41.傷ついたランカ
クロネは路地の中に入った。狭くて入り組んだ路地を素早く進んでいく。
不安な気持ちを抑えて、クロネの後をついていく。どうか、ランカ……無事でいて。心から願っていると、路地を曲がった先に壁に寄りかかるランカを見つけた。
「ランカ!」
思わず声を張り上げて、その体を支えた。俯いたランカは弱弱しく顔を上げて、こちらを見て驚いた顔をする。
「あ、あんた……たちは」
「傷を見せて」
「とにかく、地面に座ろう」
「うっ」
地面に座らせようとすると、ランカが痛みで唸った。そっと地面に座らせて、その姿を見た。
体中に切り傷が出来ていて、その顔は殴られたのか頬が青くなって、鼻血も出ている。だけど、一番重傷なところが他にある。右わき腹に大きな血の染みが出来ていた。
「こんな、酷い……」
「どうしてこんなことになった?」
「別に、いいでしょ……」
「良くないよ! 今、怪我を癒してあげるから」
「余計なことを、しないで……」
その体を触ると、ランカが弱弱しく睨みつけてきた。本人はこう言っているが、見過ごすわけにはいかない。
手に魔力を溜めると、意識して癒しの力に変異させる。すると、手が光だして、その光がランカの傷を包み込む。光に包まれた傷口はスッと消え、血が止まった。
その光景にランカは驚いた顔をした。
「あんた……その力はっ……」
「多分、ランカの思っているような力じゃないんだよね。私のは特別な魔力だから」
「宗教と無関係でこんな力が?」
どうやら、ランカも回復魔法が特別な力だと知っているみたいだ。その力を見て驚いたランカは、傷口をペタペタと触る。
「傷口が……。脇腹の刺し傷もなくなっている……」
「どこか、痛むところはある?」
「……いや、ない。頬の痛みもなくなって……」
ランカの頬に出来た青いあざも消え、鼻血もしっかりと止まっている。ちゃんと、ランカの傷を癒してあげられたみたいだ。
「傷が癒えて良かったよ。それにしても、どうしてランカがこんな目にあったの?」
「ランカだったら、危険なことには首を突っ込まないと思っていた」
「……危険な事に首を突っ込むわけがないでしょ。これでも、自分の力は知っている」
ランカは私たちと同じ年くらいの女の子。ちゃんと、自分の力量は分かっているようだ。でも、そしたらなんであんな重傷の怪我を負っていたの?
「ねぇ、どうして怪我をしたの?」
「……関係ないでしょ」
「もし、犯罪に巻き込まれたりしていたら、力を貸せる」
「……別に犯罪じゃない」
「じゃあ、なんで?」
二人でランカを問い詰めると、ランカの顔がくしゃりと歪む。
「……銀貨」
「えっ?」
「あんたからもらった銀貨を持っていたから」
その言葉を聞いた時、嫌な予感がした。もしかして、作ったお金で本物のお金を貰ったから、それに気づいた人から暴力を受けたんじゃ。
そこまで考えると血の気が引いた。だけど、話はそうじゃなかった。
「……金を沢山持っていたから、スラムの奴らに目をつけられた」
「そ、そうなの?」
「普段はそんなにお金持ってないから。だから、すぐに怪しまれた」
「じゃあ、その怪我は……」
「スラムの奴らがランカのお金を奪うために……」
「そんな……」
ランカの身に余るお金を持っていたせいで、スラムの人達に目をつけられて乱暴をされたってこと?
「どうして、そんなことに!?」
「……あんたには関係ない」
「関係あるよ! だって、私がお金を渡したばっかりに……」
「だから、あんたは悪くない。……ランカがお金を見せびらかしたから」
そう言って、悔しそうに歯ぎしりをした。
「他にもスラムに住んでいる子供がいるんだ。その子供たちにお金を渡して、食い物を買わせた。……それを、悪い奴らに見られたんだ」
「そんな、酷い!」
「ランカは何も悪くないじゃないか」
「いいや、ランカの注意が足りなかった。……いいや、渡さなかったらこんなことには」
そう言って、とても悔しそうな顔をした。きっと、それは本心ではない。ランカは同じ境遇の子供たちを思う気持ちは確かにある。だから、それを否定する言葉を口に出すのがどれだけ辛いことだろうか。
すると、クロネから圧を感じた。ふと、顔を見ると、表情は普通なのに目に怒りが籠っている。
「そいつらはどこだ。あたしが懲らしめる」
「だから、あんたたちには関係のないことだよ……。もう、ほっといて」
「関係なくないよ! だって、もとはと言えば私がお金を渡したばっかりに……」
「あれは、ランカが奪ったもの! だから、あんたが気負うことはない!」
ランカはあくまで自分のせいだという姿勢を崩さない。やっぱり、この少女は性根は優しい子だ。そんな子をあんな目に合わせるなんて、許せない。
すると、ランカは立ち上がり私たちに背を向けた。
「傷を癒してくれたことには感謝している。……じゃ、そういうことで」
「そう言う事じゃない。そいつらの事を教えてくれ。今度はランカに手を出さないように言う」
「言って聞く奴らじゃない。……あたしに力があればっ」
悔しそうに手を握りしめるランカ。何か力になれれば……。そう思っているが、どうしたらいいのか分からない。
私たちはその場から立ち去るランカの後姿を、見えなくなるまで見つめていた。
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