が走る。クロネの顔を見て見ると、その顔が少し下を向く。視線を追ってみると――クロネの右わき腹に鋭い爪が背後から突き刺さっていた。


 えっ?


 あの狼は――めり込んだ壁から這い出て来ていた。だから、この爪はあの狼のものじゃない。だったら、どこから?


 視線を下に向けて見ると――地面から猿の魔物が上半身だけを出して、クロネに爪を突き立てていた。……なんでそんなところに?


 その爪が勢いよく引き抜かれ、猿は地面の中に消えていった。その衝撃でクロネの体が私に倒れてくる。


「クロネ!」

「ぐっ……。一体、何がっ」

「今、回復する!」


 鮮血で染まった右わき腹に手を近づかせて、魔力を集中させる。


「ユナッ!」


 その時、クロネの切羽詰まった声が聞こえた。次の瞬間――頭に向かって鋭い爪が突き出される。


 バチンッ!


 だが、その爪は私の防御魔法で弾かれた。振り向くと、先ほどの猿の魔物が地面に埋もれて、腕を伸ばしていたところだった。


 その猿の魔物は私に攻撃が通じなくて、顔を顰めた。そして、その顔のまま地面の中に沈んでいく。


 よく見ると、猿が消えていった地面は黒く影になっており、その影が自由に動いているように見える。もしかして、影に隠れる事が出来る魔物?


「ユナ、回復した。ありがとう」

「あっ、ごめん!」


 無意識に回復魔法をかけていた。慌てて手を離すと、クロネはしっかりと一人で立ってみせた。


 路地には唸り声を上げる狼、それに影に隠れる猿の魔物。この状況……どうやって切り抜けよう。

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