44.ランカの様子
「ランカ、今どこにいるのかな?」
「ランカはスラムに住んでいるんだったよな。だったら、スラムに行ってみるか?」
「うん。ちょっと怖いけど、行ってみよう」
私たちはランカの様子を見に、スラムに行く事になった。人通りのない道を進み、路地の中に入ると、嫌な空気が漂ってきた。
建物の壁はすすけ、崩れかけた家もいくつかある。地面にはゴミが散らばっていて、すれ違う人々の目はどこか鋭く、警戒心を帯びていた。ひと目見ただけで、ここが普通の場所じゃないってわかる。
「……やっぱり、雰囲気が違うね」
「油断するなよ。何が起きても不思議じゃない場所だ」
クロネの言葉に頷きながら、私は周囲に気を配った。ランカは一体、どこに住んでいるんだろう?
ランカが住んでいる所も分からないのに、このまま歩き回るのはまずい。誰かに聞かないと……。
そう思って歩いていると、壁に寄りかかっている女性がいた。よし、この人に聞いてみよう。
「すみません、ランカって子、知ってますか?」
「……ランカ? 知っているよ」
「じゃあ、今どこにいるか教えてください!」
「だったら、金を出しな」
その女性は鋭い目つきをして、手を伸ばしてきた。ここはスラム……普通とは違う。私はクロネのマジックバッグの中から銀貨を取り出して手渡した。
その銀貨を見て、その女性は少し嬉しそうな顔をして口を開く。
「ランカは最後に見たのは三日前だよ」
「三日前……私たちが会う前だ」
「他の連中がランカが金を持っているから、巻き上げようとしていたな。知っているのはこれくらいさ。あれから、ランカの姿を見ていない」
「ということは、ランカはあれ以来スラムに戻っていないって事?」
「さぁ、なんの話か分からないけれど。ランカは戻ってないよ。話は終わり」
そう言って、女性は立ち上がってどこかへと去って行ってしまった。
「どういう事? あの後、ランカはスラムに戻っていないって事?」
「ランカの行く場所が他にもあった? でも、そんな様子は……」
「じゃあ、また何かに巻き込まれた?」
「あの連中……まさかランカに手を出したんじゃないだろうな」
私たちが制裁を加えたから、その腹いせにランカに危害を加えた? その可能性を考えると、背筋がゾッとした。嫌な予感が頭をよぎる。
「ど、どうしよう……。私たちのせいでランカが……」
「まだ、そうとは決まっていない。きっとスラムにいれなくなったから、違うところに行っているに違いない」
「じゃあ、他の所を探そう」
「あぁ」
ここで黙ってなんていられない。ランカの無事な姿を見るまで安心できない。私たちは急いで走って路地から出ようとする。
その時、クロネの足が止まった。
「これは……ランカの匂い?」
「えっ、本当!? どこにいるの!?」
「……近くだ。でも……」
「どうしたの?」
クロネが顔を不思議そうな顔をして口どもった。
「いつもとは違う匂いがする。……香の匂いが混じったような」
「香?」
「とにかく、本人に会って確かめる」
「うん、行こう」
再び私たちは路地を走る。そして、路地を抜けた先――見慣れた耳が見えた。
「ランカ!?」
思わず声を上げて駆け寄った。すると、その人物はこちらを振り向く。
そこには、灰色の法衣を纏ったランカがいた。前は薄汚れた服装だったのに、一体これはどういうこと?
「ユナとクロネ?」
「探したよ、ランカ。どこにいたの?」
「えっ、それは……」
「それに、なんだその格好は?」
「そんなに一度に喋らないでよ。訳が分からなくなる」
一見、いつも通りに見える。乱暴をされた形跡はないし、怪我もしてなさそうだ。それに服が変わっているのは、どういう理由で?
色々と変わりすぎて、質問をしたい。だけど、ぐっと堪えてランカの言葉を待つ。
「まぁ、気にしていることは分かる。この格好は神官の見習いなんだ」
「神官?」
「そう。ランカはカリューネの教会にお世話になることになったんだ」
ランカがカリューネの教会にお世話に? カリューネって、国教のあの?
「ランカがスラムを離れた後、神官に出会って、行くところがないなら神官の見習いにならないかって誘われたんだ」
「……それでカリューネ教に入信したのか?」
「入信っていうか、ちょっと身を置かせてもらっているだけなんだ。ほら、あそこにいるとまた絡まれそうだったから、しばらく離れたところにいたかったんだ」
そんな軽い気持ちで神官見習いなんて出来るものなの? 不思議に思っていると、クロネの表情が険しくなる。
「あのカリューネ教がそんなことを許すはずがない。信仰は絶対だ。だから、信仰のないランカが神官見習いなんて……」
「いやいや、ランカを保護してくれた人は優しかったんだよ。ランカの事情を聞いたら、親身になって話を聞いてくれたんだ。まぁ、信仰があるって装わなきゃいないけれど、それくらいの苦労なら問題ないし」
「えっ……それって大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫! あの程度なら、ランカでもやっていけるから!」
あっけらかんと答えるランカ。そんな信仰もないのに、神官見習いなんて……。ランカには難しすぎるんじゃないのかな?
「それだけじゃなくて……おっと! これは言わない約束だった」
「えっ、気になる」
「いや、言わないよ! というか、これが目的だったから、これに惹かれて一時的に入らせてもらったんだよ」
一体、何が目的だったんだろう? 凄く気になるけれど、ランカは喋ってはくれない。
「あっ、話は終わりでいい? ちょっとやる事があるんだよね。じゃあ!」
そう言って、ランカは話を切り上げてその場を立ち去っていった。残された私たちは複雑な気持ちでその後姿を見送った。
ランカ……それって本当に大丈夫なの?
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