43.やっぱり気になる
「よし! 依頼もなかったし、一緒に修行をしよう!」
冒険者ギルドに寄った後、クロネが目を輝かさせてそう言った。
「そうだね。気になった依頼もなかったし、修行して強くなろうか」
「じゃあ、戦いやすいように町の外に行こう! 外なら、どれだけ暴れても平気だからな!」
一緒に修行をすることに決まると、クロネは上機嫌になった。しっぽが嬉しそうに振れているのを見ると、こっちまで嬉しくなってくる。
上機嫌なクロネに引きつられて町の外に出ると、人がいない場所を確保した。
「ユナ、やろう!」
「うん」
「手加減は無しだ!」
「無しでいいの? クロネに防御魔法を張ろうか?」
「それはいらない! 緊張感がなくなって、修行にならない!」
本当に大丈夫かな? あんまり怪我をして欲しくないんだけど……。まぁ、怪我をしたら私が治せばいいしね。
距離を取ると、私は全力の防御魔法を張った。これなら、並大抵の攻撃は受け付けないはず。
「クロネ、いいよー」
「じゃあ、行くぞ!」
合図を送ると、クロネの雰囲気が引き締まった。目を細めて、真剣な顔つきになると、こちらに向かって駆け出してくる。凄く速い!
クロネが勢いよく地面を蹴って一気に距離を詰めてくる。 でも、こちらも準備はできている。
「行くよっ!」
私は胸の奥に魔力を溜め、一気に放出する。放たれるのは、風の矢。空気を鋭く圧縮した魔力の弾丸。それを何発も、矢継ぎ早に連射する!
風の矢が唸りを上げてクロネへと飛ぶ。だけど、彼女はそれを――
「ふんっ!」
身体をひねって、跳ねて、くるりと宙を舞って――すべてをギリギリで避けた!
「うわっ、全部避けたの!?」
どんな身体能力しているの!? 驚いていると、クロネが目の前に!
「《月影舞》!」
目の前にいたクロネがシュンッと消え、無数の斬撃が防御魔法を襲う。この斬撃……以前よりも多くなっている!
無数の斬撃を食らった防御魔法は削れた。だけど、完全には消えていない。これなら、まだ大丈夫! 後ろにいるであろうクロネの方を向くと、すでにクロネは次の攻撃に移っていた。
「はぁぁっ!」
体を宙に浮かばせて、思いっきり捻る。すると、体が素早く回転し、強烈な一撃が防御魔法を襲う。
バチンッ!
防御魔法に大きな歪が出来た。これは、危ない! 咄嗟に魔力を放出し、クロネの体を包み込む。そして、その体を宙に拘束した。
「なっ! この力は!?」
「この拘束から逃げ出せるかな?」
「くっ、このっ!」
宙に浮いたクロネは拘束を解こうともがく。だけど、私の魔力が強いからなのか、そう簡単には外せない。体が動かないように強く拘束していくと、クロネの表情が険しくなった。
「ふっ!」
ここ一番の真剣な表情をして、少しずつ体を動かしていく。その抵抗力に私の魔力が押され始めた。負けてられない!
そう思って、魔力を強めようとした時――あの時の記憶が蘇った。ランカを傷つけた連中を拘束していた光景にそっくりで、ランカの事を思い出してしまった。
あれから、ランカは何事もないだろうか? また、あの人達に酷い目にあわされていたら……。そう思った時、魔力に強い負荷がかかった。
「ふんっ!」
なんと、クロネが私の拘束を解いた。地面に降り立ったクロネはすぐに私と距離を取る。しまった……集中を切らしてしまった。
「今、ユナは手を抜いた。もしかして、手加減した?」
少し不機嫌そうにクロネが言った。
「手加減はしてないよ。ただ、ちょっと考え事をしていただけ」
「今は修行の時間だから、あたしの事だけ考えて欲しい」
「うん、ごめん。もう、大丈夫だから続きをしよう」
気を取り直して、私は手を構えた。すると、それを見てクロネからの威圧が強まる。本気でやらないと、こっちが負けちゃいそうだ。
全速力で立ち向かってくるクロネに向け、私は魔法を放った。
◇
「あー……勝てなかった」
「私の勝ちだね」
草原に寝そべったクロネが残念そうに呟き、私は嬉しそうに笑った。
「でも、クロネは強くなっているよ。私の防御魔法がどんどん削れていったんだもん。凄く冷や冷やした」
「……あたし、強くなっている?」
「うん。前よりも強くなっているよ」
「そうか!」
私の言葉にクロネはとても嬉しそうにした。
「私はどう?」
「ユナは強すぎる」
「あんまり、成長していない?」
「ユナはもっと魔力の使い方を工夫すれば、もっと強くなる気がする」
そうか、私の強さは魔力の使い方にあるのか。だったら、どんな場面にも対応出来るように、色んな魔力の使い方を学ばないといけないね。
「ユナは強いから手加減されていると思って、少しムカついた」
「いや、あれは手加減じゃないよ。ちょっと、思い出しちゃっただけ」
「何を思い出していた?」
「えっと、ランカのこと。あれから会ってないから、どうしたのかなって思って」
「……あたしも気になる」
良かった、気になるのは私だけじゃなかったみたいだ。
「もうランカが酷い目に合う事はないよね?」
「そう願いたいけれど……どうだろう? ……気になるなら、会いに行ってみるか」
「そうだよね、会いに行こう」
そうだよ、遠慮なんてする必要はない。気になるのなら会いに行けばいい。余計なお世話かもしれないけれど、他に力になれる事があったらいいな。
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