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【書籍化決定】転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした  作者: 鳥助
第一章 捨てられたけど、万能な魔力があるお陰でなんとかなりそう!

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45.カリューネ教の教会

「むぅ……」


 ベッドに寝転がりながら、クロネのしっぽにじゃれつく。しっぽはゆっくりと上下していて、まるで私を弄んでいるかのよう。


 てし、てし、とそのしっぽに猫の手でパンチをする。だけど、一向に気分は晴れない。


 気になっているのは、やっぱりランカのこと。信仰がないのに、神官見習いになれるなんて……。居づらくなったからっていう理由だけで、そんなに簡単に神官になれるのだろうか?


 ランカが騙されているような気がして、とても落ち着かない。でも、だからスラムに戻れとも言えない。


「あー、どうしたらいいの!」

「……まだ、悩んでいるのか?」


 頭を抱えて叫ぶと、ベッドの端に座っていたクロネが振り向いてきた。私は体を起き上がらせて、訴える。


「クロネはなんとも思わないの? 簡単に神官見習いになったランカの事」

「それは、気になるよ。信仰が絶対のカリューネ教が、信仰のない人を神官見習いにするなんてありえない」

「そうでしょ? だから、ランカは何かに利用されるんじゃないかって思っちゃうの」

「向こうが何を考えているかは分からないけれど、碌な事じゃないと思う」


 クロネは少し深刻そうな顔をして喋った。


「ねぇ。カリューネ教ってどんな宗教なの?」

「あたしも詳しくは知らないけれど、信仰を重視する宗教だ。カリューネ神を信仰し、心からの信仰がないと恩恵は受けられないと言われている。それで信徒たちはその信仰を集めるために、あの手この手を使っている」

「なんか、あんまり良い感じはしないね」

「そうだな。信仰って本来は、心の拠り所のはず。あそこでは、信じること自体が義務になってる気がする。信じない者は排除され、従う者だけが救われる。そんなやり方、あたしは好きじゃない」


 クロネは小さく息を吐きながら言った。その横顔は静かだけど、確かな憤りがにじんでいるように感じた。


「そんな所にいてランカは大丈夫かな? 信仰がないからいじめられたりしないかな?」

「いじめで終わればいいが……」

「えっ、それって危険な目に合うかもしれないってこと?」

「熱心な信徒がいればね」


 ランカに信仰心がないと気づいた熱心な信徒が……。そこまで考えて、首を横に振った。


「ねぇ、一度その教会を見に行かない?」

「教会にか? 見に行ってどうする?」

「本当にランカがいて大丈夫か確かめる」

「……あんまり行きたくはないが、ランカは心配だし。よし、明日行こうか」

「うん」


 本当にランカにとって良い環境なのか、この目で確かめる必要がある。クロネと約束をすると、その日は早く寝た。


 ◇


 次の日、私たちは教会に向かった。教会は町の中心部、広場に面した白亜の建物だった。扉は開け放たれ、広く門戸を開けているように見える。


「見たところ、普通の教会だね」

「教会は普通でも、人間がな……。とりあえず、中に入ってみよう」

「うん」


 石畳を踏みしめて扉を押すとひんやりとした空気と、ほのかに香の匂いが流れ込んできた。中には信徒らしき人々が十数人ほど祈りを捧げていて、広間の中央には巨大なカリューネ神の彫像が据えられていた。


 その像は慈悲深い笑みを浮かべているのに、温かみを感じなかった。オルディア様の像と一緒なのに……どうしてこんなにも違うんだろう?


 私たちはそっと広間の端を歩きながら、辺りを観察する。そこかしこで祈りの声が交錯していたけれど、どこか心がこもっていないように聞こえる。まるで、祈る先を違う感じだ。


 その時、鋭い声が響く。


「信仰とは言葉ではなく、行動だと!」


 私とクロネは思わず立ち止まり、そちらを見た。


 講壇の前には、年若い信徒の少女が俯いて立っていた。十四歳くらいだろうか。その前に立つのは、厳めしい顔をした壮年の神官。白金の刺繍が入ったローブを纏い、手には長い杖を持っていた。


「あなたの祈りには、魂が込められていない! 口だけで唱えるものに、神の恩寵は届かぬ!」

「……す、すみません……」

「謝罪ではなく、信じる心を示せ! この程度の唱和に一日を費やしていては、いつまで経ってもカリューネ様はお喜びにならない!」


 少女の肩が震える。だが、それでも祈りの言葉を口にしようとした――けれど、声は詰まり、言葉にはならなかった。


「……ほら見たまえ。このような弱い心では、神の加護を穢すだけだ。ここに留まる資格すらない」


 冷たい言葉。まるで、相手が人間ではなく、出来損ないの器のように扱われている気がして、胸がぎゅっとなった。


「信仰って……こんなふうに責められるものなの……?」


 思わず呟いた私の声に、クロネがぽつりと答えた。


「信じることを強要する時点で、それはもう信仰じゃない。ただの服従だ」


 これが、信仰のあるべき姿なの?


 私の胸には、言いようのない違和感が渦巻いていた。慈しみも救いも、ここには見えない。ただ恐れと従順だけが漂っている。まるで、信仰が罰と引き換えに与えられているみたいだった。


 こんなに信仰に厳しいのに、信仰心のないランカが神官見習いに迎い入れられている事実に違和感を覚える。


 そこに、違う意図が見え隠れているように思えた。

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